ライザー 第2話
「メイ、そろそろそちらの美人さんを俺たちに紹介してくれないかな」
それまでの会話なんて聞こえてこない。とにかく早く彼女の声が聞きたくて、宰相様達が去った途端に俺はそう口にしていた。
その俺の物言いにムッとしたアーノルドの顔が視界に入るが、そんなのもう気にしてられない。
「めいからいつも話は聞いています。めいがいつもお世話になっています」
声も想像通りだ。凛とした強さを感じる。しかし本当に彼女が強い人だと俺はもう思えない。
早く彼女と2人になりたい。しかし彼女はきっとメイの異世界での様子を確かめにきたはずだ。暫く4人で過ごしてそのタイミングを伺う。
◇
「なぁ、ここから別行動にしないか?」
「えっ? どういうこと?」
「俺がみゆを連れて自然と離れるから、お前はアーノルドと一緒に過ごせ。夕方あいつの屋敷で落ち合おう」
「えっ、ちょっと待ってよ」
朝市を見終えたタイミングでメイにそっと耳打ちする。そして彼女が反対する前にミユの手を引き転移の魔法を発動させる。
ミユも何か言っているが、とりあえず今はあいつらから離れたいのだ。
「不満なら後で全部聞いてやる。騒いでると舌噛むぞ」
そう言うと大人しくなるミユ。すぐさま王都の近くの森に転移する。ここは邪気を浄化し終えているから安全なはずだ。少し奥まで行けば、人はあまり居ない。
「…………」
「…………」
奥の方まで歩くが彼女は黙ってついてくる。賢い彼女は今ここで俺と離れるわけには行かないと分かっているのだ。
「ここら辺まで来れば誰にも邪魔されないで話せるだろう」
俺がシートを魔法で出し地面に引くと、彼女の目が少し輝いた。もしかしたら魔法に興味があるのか?
「とにかく座れよ。何もしないから」
「ここまで強引に連れてきといて何もしないは今更でしょう」
そう文句を言いながらも大人しく座る彼女。そういう所はメイに似て素直だ。
「こんな所まで連れてきて私に何の用なのよ」
ここまで来たのは彼女の本音が聞きたかったから。果たして彼女は俺に対し素直になってくれるだろうか。
「……なぁ、お前本当は寂しいんだろう? メイが居なくなって心細いと思ってるんじゃないか?」
「そんなことはないわよ。私はメイのお世話をしてあげてただけ。メイが居なくても私は1人で生きていけるもの」
「それは本当に? メイはお前に依存していると言っていたけど、本当に依存していたのはお前の方だったんじゃないのか?」
「…………」
確信をついた話に無言になる彼女。しかしその瞳は心細そうに揺れている。
「俺には無理して強がってお姉さんを演じているようにしか見えないんだよ。本当の気持ちを言ってみろよ。今ここにはメイも居ない。自分に素直になってみろ」
「…………」
俺がそう言っても彼女はなかなか口を開こうとしない。そこで俺は魔法である鏡を作り出す。
俺が彼女の顔をその鏡に写し出すと、そこには今にも泣きそうな彼女の顔が写し出された。
「嘘よ。私はこんな泣きそうな顔なんかしてないでしょ!」
「これは魔法の鏡だということを分かってないな。これはお前自身を映すんだ。お前の心の中を。ほら、耳を澄ましてみな」
『本当は怖い……。めいが居なくなったら私はどうしたら良いか分からない……』
鏡の中の彼女がそう語り出すが、一瞬驚いた様子を見せたものの、彼女は怒り出す。
「嘘よ! こんなのハッタリだわ!! 私はこんなこと思ってない!!」
「本当に? 本当にそうだと言い切れるか? 心の底ではそう思ってるんじゃないのか。俺のことを信用出来ないかも知れないが、どうせ今日だけの付き合いなんだ。全部話してしまえよ」
そう言って俺は黙って彼女を見つめる。これ以上俺が出来ることはない。あとは彼女の気持ち次第だ。
◇
どれくらい時間が経っただろうか。真上にあった太陽も傾いてきた時、流石にもう帰ろうかと声をかけようと立ち上がろうとする。
「めいは私の唯一だったのよ」
俺が動く気配を感じ心を決めたのか、彼女が口を開くのを聞いて元の位置に座り直す。黙って彼女を見つめ話の続きを促す。
「めいから私達が孤児だったこと聞いているのでしょう? あの子と私は血は繋がってないけど、本当の妹のように思ってたの」
そう話し出すと、昔を懐かしむように上を向いて思いを馳せる。その横顔が美しくてつい見てしまうが、彼女は気づいていないようで話を続ける。
「小さいあの子が頼ってくれるのが嬉しくて、私はちゃんとしたお姉ちゃんで居なきゃって思って。でもそのお陰で全部頑張ることが出来たの。学校も仕事も全部。めいが困った時に私に頼れるように、私がちゃんとしておかなきゃって」
「あぁ。偉かったな」
「でもこっちの世界に来てめいは変わった。他に頼る人が出来たんだなって安心したと同時に苦しくなったの。めいは私に依存しているって言ってたこともあるけど、本当に依存してたのは私の方」
そう言うと暫く黙り込む彼女。下を向いて涙を堪えているようだ。そんなことしなくて良いのに。俺ならその弱さも受け入れてやるのに。
「めいがこっちの世界に行くって聞いて、良かったねって応援したけど心の底では喜んであげれなかった。めいが居なくなったら私はもうどう生きていけば分からない。めいが居たから私は生きていけたのよっ」
そう言い切るととうとう膝を抱えて頭を膝に埋めてしまう。
あぁ、やっぱり彼女は無理をしていたんだな。強いフリをして、ずっとずっと耐えていたんだ、本当はこんなにも弱いのに。
めいすら知らないだろう彼女の本音を聞くことが出来て嬉しくて思ってしまう。俺はそんな人間だ。使えるモノなら全部使う主義なんだ。
だから彼女も俺のことを利用すれば良い。俺のことを利用して、俺にもっと頼って依存すれば良いんだ。
「そう思ってるなら俺のこと利用しろよ。俺のことを利用してメイの隣に居れば良い」
「利用するって何をよ。どう足掻いても私とめいは離れる運命なのでしょ。そうしたのは貴方達なくせに」
「あぁ。だから俺が責任取ってお前をメイの隣に居させてやる。みゆ、俺と付き合えよ。俺と付き合えばメイの隣にずっと居させてやる」
そう彼女に告げると、彼女は訳が分からないと言った様子で訝しげに俺を見る。
「俺はこの国一番の魔法使いだ。俺に出来ないことはない! だから俺と付き合うという条件を飲むなら、こっちの世界でメイの隣に居させてやるよ。……さぁどうする?」
果たして彼女はこの条件を飲んでくれるだろうか。俺は人生で最大の賭けに出た。賭けじゃなくて脅しだと? 誰が何と言おうと関係ない。俺は彼女が手に入れる為には手段を選ばないと決めた。
だがもし彼女が俺を選んでくれるなら全力で幸せにしてやるだけだ。
ご覧頂きありがとうございます。まだ続きます。




