おはようございます2
周囲を探索してみることにしました。
待っててと言われた?そんなことより動きたくて体がうずうずしているのです!
うずうずしているのですが、体がどうも重たいです。何故だか少し前の事も思い出すことはできないし、思い出そうとすると頭がものぉ~~~~っすごく痛くなりますし。…不調、かもしれません。とにかく痛くなるのは嫌なので、思い出そうとすることはいったん保留することにします。思い出そうとして痛くなるなら、思い出そうとしなければいいのです!…とても普通の事をまるで格言のようにかっこよくいってしまいましたね、失礼。ともかく、思い出せなくても、長く動いてなかったんだなってことはわかります。
一歩を踏み出します。こけました。
……。
これじゃぁ探索もできないじゃないですか!!!
仕方がないので二足歩行という生物の到達地点をあきらめて、四つん這いで移動することにします。彼みたいに空を飛べたら楽なのでしょうけど…人類はこうして、鳥に憧れたのでしょうね。きっと四つん這いになりながら鳥に憧れる人は私が初めてでしょうけど。
それにしても彼。彼と呼ぶにしても、ロボットさんと呼ぶにしても呼びずらい物があります。私に愛という名前があるように、彼にも名前があったらいいでしょうね。
そんなことを思い浮かべながら、改めて探索をします。
「こちら偵察隊、状況報告をする」…なんてね。
平原のへこんだ場所。周辺は盛り上がった土で遮られて見えなくなっています。気持ちの良い乾いた風が吹きこんで、長い髪の毛が揺れてしまいます。見たこともない緑の草花は水滴でしめっており、肌を優しく触れています。そして空には太陽と幾らかの雲。
あっやばいです、眠気がまた再来してきました。
寝てる場合じゃないのに…頭を振って天使の誘いを振り切って、盛り上がった土の上によちよち這い上がっていきます。―――とたん、強い風が襲い掛かりってきました。
眼下に広がるのは森でした。きらきらと太陽光を反射している湖が今、雲によって暗くされます。人工物らしき物がみえますが、どうにも古びており倒壊しています。はるか下に、そんな衛星写真のような風景があります。
「どうして、空に浮いてるんですか?!」
この島は、空を浮いていました。
受け入れがたい事実です。いくら少しも前の事を思い出せないとはいっても、こんなはずはなかった、ということだけはわかります。異常事態です。えまーじぇんしーです。
超上空で…風が吹いています。
エマージェンシー!!!
風で吹き飛ばされそうになるところを、とっさの判断で草をつかみ、へこんだ場所に戻ります。ごろごろと、転がって、四つん這い以上に格好悪い状態になります。
「はぁーッ…はぁーッ…」
眠気なんていっきに吹き飛びました!なんですかここは!どういう状況?!
寝て起きたら空に浮かぶ島でロボットに起こされてました?どこのSFファンタジーですか、分からなさ過ぎてやばいです!!
なるほど確かに、彼が待ってて、だけではなくて動かずに、とつけくわえた理由が今こうしてわかりました。ザ・危険。大人しく待つ方向にシフトしました。
切り替えて行きましょう。
さて、意外と時間がかかっているみたいです。果物を取ってくる、と言っていましたが、彼はこの暴風の中を難なく移動できるのでしょうか?彼、そうでした、名前があったら便利だと思っていたんでしたね。
ロボット。確かに私はその単語を知っており、彼の事をはじめはそう思いました。しかし彼は自身に名前はないと言い、名称として人工知能と一度行ってから訂正して、エーアイと名乗っていましたね。エーアイ…かっこいい響きです。名前をつけるとすれば、きっとここからとるべきですね、何せエーアイがかっこいいんですから。エーア…アイでは私と被ってしまいますから、不便でしょう。だからと言ってエーアは…なんだか間抜けです。
エア。これです!この響きです!
意味は…思い出せそうですけど、思い出そうとすれば頭が痛み始めるのでやめておきましょう。きっと彼が知っているでしょう。私の名前の意味を知っていたんですから、知っていても不思議ではない気がします。
ああ、それと。ちゃんと名前を付けても良いか聞かなければいけませんね。独りよがりは良くありませんからね。案外、名前がないのを気に入ってたりするのかもしれません。
『おまたせ』
ほどなくして、彼が帰ってきました。何とも器用に自身の体の上に赤くて丸くてつやつやな果物、すなわちリンゴを乗っけてきました。
『って、髪の毛が乱れてるよ。アイ、君動いたでしょ』
一瞬で見破られてしまいました。もともと隠す気もありませんでしたが。
「すみません。体を動かしたい衝動に勝てませんでした」
『んー、何事もなかっただけ良かったとしようか。柔らかな物腰をしてるけど、アイは意外とアグレッシブなんだね。今後動くときは僕と一緒だよ。』
「分かりました。ところで気になってはいたんですけど、ロボットさんはあの暴風の中を歩いても大丈夫なんですか?私なんて吹き飛ばされそうになったんですけど」
『僕はこれでもロボットだからね。空間把握能力には優れてて、何所を何時歩けば大丈夫か、みたいなことがよく分かるんだ。』
なるほどです。
「あっ、それとロボットさん。ロボットさんでは何ですし名前つけても良いでしょうか?」
『名前?…うーん』彼は悩むようにふよふよと浮かんで、辺りをくるっと一周回ってから、『いいよ』と答えました。良い人です。いえ、良いロボットさんです。
「エア、はどうでしょう」
『「エア:空気」だね。飛行型の僕らしい名前だ…ありがとう。』
彼、いえ、エアさんは感慨深そうにその言葉の響きを反芻して、うんうん頷いている。気に入ってもらったようです。良かったです。
『さて、それじゃアイ。君はこれからどうする?』
ほら、とリンゴを受け取ります。
「どうする、というのは、どういうことです?」
リンゴを食べることを勧められたので、失礼ではありますが、食べつつ喋ります。皮ごとかぶりつくというのもいいものです。みずみずしく甘くておいしい。うーんシャリシャリ。
『ちょっと移動したなら、分かったんじゃない?この島、空を浮いてるじゃん。まず初めに降りる?って聞こうと思ってさ』
「降り方があるんですか?」
『分からない。だから探そうかと思ってね。それでどうする、降りる?降りない?』
「できるなら降りたいですね。だってここでしたら、ゆっくり眠れないじゃないですか」
寝ぼけて転がっていってしまったら落ちてしまいます。それではおちおちゆっくり眠ることもままならないのです。それは嫌です。
『了解!降りる方針で、この島を探索しようか。実は僕もこの島の探索自体は初めてなんだ』
エアさんは浮き上がり先導するように動き始めました。