おはようございます3
お腹がいっぱいになったら、心なしか体が軽くなったように感じます。
エアさんの指示で時間帯を見計らって立ち上がり、さらに外気にさらされない島の奥へと進みました。改めて空に浮かんでいるというだけで大概不思議でしたが、これほどまでに大きな島(横にも縦にも大きい)が浮かんでいるのはさらに不思議になりました。
聞けば、この島が浮かんだのは急な事だったそうです。
今から大体千数百年ほど前の話だとか。
…千数百年?!
そんなにずっとエアさんは稼働しているという事実に、私は驚きを隠せませんでした。
『君なかなかいいリアクションを取ってくれるね。なんだか癖になっちゃいそうだよ』
エアさんは面白おかしそうにそう言いました。
「ということはエアさんはずっとこの島にいるんですよね。その間、私はどうしていたんですか?私、あんまり何も覚えてませんけど、確か人間は千数百年も生きれないし、そもそも空の上で生活しないものだと思うですけど」
どうして私はこの島にいるのでしょう。色んな事が起こって後回しにしてしまっていたもやもや疑問を、この歩いている間に解消しようとします。
『…アイは千数百年間寝てたよ。確かに』
どうやら人間とは千数百年間過ごせる者らしいです。確かに、と念まで押すんですから、その通りなのでしょう。確かに、病気の人が二百年くらい寝る、なんて話を聞いた気がするようなしないような…。それの数倍バージョンでしょう。
『さて、そんな話は置いておいて。僕が思いつく限り、この島から降りる方法をいくつか教えよう。どの方法も結局は降りられるだろうから、その点は安心してね』
奥へ奥へと進んでいく間に、エアさんは真面目な声色で前置きをします。
『一つは僕に乗っかる方法、アイはまだ体が小さいからもしかしたら安定するかもね。それでもう一つなんだけど、これはさっぱりできるかわからないんだ』
エアさんは何とも不安なことを言って、その場に止まります。
『ほら、あそこ』
指をさすような感覚で向こう側をしるします。
木の根っこで安定した道に、木の幹でふさがれた視界。高低差が大きく不安定なこの島で、安定して平面な場所。風通しがよさそうなのに対して、さっき目を覚ましたところみたいに風が強くない。そんな場所に一つぽつんと置かれてあったのは、禍々しい紫色をした、大きな卵でした。
「…あれは?」
また忘れてしまってるのか。私はあの大きな卵を記憶の中で思い出せません。
『あれの親はとてつもなく巨大だ。アイ、君の何十倍もある巨躯をほこり、長い首のさきにある大きな口には、肉食らしくとげとげしい牙がある。…種族名、該当するのはドラゴンだ』
ドラゴンですか。
すっと頭の中に浮かんできたのは恐ろしいというよりも、かっこいいと感じる姿をした翼をもつ、肉食の最強生物の姿でした。おっきいです。私なんてものともしないくらいにおっきい…はずです。
「って!ここドラゴンの巣なのですか?!危ないじゃないですか!?」
『安心して。僕は君を危険にさらす気はないよ。ここの巣はどうしてか、ずいぶんと前から親竜が帰ってきていないんだ。それであの卵が一つぽつんとある』
「ずっと前から、とはどのくらいなのですか?」
『細かくは確認できてないけど、少なくとも150日前から帰ってきてないよ。』
ほぼ5か月。その間、親は帰ってこずに、卵が一人空の島に取り残されてしまっていたと考えると、とても悲しいものがあります。
ひとまず、安全な場所だと分かったので、その平地に上がりました。
周囲を見回して、吹き抜けのような穴を見下ろしてみても、やっぱり私たちとこの卵以外は何もありません。完全に安全だと確認して、改めて卵に近づきます。
紫色に淡い白が炎のような模様を描いている卵です。
そっと手を置いてみます。中からほんのりとした温もりを感じます。
『そうそう、さっきの話の続き。この島から降りる案なんだけど。』
エアさんも近づいてきます。
『もう一つの案は、この卵の中のドラゴンに手伝ってもらおうと思うんだ。』
「…ふぁっ?!」
思ったよりもぶっ飛んだと言うか、確かに出来るかどうかさっぱり分からない案です。ドラゴンが根本的に協力的ではない生物であれば、確実にできない案です。
『大丈夫だとは思うんだ。ドラゴンは強力な生物だから、確かに孤高の存在かもしれないけど、家族思いのいいやつでもあるみたいだからさ。』
どういう根拠があるのかは知りませんが、エアさんは確信めいたものを持っているみたいです。千数百年という長い年月の間で、何回かドラゴンの親子を見て、その上での感想なのでしょうか。…この島から脱出するためには、これほどのこともしなくてはいけないのかもしれません。
『ともかく今日はもう休もう。この卵は生きているけど、孵化するまではまだまだかかると思うし。…気長に生活していくしかないね』
多少の不安はあるものの、このエアさんが隣にいれば大抵の事はどうにかなりそうです。
そんな予感に安心しつつ、その日は卵のほんのりした暖かさの隣で疲れを癒すのでした。