ここはどこ?
G型恒星の軌道上を流線型の美しい宇宙船が周回している。
残り燃料は大体4日弱か。
「確認するけど、この星系内とかにここから安全に移動できそうな範囲に補給の可能なステーションや、ポート、コロニーは存在しないんだよな?」
「安全の基準値を船長の生命活動維持とするのならばその通りです」
「とりあえずこちらからのデータリンクシステムへのアクセスは切っていい、救難信号だけは12時間おきに発信するだけにしろ。各種レーダー系センサー系戦闘系も探査系のみスタンバイであとはスリープモードでいい。駆動系はワープが危険な以上、ハイパースペースジャンプ機能も星系の詳細が分かるまでは使わない、通常航行のみで運用する。あとは、貨物室や客室も使っていないなら全部閉鎖させる」
アリスに必要最低限のみにエネルギーを割り振った後、警告ログ、エラーログの山の中から航行ログのタブを開き、僕が寝ていた間の星系間ワープについて詳細を確認していく。
太陽系へとたどり着くにはこの船でも合計24回のジャンプが必要だった。
僕が操っているこの船は、サウンドフューガー社製の中型クルーザーシップだ。快速性、ジャンプ距離、小柄ながら十分な船内容量、そこそこの隠密性に優れている、バランスのいい貨客船だ。
外観はきれいな流線型の300系新幹線の先頭車両を宇宙船にしたような形状で後部に安定翼フィンを背負っている。その下にデフォルトでは2基のメインスラスター、その両脇に2基ずつ4基のサブブースターが設置されている。
下手な戦闘艦並みにシールドが高いが、シールドが無くなったときの構造材へのダメージにはめっぽう弱い。それを補ってあまりある高い汎用性が客船乗り以外のパイロットにも人気があり、そんじょそこらの船よりも個性が出て面白い、と思うのは僕のひいき目かもしれない。
僕がやっていたゲームというのは宇宙探索ゲームとでもいうのだろうか。銀河1つを丸々オープンワールドにしたようなゲームで、プレイヤーは宇宙船パイロットになり、惑星調査や、鉱夫、輸送業、旅客業や星系団同士の紛争に傭兵として参加したり、バウンティーハンターや果ては海賊になって銀河系を旅するゲームだ。
同時期にサービスされていた世界的に有名な大規模宇宙船ゲームと違い、誰でもスタートしてすぐに自分の船を持て、他人との余計なしがらみを感じずに宇宙を旅ができるスローライフ的な側面もあり、SFは好きだけどゲームの中にまで人付き合いをするのは面倒といったコミュ障や、めちゃくちゃに宇宙船をカスタマイズのが好きな極一部のゲーマーには受けていたマニアックなゲームである。まとまった情報を得るにもネットにはほとんど攻略情報といったものが無くて苦労した覚えがある。むろん何も目的を持たずにあてもなく宇宙を飛び回るだけでも面白く十分にゲームとしての出来は完成されていたと思っている。
普通の戦闘艦や輸送船なら30ジャンプ以上かかるような距離を24回で済ませられるのもこの船のおかけだ。
エラーログが集中しているのは最後の24ジャンプ目の太陽系へのジャンプだ。
ジャンプをするにはまず、自分がいまいる星系とジャンプ先の星系の距離を各星系ごとに存在する銀河宇宙座標リンクシステムから座標と距離を取得し、その後ジャンプするためのハイパースペース空間に侵入する。
ハイパースペース空間に突入するにはまず次元時空フィールドを船の周囲に張り、主観時間と客観時間を強制的に分断させる。これで、光速の10倍20倍の速度を出しても船が自壊せずにすむようになり、その後ワープをするために自己の存在確率を限りなく薄くし、目的の座標へと送り込む。
もしも次元時空フィールドを張らずにワープを強行した場合、自己の拡散と収縮が不完全になり、次元の狭間に落ち込んで二度と通常空間に戻れなくなる。いわゆるゲームオーバーだ。
突然リンクが切れ、正確なジャンプ座標を取得できず、事前に僕が用意していた星図を用いて太陽系へワープを敢行したが、ワープ先はデータにもない恒星系だった。というわけらしい。
改めて主星となっている目の前の恒星を見る。アリスが言うには、跳躍に失敗し、見知らぬ星系にワープアウトしたと書いてあるが、僕はどうにも妙な既視感が拭えずにいた。
同じG型恒星でも勿論恒星によって色形、デザインは異なっているし、星図まで用意した上でのジャンプだからそうそう別の星系に飛ぶことは考えづらいんだが。
「アリス、とりあえず主星の組成表と各種観測データを見せてくれ。ワープアウト時に不明な星系に出た場合はとっているはずだろう?」
「はい、船長。私の知る限りデータに一致する恒星データは存在しません。恒星の周りを8つの惑星が周回しており、一番外側の軌道は他7つとはかなり異なる軌道面を描いています。」
主星が、何型恒星で、衛星が7つ、いや8つ。でうち1つは仲間はずれ。それどっかで聞き覚えがあるぞ。
「アリス、念のために尋ねるが、その一番外れ以外の衛星はうちから数えて岩石惑星が3つでガス惑星が4つの編成で回っていたりするか?」
「その通りです」
「間違いなく太陽系だよ!」
馬鹿やろう、主星は太陽、衛星は太陽から近い方から、水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星だろ。中学生でも一般常識レベルだぞ。
「ですが、私のデータベースにある太陽系とは質量比、周回軌道、全て私のデータとは合致しません。
太陽系に似ている別の星系の可能性の方が高いと判断します」
なわけねーだろ。こちとら生まれも育ちも地球人だ。あんなでけー衛星が岩石惑星の衛星軌道上にいたりするかよ。シチュエーションだけみたらそっちのがありえないって。
「まてよ、もしかして。アリス、お前のデータと実測値、どれくらいの差があるんだ?」
「最大2,46%の差異があります」
あああああ、そうだった、ゲーム内には誤差が存在しないんだ……。全部真値のみで構成されてるはず、当たり前だよ。そんなの……