プロローグ
背伸びの後、屈伸をして、足首のストレッチを行う。
地面はあまりの大気の温度に一部溶岩化し、大地は一部赤黒の溶岩の海となっている。
現在の大気の温度はおよそ千度前後と思われる。
荒野にはもちろん、生物の存在は確認できない。
それに加えて風速で300メートルを超えるであろう暴風が絶え間なく吹き荒れている。
この風速は小石程度が飛ばされても、生身なら致命傷になるだろう。
この環境に適応するために、常に自身の身体の周りに薄いが強力な膜のようなバリアを、魔法によって張っている。
物理的な目に見える物質だけでなく、目に見えない有害なもの。
例えば過度な紫外線や放射線なども遮断できるようになっている優れものだ。
それに加えて、千度前後の大気によってその身を焼かれないようにする為に、常時氷魔法の効果もバリアに持たせてある。
酸素については生成魔法で常時生成している。
こうした魔法によって半ば質量保存の法則を無視できる所も、異世界のいい所であろう。
このような規格外のバリアを常時張り続けている為、魔力の消費量が半端ではない。
これに加えて、ランニングを今からするつもりであった。
アキレス腱を伸ばし、首と肩を軽く回す。
この星は恒星までの距離が近い。
空を見上げると、恒星の巨大さをまざまざと確認できる。
まるで恒星が迫ってくるような迫力を感じる。
惑星ランニングを続けて、いつか異星人に会えないかと期待しているが、今の所、会えてはいない。
それにはランニング対象としている惑星の環境が厳しく、生命が通常存在しえないことも、もしかしたら関係しているかもしれないが。
例えば昨日は大気の気温がマイナス220度ほどになる惑星にランニングをしに行った。
その時は常時火系の魔法によって体温調節を行っていた。
風については無風だったので、その点では楽で、環境としては今いる惑星の方が厳しいだろう。
だが中には風速が1万メートルを超える星だったり、気温が7000度を超える星もある。
そのレベルの過酷な環境の惑星にはまだランニングにいけていなかった。
「よし!」
ストレッチを一通り終わらせるとランニングを開始する。
風速300メートルを超える暴風は横殴りの方角に吹いている。
吹き飛ばされないように重力魔法も併用する。
最初はゆっくりとしたペースで。
歩くよりも少しはやいくらいのペースで、自身のフォームを確認しながら走る。
特に気を使うのが、靴が直線状に踏みこまれているかどうかだ。
足裏との地面と接地点、着地点がおかしいと膝や足を痛める原因となる。
注意深くフォームを確認しながらしばらく走って、無意識下でフォームが定着してきた所で、若干ペースを上げる。
まだ心肺機能には余裕があり、呼吸も穏やかだ。
代わり映えしない荒野だが、走っているといつの間にか暴風は止んでいた。
ポツポツと上空から液体が地面に降ってきた。
液体は地面に落ちると、少しずつ凝固している。
灰色の液体だ。鑑定魔法で構成要素を確認してみるとそれは鉄の雨だった。
遠視魔法によって確認した所、この惑星の恒星の陽が一番当たる部分は3000度を超えているはずだった。
そこから鉄の雲が暴風によって運ばれてきたのだろう。
バリアによって弾かれてはいるが、その重みを少し感じる。
最初は小ぶりだった雨が本降りとなる。
世界が灰色に変わっていく。
そのような極限の環境の中でもランニングバカである彼は、ペースを徐々に上げていった。
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