ライザー 第3話
「利用しろって……。私はあなたのことなんとも思ってないわ。ただめいの側に居たいだけ」
「そんなの分かってるって言ってるだろ。だからその為に俺のことを利用しろよ。お前が俺のこと好きじゃなくても良い。そんなこと気にするな」
「でも……」
「どうせメイが結婚するまで1人で居るつもりだったんだろ? あっちに特別な相手が居ないなら他に何も気にすることないじゃないか」
ここで彼女を逃したら一生後悔するだろう。彼女のことを救えるのは俺だけだ。メイが気にしてたことが少し分かる気がする。自分が1人の男として彼女に必要とされたいと思ってしまったんだ。
それが例え俺のことを求めるんじゃなくて、メイの為でも良い。彼女がそんな理由でも俺のことを必要として隣に居てくれるなら。
「付き合うって何をすれば良いのよ」
「俺の恋人になってくれれば良い。もちろんお前の心が決まるまで手は出さない。まぁキスくらいならしてもらいたいけどな」
正直に生きる俺は素直に願望を口にする。本当は手だって出したいが、流石に侯爵家にいる身で許可もなくそういったことは出来ない。
「キス……。それであなたはどうしてくれるの? めいの側に居るっていったって、めいはいずれこちらの世界にしか居られなくなるんでしょ?」
「だから俺が誰が忘れたのか? 魔法の腕ならこの国1番のライザー様だぞ。俺がお前もこっちにずっと居られるような魔法を完成させてみせるさ」
「本当に……? そんなこと可能なの?」
藁にもすがる思いなんだろう。か細く弱々しい声だが、少しだけ期待がこもっているのも感じる。
正直言うと可能かどうかなんて分からない。そんな魔法を見たこともないし、もちろん文献だってそんな魔法について載ってすら居ない。
魔法陣を作り替えるどころか、一から全く新しい魔法を作らなければならない。本当にそんなことが出来るか自信はどこにもない。
「あぁ、俺に不可能はない。不可能も可能にしてみせるさ」
しかしそう彼女に宣言し約束する。最初から諦めてたら何も始まらない。
「何であなたそんな自信満々なのよ」
「お前が隣に居たら何だって出来る気がするんだよ。お前がずっと隣に居てくれる方法なら俺は死ぬ気できっと完成させるはずだからな」
そう俺が告げると弱々しかった顔が少し赤く染まる。やっと俺の存在を意識してくれたようで嬉しくなる。
「何で私にそこまでしてくれるの? あなたにとって何の得もないじゃない」
「得ならあるさ。俺はあんたに一目惚れしたんだ」
「一目惚れ……? それだけでそんなこと普通する?」
そう言って俺から逃げようとする彼女の手を取る。あと少し、あと少しで彼女が手に入りそうなんだ。ここで逃してたまるか。
「嘘じゃない。お前が欲しいと思ったんだ。それにお前の寂しそうな瞳を救えるのは俺だけだって、俺に助けてくれって訴えてた。俺のことを頼れよ。利用しろよ」
「利用して良いの? 私は同じ思いを返せないかも知れないのよ。めいのことばっかりで、あなたのことなんか気にしないかも知れない」
「お前に利用されるなら大歓迎だ。それに俺はずっと受け身でいるつもりはないからな。いつかお前が俺じゃなきゃ嫌だって言うくらいに惚れさせてやるから」
「それでも……」
「あぁもうっ! つべこべ考えるなよ。俺にはお前が女神様に見えたんだよっ!!」
そう言って彼女を抱き寄せる。本当はこれは言うつもりなかったのだが、彼女が信じ切れないならなりふり構っていられない。
「女神様……?」
「この世界に伝わる昔話だ。女神はある1人の女に特別な力を与えた、それが聖女であるって話。それに出てくる女神様に見えたんだ。小さい頃にずっとずっと憧れていた女神様が目の前に現れたと思ったら、それが欲しくて欲しくてたまらなくなった」
この世界の住人ならみんな知ってる話だ。子供の頃に絵本で何度も見た。すらりと背の高い女神と、可愛らしい聖女の物語。
俺は小さいながらも、その美しい女神様に憧れを抱いていたのだ。結婚するならこんな美しい人が良いと。
それが現実に目の前に現れたんだ、どうしようもなく欲しくなるだろ?
「それで、お前の本音はどうしたいんだよ。メイの近くに居たいのか、元の世界で1人で生きていくのか」
「私は……めいの側に居たい! どんなことをしても良いからめいの近くに居たいのっ。そこが私の居場所になるから。生きていく理由になるからっ」
「分かった。このライザー様に任せろ。絶対お前の願いを叶えてやる」
「……よろしくお願いします」
そう頭を下げる彼女を抱きしめるとさっそくビンタを喰らわされた。
でもそんなの俺には何も応えない。彼女が手に入ったのだから。
それから俺は自分の話をする。この世界の貴族では交際=婚約となること。だが俺の家は侯爵家で、三男とはいえ自由に婚約出来ないからミユを婚約者として扱えるのは大分先になってしまうことを。
「そんなの全然問題ないわ。私の世界では交際と同時に婚約するなんて滅多になかったもの。それにあなたと結婚出来るとは思ってないわ。私はただの一般の出だもの。だから私はメイの近くに居させてもらえさえすれば愛人でも何でも良いわよ」
彼女はそう言うが分かってない。俺がそんなので済ますはずがないことを。今すぐ彼女を俺の腕の中に閉じ込め、一生外に出したくない。それ程彼女を求めているのに。
すぐには無理だが、彼女がこちらに滞在出来る様になったらすぐに婚約出来る様に整えておこうと決意する。いざとなったら浄化部隊の報酬としてミユとの結婚を許可してもらうのもありだ。
どんな手段を使っても絶対に手に入れてみせる。
そう誓ったのは良いが、まずは彼女をこちらの世界に居られるようにならなければ話は始まらない。
メイの滞在日数が伸びてきているから、タイムリミットはきっと近い。それまでに完成させなければいけない。もちろん浄化の部隊での仕事をしつつだ。
「そろそろ帰るか。メイ達にも報告しなくちゃな」
「きっとビックリするでしょうね。私達の約束事はめいには秘密にして」
「あぁ、分かってるって。余計な心配かけさせられないからな。俺の猛アタックにお前が負けて付き合うことになったってことにしとくさ」
「……うん」
そう頷く彼女の頬がうっすらと赤くなっている。そうして俺のことを少しずつ受け入れてくれたら良い。彼女がこの世界に居れるようになれば時間など沢山あるのだから。
「ミユ! 絶対幸せにしてやるから覚悟しとけよ」
そう言って少し強引に彼女の唇を奪うが、彼女は大人しく受け入れてくれた。
まだライザーの話が続く予定です。




