大恋愛時代の劇薬
こんにちは、久しぶりになろうに現れました。
暫くカクヨムに籠っていましたが、こちらはこちらで活動再開したいと思います。
環境依存文字がNGであるため、カクヨムと一緒にに投稿することはあきらめました。
それでは、はじまりはじまり
授業終了のチャイムが鳴る。
昼休みを迎え、本日の学園生活も半分終えた。
クラスメートはさっさと仲良しグループに分かれて固まる。
俺の席は扉側の最前列で、昼休みは活きのいいリア充に常に予約されている。多分席替えまで予約は埋まってるんだろう。
新クラスももうすぐ一か月、大分慣れてきた。
このクラスでは、教室の教卓側半分はリア充ないし元気のいい人たちが集まる。
そして、後ろ側の廊下方面に物静かな文化部系が、窓際に根暗なはぐれ者が集まる。
俺は入学以来の友人である鉄内蔵助の正面に座った。
「お、民弥。相変わらず洒落た弁当だな」
「そうか?」
鶏肉と筍の炒め物、菜の花のおひたし、胡瓜の浅漬け、筍と薇と屈の炊き込みご飯。そこまで凝った物じゃないと思うけど。
内蔵助は肩をすくめて、炊き込みご飯を攫って行った。
「いやいや、湯を沸かすのがやっとな俺にはオーバーテクノロジーだぜ」
「米ぐらい炊けるようになっといたほうがよくないか」
「そういうのは美人の嫁さんに任せる」
「ふーん。あてはあるのかよ」
「あったら苦労しねえよ……お、この筍うめえ」
次々に人の弁当を勝手に奪っていく。まあ、これを見越して多少多めに持ってきたから問題ない。でも、完全に俺の弁当を当てにされても困る。この男、昨今はペットボトルの麦茶しか持ってこなくなっている。自分で賄うという選択肢はないらしい。
ただでさえ両親と妹二人分まで作らなきゃならんのだから、少々鬱陶しい。
「嫁か……くそ、折角の好景気だってのに、なんで俺のとこには一件も舞い込んでこないんだ!」
内蔵助は机に突っ伏して不満を吐く。
好景気、ってのは経済の話じゃない。父さんが新聞を見る時の渋い顔から推察するに、経済の安定は遠そうだ。
この天籟学園で起きている、未曽有の現象の事だ。
切っ掛けは、田淵迅馬という男だ。
これがまあ、大層女子衆に囃されるイケメンで、内蔵助曰く「超常的かつ理不尽な幸運に愛された主人公気質のクソリア充」だ。
その田淵は両手に華どころじゃない、華に埋もれて息ができないくらいに引く手あまただったんだが、この間ついに結びついた。
お相手の名前は桐岡得愛。校内三大美少女だとかなんとか、祀り立てられてるどえらい人だ。
校内屈指のイケメンと美少女がくっついたことで、今や校舎内は恋愛ウキウキ地獄と化している。
廊下の隅で、校舎裏の林で、もしくは花壇のベンチで、告白だのラブメイキングだのが厳かに行われている。
誰が名付けたか、この状況を『第二次大恋愛時代』と呼ばれるようになっている。センスの矛先とか、第一次はなんなんだとか、気になることはあるけど調べる気も起きない。
「なーにが大恋愛時代だ。こちとら告白、ラブレター、デートのお誘いから本の貸し借りまで梨のつぶてだ」
「いずこも同じ春の昼過ぎ、ってな。恵まれてるのは一握りだろ、どうせ」
「だよな……民弥、わかってると思うけど、念押しさせてもらうぜ……お前、絶対に恋人とか彼女とか勝手に作るんじゃねえぞ。裏切りは、死あるのみだからな」
目の光を消して言ってくる。
内蔵助をはじめ、校内の非リア充男子が集まる秘密結社がある。俺はそれに強制入会させられた。和気藹々とだべりながら、ひたすら恋愛面で足を引っ張りあうのが活動内容。無断で恋人を作った謀反人には重い制裁が待っている。
脇に汗が染みるのを自覚しながら、俺は誓う。
「わかってるわかってる。必ず言うから、何かあったら絶対に報告連絡相談するから」
「なら、いいさ。ちくしょ、リア充どもめ……」
半泣きで、一番大きい鶏肉をばくりと喰らう。
「少しは遠慮してくれよ」
「ううああああ……田淵め、あの顔に生まれてきたい人生だった」
「死ぬな。俺の弁当に毒が入ってたみたいだろ」
突込みながら、脇の汗が止まらない。
頭の中にあるのは、今朝、下駄箱に投函されていた一枚の手紙。
簡素ながらハートマークの封がされていたそれは、紛れもない愛の劇場への招待状で、場合によっては死因になりかねない劇薬だった。
「内蔵助……もし、俺が告白されるようなことがあったら、真っ先に大親友であるお前に知らせるからな」
「おお、そうしてくれ。安心しろ、俺が絶対にかばってやる。親友、だもんな」
がっちり握手を決めながら、少しでも生存確率を高めようと頭の中で画策するのだった。
『春日部民弥さま
突然こんな手紙を押し付けてごめんなさい。
どうしても伝えたいことがあります。
今日の放課後旧校舎横の空き地に来てください。
待っています。
黒羽甜歌』
『色々紹介』
鉄内蔵助
好きなもの:民弥の弁当
嫌いなもの:モテる奴(リア充でも彼女持ちでも、ちやほやされてなければ許せる)
説明:主人公より先にフルネームが明かされる、今作の友人キャラ。
悲劇的にモテないので、女性からちやほやされる人間を心底嫌っている。来世は雑草になってしまえと思っている。
一言:「俺がモテないのはこの際仕方ない……だが、モテてる奴は全力でこきおろすぞ!ああ、大根に味醂が染みてうめえ」