初ドラゴンです4
テーレテッテーテッテッテーン♪
脳の後ろにこびりついた国民的だった気もしなくもない謎の効果音と共に起床しました。みなさまどうもこんにちは。アイです。千数百年というなっっっがい睡眠をしていたらしい私は、それでも今日も眠いです。この島の空気が良すぎるのが悪いですね。
ともかく目覚めて数日たちました。記憶が戻る気配はありません。
食事はエアさんが用意してくれます(主にリンゴですけど、おいしいです)。水もこの島のどこかにあるらしく、何とかして運んできてくれます。私も手伝いたいと思ったのですが、エアさん曰く『アイが出歩くと危険だし、何より作業効率が悪くなるから待っててね』と言われてしまいました。とても動きたいと体がうずうずするのを、前回を教訓に抑えています。
しかし待っているのも暇だけではないです。
卵さんに触れていれば暖かいし、偶に大きく動きます。最近では、喋りかけてみても答えるように動いてくれます。…可愛い。卵だけでも可愛いのに、さて、孵化してくれればどれほど可愛い生物が出てきてくれるのでしょう。想像を膨らませるのもこの頃の楽しみです。
出来る限り早く孵化してるかもという希望的観測から出来る限り卵の隣に居続けていましたが、さすがに常に卵の監察ばかり続けていたわけではありませんでした。
この巣の吹き抜けから地上を眺めるのです。予測してはいましたが、この島は動き続けているみたいなので、いざ降りるという時に地上が海だったら大変だからと思って、観察していました。しばらくはずっと、大森林の上を浮遊し続けているみたいです。偶に人工物らしき物が見えますが、やはり倒壊している。未だにきちんと残った建物も人も見ていないのが、ただただ不安です。
「下に人はいるのでしょうか?」
『さぁ、案外滅んでたりするのかもね。僕は下は見えないから分からないや』
いつからいたのか、エアさんが隣まで来ていました。また果物を取ってきてくれたようです。それから水も。案外、この島は上空にあるということ以外は素晴らしい土地なようです。
「おかえりなさいです。エアさんは下に人を見たことがないんですか?」
『ああ、ないね。最初に紹介した通り、僕は飛行型医療用ロボットだ。付け加えて言うならドローンに分類されるね。医療用だから工場とかで使われてるものとは違って、高級なカメラを使ってないのさ。だから遠くまでは見えないんだ。』
なるほど分かりやすいです。
こうして日にちを重ねるごとにエアさんのことを知ることが出来るのは嬉しいですね。
千数百年。エアさんの生きた年月は、少なくとも数千年らしいですが、その内、私が記憶しているのはたったの一週間。何分の何とか表すのもむつかしいほど、膨大な数字です。そんなエアさんのことを知れるのは、なんだか…なんていうんでしょうね。こう、エアさんに近づけている感じがして嬉しいです。
ただエアさんはどうにも昔の話は話したがらないんですよね。どうしてでしょう?嫌なことを無理にさすのは駄目なことなので、無理には聞きませんでしたが。気になるには気になるものです。だからでしょうか。少しでもエアさんについて知れて嬉しいのは。
「ぴきっ」と奇妙な音が響きます。
「エアさん、どうかしました?」
『僕じゃないよ!卵だ!』
驚いて振り返ると、確かに卵に亀裂が入っています。どうやら孵化が始まったよう、なのでしょうか?
「と、とっとと、とりあえずどうしたらいいでしょう?!ドラゴンって生まれた瞬間から襲い掛かって来る戦闘民族だったりしますですか?!」
『アイ、落ち着いて。丁寧語がバグってる。好戦的だったとして、幼体にそこまで戦闘力はないはずだし。とりあえず水を持ってくるから、アイは孵化を見守ってて』
エアさんは空高く飛び上がり、風に乗って高速で水を取りに行きました。
孵化を見守るって!な、何かした方がいいのでしょうか?そう、人間の赤ちゃんの場合は!駄目だ、全然記憶にない。というかドラゴンの赤ちゃんに人間の赤ちゃんのような対処をしても意味はないでしょう?!落ち着け私!
と、とりあえず、卵を抱きしめときましょう。
暖かければ大抵の生物は安心する。古事記にもそう書いてました。
「ぴき」とさらにひびが入り、ばっと生き物の足らしきものが卵から出てきました。威勢よく、顔を卵から飛び出させ「ピロっ!」と鳴く姿は元気そのもので、しかし腰?周りが未だに卵が張り付いたままという間抜けな姿に思わず吹き出してしまいます。
「ぷっ…ふふふ」
ドラゴンの子どもです。あの厳つい姿を連想させるドラゴンの子どもですから、どんな凶暴性を秘めているのだろうと不安丸出しでしたが、姿を現してみればあっけない物です。
そして何より、可愛すぎるものです。
ドラゴン、というよりも蛇龍の子どもと言った感じなのでしょうか?長く二股に割れた舌をのぞかせて「ピロロ?」と小さく、もちもちしてそうな顔をかしげます。可愛い。とりあえず頭を撫でて、抱きしめます。やはりモチモチです。そして暖かい。卵を触っているよりも確かなぬくもりが、私はなんだか久しぶりだなと感じました。
「そうですね。ドラゴンさんの名前も決めなくてはいけませんね」
一安心といったところで、次の事を考え始めます。この前は私が一人で考えて決めてしまったので、今度はエアさんと共に決めましょう。
そんなことを考えながら、エアさんが帰って来るのを待っていました。