ダメ男ホイホイ令嬢は愛されたい
初投稿になります!
温かい目で見ていただけると幸いです。
これは私の持論であるが、
「僕には君じゃなきゃだめなんだ。君がいればもう僕は何もいらないよ。」
といったような甘いセリフを吐く男性にはろくな奴がいない。
この目の前の男の様に。
「あら?その台詞、どこかで聞いた事があるのだけれど。私の気のせいかしら?」
「やぁ、アメリア!今日の君も美しいね!僕の愛しい人!」
たった今別の女性に甘い言葉を掛けていた男が、私に向かって愛しい人だなんて言う。
悪びれもせず、当たり前かの様に。
透き通る様な金の髪に淡いブルーの瞳、整ったパーツがバランスよく配置された顔。
沢山の女性を虜にするイケメンな彼は、記憶がおかしくなければ私の恋人だったはずだ。
先週、今彼が座っているベンチで先程そちらの女性に掛けていたものと同じ台詞を聞いた。
図書室で同じ本に手を伸ばすなんて、ロマンチックな出会いをしてから1週間後の事で、やけに展開が早いなとは思いはしたが、憧れの台詞を前に舞い上がっていた私への罰であろうか。
「ご機嫌よう、ルーカス様。そちらの女性はどなたかしら?」
「あぁ、紹介するよ。こちらはフランチェスカ。僕の愛しい人だ。」
「愛しい人!?」
「あれ、言ってなかったっけ?僕にとっては美しい女性はみんな愛しい人だ。僕は蝶だからね、蝶は美しい花から花へと寄っていくだろう?そういうものさ。君も承知の上で僕の恋人になってくれたと思ったけど、違うの?」
彼の隣の女性がクスクス笑う。
冗談じゃないわ!
「そうだったのですね。存じ上げませんでした。申し訳ないのですが、私には少しばかり理解し難い世界ですわね・・・。残念ですが、私の事は今日限りで貴方の恋人から外してくださるかしら?」
「えー、仕方がないなぁ。正直、君の美しいアクアマリンの様な瞳を間近で見れなくなるのは残念だけれど。わかったよ。さようなら、子猫ちゃん。」
そう言ってまた目の前の女性とイチャイチャしだした彼らを背に立ち去る。
誰が子猫ちゃんですって!
ありえないわ!
今回こそは良い人を見つけたと思いましたのに。
私、アメリア・ジョフランはとても男運が悪い。
基本的に寄ってくる男性は俗に言うダメ男という者たちだ。
親しき友人達からはダメ男ホイホイと呼ばれているくらいである。
なんて不名誉なあだ名だろうか・・・
私自身、ダメ男が好きなわけじゃないので、情報収集をして評判の良くない男性は避けたり、見るからにダメそうな男性もお断りしている。
どうやら私のストロベリーブロンドの髪とアクアマリンのような瞳は幾人もの男性を惹きつけるらしい。
少しでも軽い女性に見られない様、話し方や姿勢などには気をつけ、普段は淑女の仮面をつけているのだが今ひとつ効果は感じられない。
ここアスティエ王国は珍しくも恋愛結婚を推奨していて、婚前のお付き合いには寛大な国だ。
もちろん貞操を守る事が求められているが。
なので、その中でも大丈夫だと思った方とお付き合いしてみたものの、結果は散々だった。
1人目の彼は貞操観念のゆるっゆるな方だった。
肉体関係を迫られたので断り続けていたら他の女性のところに行った。
2人目の彼は金銭目的だった。浪費癖があり借金まみれなところを裕福な私と付き合う事で解決しようとしたようだ。
3人目の彼は自分では何もできない人間だった。
学園で出される課題や授業の準備など、全てを私に頼りっきり。
初めは甲斐甲斐しく世話を焼いていたものの、このままでは双方に良くないと思いお別れした。
そして先程の彼が4人目である。
後で友人に聞いた話だと、最大で7人もの女性と同時にお付き合いをしていたらしい。
こちらから願い下げである。
この男性たちには共通点があった。
それは「君じゃなきゃダメなんだ」と言ってきた事。
実はこの台詞、私の憧れの台詞であった。
そしてまんまと騙された。
あぁ、本当に私だけを求めてくれる男性はいないのかしら・・・
私は愛に飢えていた。
「やぁ、アメリア。どうしたんだい?浮かない顔をして。今日は例の彼に会いに行くんじゃなかったのか?」
「ご機嫌よう、ハロルド様。少し色々ありましたの。よろしければお話を聞いてくださる?」
彼はハロルド・オーブリー侯爵令息、眉目秀麗であり令嬢たちの憧れの的だ。
その上勉強も出来て成績は常に上位、馬術や剣術の腕前も優れているという、まさにハイスペック令息だ。
その地位もあり、世の令嬢たちが放っておかないわけである。
そんなオーブリー侯爵家とは父同士が仲が良く、領土も近いとあって昔から仲良くしている。
いわゆる幼馴染だ。
そして実は彼は私の初恋の人でもある。
小さい頃、鈍臭かった私を放っておかずに側でいつも助けてくれたハロルド。
彼がそばに居るととても安心して、彼の優しさに甘えきっていた。
デビュタントの日、少し早く社交会に出ていた彼がとても人気である事を知った。
沢山の見目麗しいご令嬢達が彼に熱い眼差しを向け、ダンスを申し込みに行く。
私が来ることを知っていたハロルドがダンスの誘いに来てくれなければ、私はきっと彼と話す事もできなかっただろう。
そして私は自分の気持ちを心の奥底にしまい込んだ。
彼には鈍臭くて迷惑をかけてばかりの私は似合わないだろうと。
それでも、今でも時々ティータイムを共にしたりする。
優しくて面倒見のいい彼はこんな私の事も気にかけてくれる。
それが心地よく、嬉しくてつい頼ってしまっている。
もっとも、お互いに恋人がいる期間は会わないようにしているが。
「ははっ、どうやらご機嫌斜めのようだ。いいよ、次の休みの午後はどうだい?」
「ありがとうございます。楽しみにしておりますわ!」
こうして次の休みの日、私は街に出掛けた。
ハロルドとはいつも街中のカフェで待ち合わせをする。
落ち着いた雰囲気のカフェは個室もあり気兼ねなく話すことができる。
「やぁアメリア、遅かったね。ん?走ってきたの?随分と髪が乱れているよ。」
「ちょっと聞いてよハロルド!私、運命の人と出会ったわ!!」
部屋に着くなり私はまくし立てる。
彼とは幼き頃からの仲という事もあり、普段の淑女の仮面は脱ぎ捨て気安く話せる。
「っ!あれ、今日は前の彼の愚痴大会じゃなかったの?」
「あぁ、あんな最低な女タラシのことはもういいわ。それよりさっきね、街を歩いていたらひったくりにあったんだけど、」
「ひったくり!?怪我は!?大丈夫なの?ていうかまた歩いてきたの?馬車は?だからいつも迎えに行くって言ってるのに!」
実はここに来る途中、ひったくりに遭った。
とりあえず追いかけたけれど追いつかず困っていたら、颯爽と現れた男性がひったくりを殴り飛ばしてカバンを取り返してくれたのだ。
「少しワイルドで、でも優しい方だったわ。お礼をしたいと言ったら今度デートする事になったの!!これはもう運命ね!!」
「それ本当に大丈夫なの?」
話しながらも、ハロルドはさりげなく私の空いたカップにお茶のお代わりを入れてくれる。
いつものことながらよく気がつくなと思う。
彼と居ると私の女子力は出番がない。
「今度こそ大丈夫よ!それよりあなたはどうなの?この間一緒にいた可愛らしい子!彼女でしょ?」
「あー、まあね。でももう別れたよ。ていうか俺のことはどうでもいいよ。」
ハロルドはいつも自分の話ははぐらかす。
私の男運の無さはとてもひどいが、彼も大概だ。
詳しくは話してくれないが、ころころと相手が変わっているらしい。
それなのにハロルドの悪い噂は聞かないから不思議なものだ。
そこからは他愛もない話をしながら過ごした。
幼馴染だからか、彼と居る時間はとても居心地が良く、時間が経つのがとても早く感じる。
その事をとても残念に思う気持ちにはそっと蓋をした。
その後、ひったくりから助けてくれた方とお付き合いを始めた。
「街で君を見かけた時、この人だと思ったよ。僕には君が必要だ。君にはずっと隣でいて欲しいんだ。」
なんて告白された日、浮かれて喜んでいた自分を殴ってやりたい。
私は今、街の路地裏にいる。
じっと物陰に身を潜めて時が過ぎるのを待つ。
どうしてこうなったのだろうか?
彼と付き合い始めてから彼の危うさを知った。
少しでも気に入らない事があると苛立ちを露わにする。
そしてとても喧嘩っ早い。
共に街を歩いている時に一度、すれ違う人と肩が当たってしまった事があった。
相手も喧嘩っ早いタイプだったのか、危うく乱闘騒ぎになる所だった。
相手の連れの方と共になんとか宥めて落ち着いたが、その時彼に殴られた。
後で謝られたものの、流石に女性に手をあげる男性は論外だ。
アザが薄くなるまで学園を休む羽目になった。
そして今日、彼にお別れを告げるために会う約束をしていたのだが。
話しをした途端激昂した彼に叩かれ、そのまま宿に連れ込まれそうになったので必死に逃げて来たのだ。
とりあえず路地裏に隠れてみたものの、出て行くのも恐くて動けずにいる。
「もう嫌になっちゃう…。本当に、私って男性を見る目がないのね…。」
彼に掴まれた腕が痛い。
これからどうしようか、夢中で走ってきたので場所がわからない。
迎えの馬車をお願いしているので私がいないとわかると探してくれるだろう。
それまで隠れていられるだろうか?
彼は私を探しているのだろうか?
…無事に帰れるのだろうか。
大丈夫よ、私。
気持ちの切り替えは得意なはずよ。
きっと大丈夫、帰れるわ!
あと少し待ったら出ていきましょう。
きっとなんとかなるわ!
覚悟を決めて、出て行こうとした時だった。
「———リア!」
声が聞こえた。
まさか、見つかった?
物陰に隠れて耳を澄ます。
「———リア、アメリア!」
「っ、ハロルド!?」
どうしてハロルドがここに?
間違いなく、あの声は彼の声だわ!
気がつけば飛び出していた。
息を乱す彼を見て、泣きたくなった。
彼が来てくれたうれしさと迷惑をかけた申し訳なさ、そしてどうしようも無いくらいの安心感。
彼に抱きしめられた時にはその全てが溢れ出してしまった。
「アメリア、もう大丈夫だ。大丈夫だよ。」
そう言って彼は涙が止まるまで抱きしめてくれた。
ハロルドは私が新しい男性とお付き合いを始めた後急に学園を休み、登校してきたと思えば化粧が厚くよそよそしい態度の私を不審に思い、わざわざ彼氏の事を調べていてくれたそうで。
彼の素行の悪さや乱暴な性格を知り、今日も遠くから見守ってくれていたらしい。
「気づかれないように遠くから見ていたのが悪かった。もっとすぐに助けられるような距離にいるべきだったな。痛かっただろう?遅くなってごめんな。」
「いいえ、ハロルド。あなたは何も悪くないわ。すべて私の男性を見る目がないのが悪いのよ。またダメ男を選んじゃったみたいね。」
ハロルドが赤くなった頬に触れる。
痛くないように優しく添えられた手が少しくすぐったい。
「あなたが来てくれてよかった。本当にありがとう。ハロルドは私のヒーローよ、今も、昔も。私、あなたに助けられてばっかりね、あなたがいなきゃだめだめだわ。」
少しおどけて言う。
本当に彼には感謝している。
彼が来てくれなければ私はどうなっていただろう。
「……じゃあさ、ずっと俺のそばにいればいい。」
「…え?」
「なぁ、俺じゃだめか?もうさ、君が誰かに傷つけられたり苦しむのを見たくないんだよ。昔からずっとアメリアの事を見てきた。」
驚きで、言葉が出ない。
「君が好きだ、アメリア。君が、俺の事を男として見ていなくても、ずっと、ずっと好きだったんだ。頼むから、俺のそばにいてくれないか。」
胸の高鳴りは彼に聞こえてはいないだろうか?
夢ならば覚めないでほしいと思うくらい、私にとって都合が良すぎてまるで夢のようで。
私を見つめる彼の瞳に熱を見つけ、頬が熱くなるのを感じながら目を逸らす。
「っ嬉しいわ。でも私、鈍臭くて、あなたに迷惑をかけてばかりで…。もっと美しくて器量の良い女性は沢山いるわ。」
「どれだけ美しくても意味がないんだ。君じゃなきゃ。それに、迷惑なんて一度も思った事がないよ。それとも、やっぱり俺じゃだめか?」
「違う!!違うのよ、ハロルド。私ね、本当はずっとあなたに惹かれてたの。でもいつも迷惑をかけている私はきっとあなたに相応しくないって。でもやっぱりあなたの側にいたくて甘えてばっかりで。本当に私、あなたの側にいてもいいの?きっとずっと、あなたに甘えてしまうわ。」
「あぁ、望むところだよ。他の男に甘えるのは禁止ね、俺だけにして。そしてずっと側にいて。あぁ、やっとだ。絶対に離さないから。」
ぎゅっと抱きしめられたその力強さはまるで全身で気持ちを伝えてくれているようで。
彼の胸にそっと触れて、伝わる鼓動に満たされる。
この幸せを決して離さないようにと、私も彼の背に手を回した。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
○誤字脱字報告ありがとうございました!