ライザー 第4話
あの後俺たちはアーノルドの屋敷に戻り、2人に報告を済ませる。そしてすぐに俺の屋敷へと移動した。
屋敷と言っても俺の魔法研究用にもらった離れのようなもので、俺以外には誰も住んでいない。研究に集中したいのと、余計な物に触れさせないためにこちらは使用人なども雇って居ない。
「ここは俺らしか居ないから何も気にせず自由に過ごしてくれ」
「2人きりとか普通は嫌なんだけど」
「せっかく両思いになったあいつらの邪魔出来ないだろう。それに俺らだって付き合いたてだろ?」
そう言うと流石に何も言えないようで黙るミユ。本当はそんな顔をさせたい訳じゃないのに。どうして俺はこんな方法しか取れないのか。
空気を変えようと思いメイの話題を出す。俺たちの共通点はメイしか居ないのだから。
「さっきのメイの顔みたか? あいつのあんな顔この3年間で初めて見た」
「ええ、私もあんなに驚いた顔見たことなかったわ。鳩が豆鉄砲くらったようなってあんな顔を言うのね」
「鳩が豆鉄砲……? それは何だ?」
俺がそう聞くと、ミユが向こうの言葉を教えてくれる。向こうでのことわざらしく、驚いた時の様子を言うのだそう。
「そんな言葉があるんだな。なかなか面白い」
「こっちの世界でもそう言った昔ながらの言い回しとかあるでしょ? 何かそういったの教えてよ」
「ことわざ。そうだな……『女神に全てを捧げよ』」
「うん? どう言う意味?」
キョトンとした表情も可愛らしい。そうしたふとした瞬間は年齢相応に見える。
「惚れた女には自分の全てを捧げるべきだってことわざだな。……と言う訳だから、俺の全てをミユに捧げる。俺の財産も、知識も魔法もそして愛も全てをだ。俺が惚れた女神様」
そう言って跪き、ミユの手を取りその甲に口づけを落とすと、彼女が真っ赤になり手が震えているのを感じる。
いつか彼女が俺のことを心から受け入れてくれる日が来ますように。そう願いを込めながらそっと口づけた。
◇
「じゃあ俺は一度本邸に戻って食糧を調達してくるから少し待っててくれ。何か食べたいものはあるか?」
「食糧って……あなたが夕飯を作ってくれるの?」
「あぁ。昼間ずっと外にいたから夜は家の方が落ち着くだろ? 肉を焼くぐらいなら俺でも出来る」
「……良ければ私が作ろうか? こっちの味を知らないから口に合わないかも知れないけど」
「作ってくれるのか!? 食べたい! ミユの手料理食べたい!!」
俺が食いつくと少し微笑んでくれる。俺はミユから教えられた材料を本邸の調理場に取りに行く。いつも肉と付け合わせの野菜しか取りに行かないから少し怪しまれたが、彼らはそれを噂するような使用人じゃないから良いだろう。
「じゃあキッチンを使うわね。……ってコレどうやって使うの?」
「これはここのスイッチに触れると魔力が流れて水が出てくる。こっちのスイッチに触れれば火が出る仕組みだ」
俺はそう言って実際に触れて水を出してみるとミユの目が輝き出す。
「すごい! 本当の魔法みたいだわ!!」
「魔法だからな。このスイッチに魔石が埋め込まれているから魔法を使うのが苦手なやつでも扱えるようになっている。ミユに魔力があるか分からないがとりあえず触れてみな。それで魔力があるか分かるぞ」
そう俺が言うと、恐る恐るといった感じでミユがスイッチに触れる。すると勢いよく水が出る。
「わっ! 出た!! 出たけどこれどうすれば良いのよ!! 勢い良すぎて水飛沫が上がってるんだけど!?」
「手を離せ!」
彼女が手を離した途端水が止まる。……もしかしたらミユは魔法への適正が強いのかも知れない。触れれば勝手に出ると言っても、それは魔力を流す練習をした人間が触れればの話だ。
あのメイだって自分の魔力を感じて流せるようになるまで時間がかかった。あれは浄化の魔力だから特殊だが、普通は特訓をしなければ魔力を流せないはずなのだ。だからどうせ出ないだろうと軽い気持ちで触れてみろと言ったのに。
俺がしばらく黙っていると不安そうにするミユが目に入る。
「悪い。魔法ってのは想像力が大事なんだ。だからちゃんとどんな水を出したいかイメージしてから触れてみな。そうすればイメージ通りの水が出てくる」
「もう! 先にそう言うことは言ってよ! コンロの方に触れてたら火事が起きてたわよ!」
そう怒りながらももう一度水のスイッチに触れる。すると今度は手を洗うのにちょうど良い水量が出て、野菜を洗い始める。何か有れば呼ぶように伝えて、俺はリビングのソファーに腰掛けて先程のことを考える。
ミユに魔法の適正があるかも知れない。俺が一言言っただけで見事水の量をコントロールしていた。あれは小さな子供が一番最初に訓練するものだが、普通は2、3日かけてやっと調整出来るくらいなのだ。大人だからとは言え、魔法に全く触れたことない人間があそこまで上手くやれるだろうか。
魔力の測定をしてみないとなんとも言えないが、どうするべきだろう。測定の道具を借りるのも理由が必要だし、魔法だって訓練をしないと危険だ。今の俺にはそんなことをしている時間はない。
とにかくまずはミユをこの世界に留める魔法と浄化の仕事が優先だ。それが片付いたらミユの魔法についてちゃんと調べよう。もし彼女の魔力が高く、魔道士レベルの素質があれば彼女との結婚もスムーズに行くかも知れない。
「ライザーさん! ご飯出来たわよーー! お皿はどこにあるのーー!」
「今行く!」
とにかく今は目の前の彼女との時間を大切にしよう。
「今日の夕飯はハンバーグとスープよ。ミユから聞いてたこちらのご飯に寄せたんだけどどうかしら?」
「ハンバーグなら食べ慣れてる。記念すべき初手料理だな」
俺が皿を出すとミユがよそってくれ、2人でダイニングテーブルに着く。
こちらの味付けに寄せてくれているのも彼女の気遣いを感じて嬉しい。
「うん、上手い!! 味付けも俺好みだ! ミユは料理上手なんだな。今度はそちらの世界のご飯も食べてみたい!」
「ご飯作るのは私担当だったからね。機会があればあっちの味付けでまた作ってみるわ」
ミユが作った物なら何でも美味く感じると思うが、これは本当にお世辞抜きで美味しかった。俺がおかわりをするとミユも嬉しそうによそってくれる。
「胃袋は掴めたみたいね?」
「胃袋? 何だそれ」
「何でもないわ」
彼女の言った言葉の意味は分からないが、彼女が嬉しそうに笑っていた。彼女が笑ってくれるなら言葉の意味なんて知らなくて良い。彼女の笑顔が俺の全てだから。




