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 遠藤が四十沢を連れてやってきたのは、葉月と修練場に行く途中にあった大きな湖だった。山の中にある巨大な水溜まりの外縁には遊歩道が整備されており、三六〇度あらゆる方向から湖を見渡せるようになっている。

 温泉街方面から見た時に奥になる位置まで来た遠藤と四十沢は、物々しい雰囲気のまま会話を再開する。

「俺は元々自衛隊に所属していた」と四十沢は切り出した。「それも一般隊員ではなく、世間にも極秘にされた特殊部隊だった。……当然、そんな環境で続けていられるのは極々一部の超人共だけでな。俺は逃げ出した」

「……まあ、そういうところがあるんだろうってのは否定しねえよ。誰かがヤバい部分を担当しなきゃ、この世界は回らねえからな」

「だが外れクジを引かされるのも往々にしてそういう人間だ。俺はあの場所を捨てて自由になったつもりでいたが、そこで繋がれた鎖は呪いのように俺を締め上げる」

 抽象的な言い回しだったが、遠藤はすぐに意味を解した。「表の世界じゃ生きられなくされたか。だから、こんな掃き溜めみてえな場所で泥水啜ってる訳だな」

「ああ。すでに光の当たる場所に戻るのは諦めた。……ただ、それならば少しでも生きやすくしたいと思ってな」

「……?」

「ここからが本題だ。俺は徒党を組む事にした。同じように表から爪弾きにされた者達を集めてな。遠藤克己(かつみ)、俺は君をスカウトしにきたんだ。手始めに、単純に戦う力に優れた人間が必要だ。俺達と共に来る気はないか?」

 四十沢の喋り方はやはり平坦だ。だが、そこに嘘偽りがない事は分かる。分かってしまう。今、彼は遠藤という三流の出来損ないを本心から必要として勧誘している。

「……わざわざ休業中の俺を訪ねたのは、簡単に誘いに乗りそうな有料物件に見えたからか?」

 遠藤が突き放すように言ったが、四十沢は首を横に振った。

「君自身にはもう少し前から目をつけていた。このように今接触を図ったのは、休業が理由ではあるがな」四十沢は透き通りそうな湖の表面に視線を移す。「俺達は三流だ。一人では規格外ひしめく裏社会を生き抜いてはいけない。だが、それぞれがそれぞれの欠点を補い合うように徒党を組めば話は変わってくると思わないか? 有象無象でも明確な方向性を持って集まれば、一流に食い下がれる。俺はそう考えている」

「…………」遠藤は言葉に詰まる。自分自身の立場と四十沢の境遇を重ねてしまったからか。表社会では生きていけず、かといって単独で裏社会を渡り歩けるほど強くもない。その八方塞がりな感覚に追い詰められて、ここまで逃げてきたのだ。

 同じような立場の者達と手を組む。

 それは仲間という存在を知らなかった遠藤にはなかった発想だった。自分以外の人間は仕事だけの関係か標的、もしくが競争相手。それ以上でもそれ以下でもなかったのだから。

「……俺は——」

「……ふっ、いきなり突っかけ過ぎたな」四十沢は苦笑すると、遠藤から背を向けた。「仲間を通じて君の携帯に俺の番号を送っておいた。俺は一足先に大阪に戻る。答えを決めたら連絡してくれるとありがたい」

 言われ、すぐに自分のスマートフォンの通知を確認する。確かに一通のメールが届いていた。開いてみると、雀森(すずめもり)と名乗る送り人から『これ四十沢さんの電話番号でーす! 登録お願いしますね!』という文言を添えて、090から始まる携帯番号が記載されていた。しかも宛先は仕事用のアドレス。刈谷(かりや)や仕事で関わり合いになる一部の人間しか知らないはずのアドレスを、会った事もないどこかの誰かが知っていた事に寒気がした。

 文句の一つでも言ってやろうかと顔を上げるが、すでに四十沢の姿はなかった。


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