ライザー 第1話
ライザーとミユちゃんの話です。
ライザー視点でのあの日の出来事、彼とミユちゃんの間でどういうやり取りがあったのか……。ぜひお楽しみ下さい。
ーー俺はその強くて弱い瞳に一瞬で虜になった。
<ライザーside>
◇
明日はメイの幼馴染兼姉とやらがこちらの世界にくる予定だ。
メイの召喚にも力を使わなくなっているし、おそらく何も問題はないだろうが念のためアーノルドの実家にもう一度立ち寄り、召喚の魔法陣を確認する。
明日の夜にこの魔法陣を隣の部屋から発動させればメイとその連れが来る手筈になっている。
「しかしさすがに事後報告は不味かったな」
実は王へメイの連れが来ることを報告したのは昨日である。
すっかり連絡を忘れていた俺は昨日王様へと報告した。……本当はメイの連れを見てみたくて、わざと報告を間近にしたのだ。
◇
「そういえばメイが連れをこちらの世界に連れてきたいと言っているんですが、よろしいですか?」
「連れを……?」
「はい。向こうの世界でとてもお世話になっている人で、こちらの世界に来てみたいと言っているから連れてきたいと」
「それは今まで前例がないことだが……出来るのか?」
「魔法陣を少し変える必要がありますが、恐らく問題ないかと」
「少し変えるって大問題じゃないか! そんな簡単に変えられるのはお前くらいだぞ!」
召喚には魔法陣を使うのだが、魔法陣は今までの魔術師達が長年の歳月をかけて完成させたものだ。だから簡単には変えてはならないとされている。少しでも狂ったら違う結果を生んでしまうからだ。だから他の連中は失敗するのを恐れて、変更などしないのだ。出来る出来ないの問題じゃなく挑戦しないだけ。
「別に難しくありませんから。失敗を恐れてたら何も生まれませんよ」
「そう簡単な問題じゃないだろう。もし万が一メイの召喚が出来なくなったらどうするのじゃ」
「その時はもう一度魔法陣を変えますから大丈夫ですよ」
俺が自信満々でそう告げると、難しい顔をしながらも納得してくれそうな王の様子にホッとする。これであとは明日だということを隠せれば後で事後報告すれば良いと思ったのだが。
「……ちなみにいつ来る予定なんだ」
「明日です」
やっぱり聞かれてしまった。書かれてしまったからには正直に答えるしかない。
「明日!? それはもうどうしようもないじゃないか!! 魔法陣は前日から用意してるのだろう? お前のことだ、もう魔法陣を変更したのを用意してるな!」
「お察しの通りです。もう変更したものをアーノルドの実家の一室に設置していますので、明日には無事にこちらの世界へ招待出来るよう整えています」
「お前は本当に……。今回は見逃してやるが次はないからな」
どうやらわざと報告していないのもバレバレらしい。それはそうだろう。だが、俺が今この国で1番の魔術師だから王様も強くは出てこない。それを利用させてもらっているのだが、俺はメイとは違い使える権力や能力は全て使わせてもらう主義なのだ。
◇
「お前が強引に話を進めるなんて珍しいな。そこらへん上手くやるのがお前だったのに」
そう話すのは俺が所属する部隊の隊長のアーノルドだ。隊長と言っても彼とは幼馴染のようなもので、そんな畏まった関係ではない。
「お前の方がメイの幼馴染とやらを気にしていたもんな」
彼は聖女であるメイに想いを寄せている。公言はしないが誰から見ても明白である。おまけにメイも彼のことが気に入っている。側から見たら早くくっつけば良いものを、お互いに大切に想いすぎてなかなか騎士と聖女という関係から動けずにいる。
「メイが向こうの世界で大切にしている人だろう? 気にするのは当たり前じゃないか。会ったらお礼を述べ、こちらの世界でも大切にすると約束しなければいけないだろう」
メイはいずれこちらの世界に住むことを決心してくれた。彼女が唯一向こうの世界で心残りとなるのが、幼馴染の彼女だ。だから彼はちゃんとその幼馴染にもケジメをつけようとしているらしい。真面目な彼らしい考え方に思わず苦笑してしまう。
「お前はメイの父親かよっ。そんなんだから距離を縮められないんだろ。このままだと誰かにあっという間に奪われるぞ」
あれだけ周りには牽制してるくせに、本人には全く伝わってない。あの鈍感娘にはもっとハッキリ伝えないと分からないのに。
俺がそう言うと少しムッとした様子の彼の様子にホッとする。あいつが王城で俺たちの話を聞いてたことは分かっている。メイは気づかなかったようだが、魔力が漏れ出てるのに俺が気づかないはずがない。
もっと焦れば良い、焦って早くその気持ちを彼女に伝えてしまえ。3年間頑張ってきたんだ。今彼と彼女がくっついてとやかく言う奴は居ない。そんな奴が居たら俺が黙らせてやる。
俺はただ親友で戦友の彼と、可愛い妹分の幸せを願っていた。その妹分が連れてきた彼女に恋をするなど誰が予想しただろうか。
アーノルドが用意した部屋のベッドに魔法陣を設置してその部屋を出る。これでメイ達が眠りについたらこの部屋に召喚が済んでいるはずだ。
◇
翌朝も朝早くアーノルドの屋敷に行き、メイ達の準備が出来上がるのを待たせてもらう。今日は王都を案内する予定だし、自分の魔法に自信があるとはいえ、ちゃんと魔法陣が機能したか確認は必要だ。
アーノルドとメイの幼馴染とはどういう人かあれこれ想像しながら待つ。
「きっとメイと同じタイプの人なのだろうな。姉と言っているから歳上だとは思うけど、おっとりしたタイプかな?」
「あぁ。俺らにとってはきっと歳下だろう? 俺は気強い女の方が好きだからな。メイの友達にはあんま期待してないさ」
俺がそういうとあいつは少し不機嫌そうにする。メイが俺と結婚したいんだと勘違いしてるからだろう。俺はそれに気づいているが、あえてあいつを刺激する。
しかし彼女達が入ってきた瞬間そんなことは頭から消えてしまった。
トントントン。
「聖女様達の準備が出来ました。入室してもよろしいでしょうか?」
「あぁ、通してくれ」
侍女の言葉に宰相様が返事をする。その声を聞きドアが開かれるとメイが入ってきて、その後ろに彼女は続いた。
一瞬にして目が奪われる。スラッとした女性にしては高い身長と、その強い瞳に。
メイを守ろうと、そして異界の地でも気丈に振舞おうとする強い意思を秘めた瞳に引き込まれた。しかし俺は気づいてしまったんだ。その強い瞳の奥に隠された弱い光を。
強さに隠れて注意しなきゃ気づかない、心細いと訴える瞳に気づいてしまった。その瞬間俺には彼女しか見えなくなっていた。
ご覧頂きありがとうございました。
続きます。




