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月のない夜に想うおはなし

月のない夜、まんまるカエル亭には迷子の氷ウサギがいて、しくしく泣いておりました。

帰るすべのない氷ウサギにカエルはこう言いました。

カエルのストローだけが印象に残るおはなしです。

-*-*-*-*-*-


目の前にある道はたった1つしかないけど

それを作るためには多くの手があったんだよ


-*-*-*-*-*-




ご存知の通り、タニアには二つの月があるのですが、一年に何回か、両方の月が姿を見せない夜があります。

大きな仕事を終えた二つの月がゆっくりと休んでいる、タニアの古い物語の一節です。

そんな夜は星の輝きがやけに眩しくて、酔ってしまいそうになります。キラキラと瞬くその光の一つ一つが大粒のダイヤのよう。手を伸ばしたら届きそうです。


星降る夜にほっこりと明かりを灯して、まんまるカエル亭は今夜も営業しています。


中にはいつもの動物たち。

そして……。


「教えて下さい、ここは、どこなんですか!?」


泣き出しそうな顔で震えている氷ウサギ。

ここいらでは見かけることのない珍しいウサギです。

彼らは地中深くにある氷の国で普段はのどかに暮らしているのですが、時折地上に姿を現します。冒険者が畑に植える緑の棘が大好物なので、匂いをかぎつけるとついでてきてしまうのだといわれています。


常連の動物たちの中にはこの珍しい生き物を見たことがないものもいました。それだけでも当惑しているのに、半ベソをかく青いウサギに何と声をかけたらいいものやらわからず、ただオロオロとしています。


「まあ、コレでも飲んで」

ウシが自慢のミルクを温かくして差し出すと、青いウサギはおずおずと受け取り、一口付けようとしました。


「あ、ダメだよ!」

そこへカエルがやってきて、氷ウサギの手からカップを奪い、ごきゅごきゅと飲んでしまいました。

いきなりのひどい仕打ちに、氷ウサギがわっと泣き出します。

いつもは温厚なウシも角を立てて怒り出しました。


その勢いに便乗して、常連の動物たちも騒ぎ出します。


「ヒドイカエルだ!」

「殴っちゃえ!」

「潰せ潰せ!」

「お尻にストロー刺しちゃえ!」


ニワトリに乗られ、シカに自分よりエロイといわれ、ツルハシで刺され、ネズミに踏まれ……。

最後にウシにはたかれたところで、カエルはカウンターにぺたりと崩れて白旗を振りました。


「誤解だようう……」


カエルは、情けない声で言いました。

「氷ウサギは氷の国の生き物だから、暖かい物なんかあげたらおなか壊すんだよう……」


そうだったのか、とみなは手を止めました。


「早く言えばいいのに」

「まったく、説明が足りないよね」

「カエルだから仕方ないけどさ」

「ストローから空気入れちゃえ」


言いたい放題です。


その間にウシは奥から冷えたミルクを持ってきて氷ウサギに渡しました。


「あの、カエルさん、大丈夫?」

ミルクを受け取った氷ウサギはHP1のカエルを見つめています。

ウシは言いました。

「大丈夫。カエルだから」

氷ウサギは頷くと、ミルクを一息に飲み干したのでした。




一騒ぎあったおかげで場が和みました。

氷ウサギもウシがくれたチーズと冷たいパイを食べたことで落ち着き、少しですが笑顔も戻っています。

そしてしばらくたったころ、氷ウサギは事情を話し出しました。




いつものように遊んでいると、心惹かれる素晴らしい香りがしたこと。

目の前に湧いた緑の棘に飛びついたこと。

同時に世界がぐるりと周り、気がついたら綿畑にいたこと。

人間が剣を持って襲いかかってきたこと。

見たこともない大きな生き物に殺されそうになったこと。

それでもなんとか柵の隙間から逃げ出したこと。

走って走って、もうダメだと思った時に、灯りを見つけたこと。

そして。




「やっと辿り着いたのがここだったんだ」


氷ウサギの物語が終わりました。

怖いことを思い出して震え出す氷ウサギを、ウシがそっと抱えます。

「もう、帰れないのかな」

氷ウサギは鳴き声を押し殺して呟きました。

誰も何も言いません。

緑の棘で呼び出された氷ウサギは冒険者が全て殺してしまうので、国に戻ったという話を聞いたことがなかったからです。


そのとき。


「帰れないと思うよ」

カエルが言いました。


氷ウサギが再び泣き出します。

動物たちは冷たい視線をカエルに向けました。その空気といったら、ツンドラさながらです。


「でもその時、キミはどうやって生きていくの?」


そんな空気を無視して、カエルは言いました。


「いろんなコトを後悔するよね。いろんなコトを呪うよね。でも、キミは今ここに生きているじゃない。そしてみんながキミを心配してるよ。ワタシにはそれが一番大事なことだと思うんだけど」


カエルは自分に包帯を巻きながら、にこりと笑いました。


「キミにはいろんなことができるよ。そしてみんなが助けてくれる。この素晴らしい世界をどうやって生きるかはキミ次第なんて、ちょっとステキじゃない?」


氷ウサギは顔を上げました。

「でも、ボクは、帰りたいよ」


「そうだね」

カエルはうんうんと頷きます。


「帰る方法を探すために何をしたらいいか、ここにいるみんなが知恵を貸してくれるよ。ワタシもお手伝いするからさ。ちょっと遊びに来たんだって思って前を向こう」

「前?」

「うん、だって」


カエルは隣で自分の腕に包帯を巻き始めたウシを見てウィンクしました。


「どんなにがんばったって、道は前に1本しか作れないんだから」




その夜はとても素晴らしいひとときになりました。

迷子の氷ウサギのため、シカが住まいを提供し、ニワトリが必要なものを調達し、その他みんなが自分たちのできることをすることになりました。

氷ウサギも顔を上げ、今では自分がここで生きていくためのスキルは何かを考え始めています。

凍えた空気で包まれていたまんまるカエル亭にも春の風が吹いてきたようです。


夜も更けて、みなが帰路に就いたあと、空っぽになった店内ではウシとカエルがくつろいでいました。


「そういえば」

ウシがカエルに言いました。

「この道が今あるのはカエルさんのおかげなんだねえ」


カエルはにやりと笑いました。

「ワタシの道が今あるのもキミのおかげだよ」

二人はふふっと笑いました。

そして、いい友達が近くにいるのは素晴らしいことなんだな、とほぼ同時に思ったのでした。




ところで。

数ヶ月後、一通の手紙がまんまるカエル亭に届きました。




『元気でやってます。

 大都でお店を始めました。

 近くに来たら寄ってね。

                   氷ウサギより』


カエルとウシが同封されていた和菓子20%引き券を握り締めてムーンゲートに走ったのは言うまでもありません。


お店の名前は「おりえん堂」

縁を大事に、心のこもったおもてなしをするお店だそうですよ。

カエルのお尻にストロー挿して膨らませて、、、という怖い話があったりなかったり。

いや、ただそれだけなんですけどね


カエルさん→カエル

ウシくんもしくはウシさん→ウシ

に、修正しました

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