霧湖島①
「ミコト!」
タマキの声に目をあける。
そこはダークブルーの世界。白い門と僕を取囲む白い壁。タマキとその契約隣人が僕を静かに見上げている。
『ミコト。あわせて』
スティミアの声が僕を誘導する。『上へ』と。
ダークブルーの世界に白い光線が走る。そこにはたくさんの情報が入り乱れて走りまわっている。
ゆっくりと白い光線が減っていく。スティミアが届く情報を絞っているのだ。光線がずいぶん減ってようやく僕は詰めていた息を吐く。
ダークブルーと白、そして灰色で構成されたノイズが視界を染めた。瞬きをしたと思ったら、世界が青に染まった。
濃紺に散る星々のひかり。風に吹き飛ばされた雲の名残り。海の彼方に人工のひかり。
僕は、空にいた。
「……スティミア」
僕はスティミアを呼ぶ。
心は浮かれている。意識をどこに傾けるべきかもわからない。ただスティミアを呼んだ。
「スティミア、スティミア! 空だ! 僕は今、飛んでる!!」
興奮のままなにかをたたいた。目の前がじわりと認識されていく。透明な膜のむこうに見えているのは計器のたぐいだろうか?
勢いで計器をたたいたわけではなさそうだった。
スッと『ただの飾りだよ』とスティミアの意思が応えた。
すべての計算はスティミアが請け負っている。僕は行きたいところや飛びたい飛び方を考えるだけでいいとスティミアが伝えてくる。
前面のモニターに映る蒼。
雲を視認したと思えば、その雲につっこんでいて。
ああ、馬鹿なことをしている。
なんて楽しい。
なんて嬉しい。
意識の片隅で地面への追突カウントダウン。飛翔生物の観測。
ポンと突きつけられるエネルギー残量。
『着陸を意識しろ』というスティミアの苦笑いしているような意識。
ああ、二人のところに帰らなければ。
訓練のために立ち寄った霧湖島に。




