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真夏の夜に想うおはなし

例年になく暑いタニアの夏のこと。

家の制度が変わったために、世の中は大混乱になっていました。

そのせいで家を失ってしまい、涙ぐむリスにカエルは言うのです。

-*-*-*-*-*-


生き物が全部なくすってのはなかなか難しい

だってそれが生きてるっことだから


-*-*-*-*-*-




「地面に立ってるだけで体中が痛い!」

カエルは呟きました。

八月の暑い昼下がり。

全ての人に平等に、とばかりに太陽はさんさんと輝いています。

日差しがじりじりと焦げる日中には、さすがのカエルも元気がありません。水桶に全身浸かり、舌を出して伸びております。


その横でせっせと働くウシ。テインの砂浜付近に一時期住んでいたので、暑さに慣れているのです。

「このくらいでだらしないなあ」

そう言って笑いながら、仕込みに精を出しすウシのお陰で、毎日営業できております。

ありがとう、ウシ!

まあ、夕方になって海から涼しい風が吹いてくると、いつものカエルに戻りますけどね。


そんなカエルがママをしているまんまるカエル亭は、今夜も陽気に営業中……。


「ママ!お酒!早く!」

「ちょ、飲み過ぎよ」

「いいじゃん! 飲まずにいられるかあぁ!」

今夜はいつもより影多めで営業中です。


昼間、まだカエルが桶の中で腹を出している時間に、リスはやってきました。

いつもおしゃれに気を遣うリスなのに、今日は様子が違います。

普段の面影はまったくなく、目は真っ赤に腫れ、自慢の白い毛も汚れてぐしゃぐしゃ。10才くらい年取ってしまったかのようです。


「入ってもいい?」

微かな声に反応したのはウシでした。厨房にいたら聞こえなかったのでしょうが、たまたまグラスを磨きにホールにきていたのです。

ウシはリスの様子に驚き、カウンター席に連れて行きました。

ここのルーンしかなかったと哀しそうに言うリスに優しく飲み物を出すと、ウシはカエルを起こしました。

事情を聞いたカエルは珍しく機敏に起きました。

明日は吹雪だと思いましたが、ウシは黙ってカエルと共にリスの横に座ります。

やがて、リスはぽつりと語り始めました。


「家がね、なくなっちゃったの……」




しばらくの間、リスは旅に出てていました。

その旅は困難なことが多くて苦労したからあっという間に日が過ぎた、とリスは言っていますが、その顔を見ると辛いことばかりではなかったようです。


気がつけば3ヶ月以上も過ぎていました。


リスはちらりと家を思いましたが、税金は銀行引落なので安心だと思っていたそうです。


税金の話が出ましたので、ここで少し触れておきましょう。

タニアでは家を構えると税金が発生し、定期的に納める義務が生じます。税金は町の整備、自然環境の保護、土地の管理など様々な用途に使われているそうです。

大事な税金なので、支払わない者にはペナルティがあります。未納期間が3ヶ月を過ぎると、家を没収されてしまうのです。

そんなわけで、家を維持する者は忘れずに納税しています。

税金を納める方法は2通りあって、1つは税務署で発行する証書を買う方法、1つは銀行の口座から税務署に直接引き落とされる方法です。

証書は銀行以外でも販売していて手に入りやすく、店舗により値引きもあってお得ですが、手間がかかります。

銀行の自動引落は値引はありませんが、手続きすれば定期的に支払われるので楽です。

安全で確実な銀行。


ところが、最近それが崩れたのです。


きっかけは銀行を預かる会社が変わったことでした。

新しい会社はシステムを新しくしようと新呪文を取り入れました。順調に見えたのですが、綴りを間違えたことで呪文が失敗。結果、引落が止まってしまったのです。

当然、その分の納税は確認されません。


そして3ヶ月後、税務署に没収される家が続出してしまいました。


たくさんの人が失意のどん底に突き落とされました。久し振りに戻って家がなくなっていたら。絶望する気持ちもわかります。

リスは今、まさにその状況なのです。


「家もがんばって集めたアイテムもみーんな、なくなっちゃった」

リスはしょんぼりと肩を落としました。

ウシとカエルママンは何も言えませんでした。


そして時は過ぎ。

夕日が海に沈んで涼しくなってきたころ。

悪酔いしたリスはカエルの背の上で飛び跳ねながら、くだを巻いているのでした。




やがて、リスはテーブルの上で大の字に転がりました。

「全部なくなった!」

叫び、笑い、最後に溜め息を吐きます。

さっきまで踏まれていたカエルはテーブルの横で潰れてました。

それをウシがちりとりに乗せ、カウンターに運びます。すぐわきに置かれた水桶に水を入れ、中に落とすと、カエルはそのまま水に沈んでいきました。


「全部なくなった、か」

カエルは水桶の縁をつかみました。

「この水桶、昨日厩舎でもらったの。タダよ」

無料がポイントです。


「桶と一緒にしないでよ。思い出がたくさん詰まってたんだから」

過ぎた過去を愛おしむように、リスはまた涙を流しました。


「でもさ、全部なくなったってことはないと思うのよ。例えばさ」

と、カエルが言ったとき、窓から青い光が飛び込んできました。


ゲート魔法の青い光。

お客さんがやってきたようです。


「リスさん来てる?」

最初に店に飛び込んだのはニワトリでした。


「あ、やっぱりいた!」

「よかった。大丈夫?」


後に続くのはまんまるカエル亭の常連達。もちろんリスと友達です。

たくさんの動物がテーブルを囲みました。


「心配したけど、こうして会えて良かった」


常連達は口々に言い、リスを撫で回しました。あっという間にリスの毛はぐちゃぐちゃになりましたが、誰も気にしていません。

リスは再び溢れてきた涙をぬぐうと、ぽつりと呟きました。


「帰ってきたんだあ」


店のみんながにっこりと笑います。

その笑いは朝までずっと続いたのでした。




早朝、カウンター下にへばりついているカエルを残し、客達は帰って行きました。

リスはしばらくウサギの家に居候するそうです。来たときの泣き顔が嘘のような素敵な笑顔でした。


がらんとした店内をウシがせっせと片づけます。いつもの光景です。


「結局さ、生き物が全部なくすなんてないと思うんだよね。その世界にいなくなったとしてもさ、どこかに何かしら生きてた証は残ると思うんだよ」

そうだねえ、とウシも頷きました。


「でももしここがなくなったら、どーする?」

カエルは少し唸ってから答えました。

「最初は地団駄踏んで悔しがると思うけど、きっとどっかで店をやるんじゃないかなあ」

「カエルさんなら絶対そう言うと思ってた」

ウシはくすくすと笑いました。

「そりゃそうよ。ウシさんもやりたいでしょ」

カエルもウィンクしてにっこりと笑います。

「主に資金集めとか土台確保とか内装とか仕入れとか営業とか」


全部かい!

つっこみどころ満載ですね。


しかしウシは笑ったまま、何も言わずに厨房に引っ込んだのでした。

何度目か書いてますが、このお話はとあるゲームで書いて販売なんかしちゃっていた本を移動したものです。(町の名前とか、設定少し変えているのでほぼオリジナル。きっと大丈夫)

ゲームだと運営会社が変わったり、バージョンアップするといろいろ仕様が変わるわけですが、あるとき運営会社が変わって、いろいろとシステムエラーが出たときがありました。

その時にクレカ払いで課金していた方々が被害にあいまして、家を失ってゲーム引退ってのが多かったのですよ。

これはその時に書いた話なのですが、アイテム全部なくなっても友達は残っていて、いろいろアイテムをもらってわらしべみたいになっていた記憶があります。私もプレゼントしましたよ。

ゲームでもリアルでも、人とのつながりって大事だなあ、あったかいな、と思ったのでした。


カエルさん→カエル

ウシくんもしくはウシさん→ウシ

に、修正しました

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