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第12話 最強の派遣者たち

 冒険者ギルドのギルドマスター、ルドルフは瞠目していたその目を開く。

 彼の目の前には3人の最強の派遣者たちの姿がある。


 目の前にいるのは王立騎士団長のグレン、魔極者のグリシャ、そして使徒聖女のリディアであった。

 彼らは一つのテーブルを円状に囲んで座っている。


 冒険者ギルド内は突然の来訪者たちに騒然としていた。

 かつてない緊張感の中でグレンが口を開く。


「アスタロトという悪魔です。口から毒霧を吐く以外は、まだはっきりしたことは分かっておりません。あっどうも」


 ギルド職員が頭を下げながら飲み物をテーブルに置いていく。

 グレンが軽く職員に会釈する。

 彼はどうやら権威を笠に着た嫌な奴ではなさそうだ。


 ルドルフは権威主義者が嫌いだった。

 元冒険者ということもあってか自由を愛し、基本、平等でフラットな関係を好んでいる。

 

「そのような名の悪魔は初耳ですな。口から毒霧を吐く悪魔というのも心当りはありません。それにしても我がギルドに王立騎士団長のみならず、グラズヘイム帝国からは魔極者のグリシャ殿、教会公国からは使徒聖女のリディア様にお越しいただけるとは光栄の極みですな」


 グリシャとリディア、それぞれがルドルフに軽く会釈をしてルドルフもそれに返す。


 その時、ルドルフは目を見張る。

 突如、空中に光り輝く文字が出現したからだ。

 その文字一つひとつが次々に音を発する。


【偽名を使っているかも知れない。悪魔としては大公爵の貴族だ。少なくとも従者を連れていると思われる】


 冒険者たちからどよめきが走る。


 文字発話の魔法だ。

 その様子はまるで魔法のようである。

 いや、実際に魔法ではあるのだが。


 文字発話の魔法を発動したのはグリシャだ。

 グレンの右側に座り、黒のローブで身を包み、両目を白いバンダナのようなものですっぽり覆って隠している。

 グリシャは、盲目で更に耳も不自由な聾啞者でもあった。

 

「本当にアスタロトなら世界が未曾有の被害を被る可能性があるわ。慎重に行動する必要があります。教皇は必要があれば神聖教公軍を派遣する用意があるとも伺っています」


 今度はグレンの左隣に座り、僧服に見を包んだ聖職者のリディアが話す。

 彼女は神聖マリーン教会公国より派遣されてきた聖女である。


「おい、神聖教公軍だってよ」

「まじかよ世界最強の軍隊の一角じぇねえか」


 また外野の冒険者たちからどよめきが走る。


 そこで騎士団長のグレンが片手をあげると――――皆は口をつぐみ辺りはシーンとする。


「いざとなれば他国の軍の力を借りることになるかもしれないが、現状では我が国の軍で対処する方針だ。我々はヤムール国王の王命により今この場にいる。私は全権を王より任せられており、私の言葉は王の言葉と思って聞いて欲しい」

「だからといって他国の私までが、その言葉に完全に服従する気はありませんけどね」


 グレンは使徒聖女のリディアを睨む。

 

「まあまあ、それぞれ別の国の方が集まられていますので、それぞれ主張があるでしょうから。ここにいるのは間違いなく世界最高戦力の一角です。このメンツで対応できなければそれこそ世界最強をかき集めなければ厳しいでしょう」


 ルドルフが気を使って間に入る。

 平静を装いながらも肝を冷やす。

 もしここでグレンたちの間に乱闘が発生すれば、誰も止められるものはいない。


「まあ、王立騎士団長に魔極者に使徒聖女だもんなあ」

「下手したらこのメンツだけでヤムール王国征服できちゃったりして……」

「まあ、見た目はちょっと変わった魔術師に僧女だけどな」


 折角気をきかしているのに余計なことを。

 ルドルフは無駄口叩いている冒険者たちを振り返り、彼らに対して鋭い眼光を向ける。

 冒険者たちはルドルフに睨まれてその目を逸らして、素知らぬ顔をする。


 グリシャもリディアも見た目については、さほど特別感はない。

 街中ですれ違っても振り返るようなものはいないだろう。

 だが前述の通り彼らは世界でも屈指の強者だ。


 障害を持ちのグリシャ。

 彼は魔術師の中でも世界中に3人しかいない魔極者である。

 魔極者、それはすなわち魔導、魔術を極めし者。

 その称号については大げさではない。

 魔極者の戦力はたった一人で小国に匹敵するとまでいわれている。

 魔極者グリシャは世界屈指の帝国、グラズヘイムより至急派遣されてきた人間だった。

 

 次にリディア。

 彼女は世界最大の宗教国家、神聖マリーン教会公国より派遣されてきた聖女である。

 それもただの聖女ではない。一般の聖女より神の加護が強い大聖女よりも更に上位者。

 神の使者として奇跡を認定された、数十年や数百年に一度現れるとされる使徒聖女であった。


 彼らにはギルド内の冒険者たちから、畏敬と畏怖の眼差しが向けられている。


「あ、あの…………」


 そこで一人の冒険者が、恐縮した面持ちで会話に横入りする。


「なんだ?」

「別人かもしれませんが、同姓同名の貴族を最近、この町まで送迎しましたぜ。確か侯爵だった気がしますが……」

「ほんとか! どのような奴だ!!」


 王立騎士団長のグレンが立ち上がり、すごい剣幕で冒険者に迫る。

 ルドルフもつられたような形で椅子から立ち上がってしまった。


「どのような奴か…………侯爵は面長の角張った、どこか人間離れしてたような見た目でした。後は少女みたいな従者を一人だけつれてやしたね」

「住んでいる場所はわかるか?」

「ええ、そこまで荷物を運びましたんで……」

「至急、案内し――」

【アスタロト本人の可能性が高い。冷静になれ。兵を呼び寄せるまで待たないのか?】


 グリシャがグレンの話しをさえぎって問いかける。

 一気に殺気立っていたグレンはグリシャのその声で冷静さをとりもどす。

 グレンは両拳を握りしめて唇を噛んだ後に、


「…………そうだな、兵を呼び寄せよう。町の周囲を包囲させて、包囲が終わったら町の住民たちを避難させて――」

「それから開戦ですわね」


 使徒聖女リディアが口を挟む。

 ピンっとした緊張感がギルド内に立ち込める。

 悪魔たちがどれほどの戦力を有しているか分からないが、戦争が現実味を帯びてきた。


【確認しよう】


 それぞれグリシャに促されるままに一旦ギルドの外へと出る。


【アスタロトが住むのはここからどの方角だ?】


 件の冒険者は一つの方向を指し示す。

 指さした方向を振り向いたグリシャは眉間に皺を寄せ、何かに集中する。


【いたな、ビンゴだ。莫大な魔力を秘めた2人の人物がいる。魔力の質からして魔の者で間違いないだろう】

 

 魔極者グリシャは上空を指差す。

 すると彼の指から眩い光線が放たれ、上空に巨大な魔法陣が刻まれた後――――上空に複数の光弾が出現して、それぞれの別の方向へと向って放たれた。

 連絡魔法だ。


 グリシャはグレンの方へ振り返る。

 グレンは頷いて後を引き取る。


「これで国王にも、待機している王国軍にも知らされたはずだ。じゃあ、すぐに戦闘準備にかかってくれ!」

「了解です。おい、すぐに動けるものは協力してくれ! 市民たちの一刻も早い避難が必要だ!」


 ルドルフの指示にギルド内の冒険者やギルド職員たちは、慌ただしく動きはじめる。


 大空ではグリシャが先ほど光線を発したエリアだけ、雲が消え、それ以外のエリアは大きな雲が悠々と流れていた。


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