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秋風の月夜に想うおはなし

今夜のまんまるカエル亭はカエルが風邪のため臨時休業です。

看病するウシの耳に入ってきたのは扉を叩く音。そしてそこにはたくさんの常連客がいたのです。

-*-*-*-*-*-


誰かがそこにいることは

ありがとうが言える幸せ


-*-*-*-*-*-




さわさわ、と秋の風が吹き抜けていきます。

空に浮かんだレモンとオレンジの月はちょうど1つの大きな丸を半分に割った形でした。

くす玉みたいな月の側には寄り添うような星々が輝いています。

気持ちの良い初秋の夜です。


しかし。


まんまるカエル亭の中からは苦しそうな呻き声が聞こえておりました。

扉には『本日臨時休業』の札がかかっています。


「大丈夫?」

ウシが温めたミルクを手にカエルのベッドに赴くと、カエルは舌を出してくたっと潰れておりました。

「ごめん、それ、おいといて……」

ぜいぜい、と荒い息を吐き、そのまま目を閉じます。


ウシはカエルの乱れた布団を直すと、目の上を優しく撫でました。

「急に寒くなったからねえ。両生類のカエルにはきつかったかな?」

「うん」


どうやらカエルはここ数日の激しい気候変動に負けて風邪をひいたようです。普段元気なウシもここのところ節々が痛いなと思っていたので、体力のないカエルなら仕方がないというところでしょう。

「瓶にお湯を入れてきてあげるから、足下に入れるといいよ。ちょっと待っててね」

そう言って去ろうとするウシのしっぽを、カエルはきゅっと握りました。


「いつもすまないねえ」

「それは言わない約束でしょ」

「こんなとき死んだおっかさんが生きていてくれたら……」


今日だけで5回は同じ台詞を聞いています。

それだけ元気があれば大丈夫、とウシは苦笑し、カエルの手を軽く叩いて部屋から出ていきました。




店のキッチンに入ると、店の中から声が聞こえてきました。

今日は休業にしたはずなのに、とウシは首を斜めにしながらホールに顔を出しました。


そして。

たくさんの常連客がいつもと同じように座っているのを見て、びっくりしました。


「今日はおやすみだよ」

ウシは客達に言いました。


「知ってるー」

と、ニワトリが言いました。

「ママンが心配だから、ちょっと見に来ちゃった」

言いながら、器用なところにしまっていたボトルを取り出します。

「卵酒だよ。飲ませてあげて」


ことん、とカウンターに置かれたボトルを取ろうとすると、シカさんも何かをおきました。

緑色のリンゴです。

「変なモノ食べたんじゃないかと思ってな。解毒リンゴでも食べさせてやってくれ」

一見緑のカビリンゴなのですが、滋養強壮に富んでいるのです。


ウシがありがたく受け取ろうとすると。

「これ、フルーツボール。ママに早く元気になってねって伝えて」

栄養豊富な果物かごをオオカミがぽんと置きました。


「うちの新製品の和菓子もおいてくよ」

そう言ったのは先日の氷ウサギです。そういえば店の経営が順調で、バイトを雇おうかとの話も出ているとか。

ウシがお祝いを言うと、氷ウサギは照れた顔で鼻を掻きました。

「ここに来なかったらなかった人生だしね。今すごい幸せなんだ」

嬉しいことを、とウシもにっこり笑います。


「とりあえずこれ」

どん、と音を立てて大きな黄色い樽が置かれました。

持ってきたのはフェレットとリスとネズミです。

「早く元気になって、またオイシイものを食べさせてねって言ってね」

愛らしい小動物である彼らにはこの樽は巨大だったことでしょう。ウシは頷いて樽を預かりました。


「とりあえずはやくげんきになるのでふ」

いつの間にかスツールに腰掛けた黒猫が言いました。黒猫の前には銀色に光る瓶があり、温かそうな湯気が上がっています。

「番茶が一番なのでふ」

ふっ、と笑ってカウンターから離れる黒猫でした。


気がつけば、カウンターの上にはたくさんのアイテムが置かれています。

(金色に輝くストローが一番目についたのは内緒です)


「とりあえずゆっくり養生してってママに伝えて」

「お大事に」

「温かくしてね」


口々に言うと、客達は店を出ていきました。

戸口まで出て見送るウシの頬を爽やかな秋の風が頬を撫でます。


「あ、忘れてた」

真っ白いウサギがぱたぱたとウシの元に走り寄り、うすピンクの袋を渡しました。

「看病お疲れさま。ウシさんも体大事にしてね」

中身は真っ白いナデシコと、甘いお菓子。

客達が頷いて笑っているのを見ると、全員からの贈り物のようです。

「ありがとう。大事にするよ」

秋の風は少し冷たいけれど、ここはとても温かい。

青い魔法のゲートをくぐってそれぞれの地に帰っていく客達の温かな心に、ウシの心もほんわりと暖まるのでした。




ウシがカエルの部屋に戻ると、カエルは気持ちよさそうに眠っていました。

時折苦しげにうーんと唸るので、心配して耳を寄せると、こんなことを言っていました。


「た、頼む、ストローは、ストローだけは、勘弁して……」

どんだけ怖い夢を、とウシは思いました。

「確かにストローはあったけどねえ」

くすり、と笑います。


「それよりもっとたくさんのいいものもらってるよ。幸せなカエルだねえ、カエルさんは」

鼻の上をそっと撫でると、カエルは幸せそうににゃはーと笑い、呟きました。

「いつもありがと」

ふにゃりと笑い、姿勢を変えます。

「カエルさんと一緒にいて、いろんなヒトから幸せを分けてもらえる私も幸せだよ。ありがとう」

ウシはにっこり笑うと、灯りを少し落としました。

柔らかなオレンジ色の光は先程までいた優しい客達のように、ほんわりとカエルを包むのでありました。

風邪でダウンすると普段は気づかないやさしさに気づいたりする、みたいな話です。

いつもすまないねえ、、、のセリフのあたりは私が風邪で寝込んだ時に旦那とよくやる遊びだったりします。

しかし最近の若い者に話をしたところできっと伝わらない(いくつだ、作者、、、)


カエルさん→カエル

ウシくんもしくはウシさん→ウシ

に、修正しました

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