深き夜に想うおはなし
それはある深夜のこと。
みんなと一緒にやってきたのに、アザラシさんはちょっと元気がありません。
ちょっと相談させて、とアザラシさんが見せた手紙。
それはアザラシさんに当てられた恋の告白でした。
恋に悩むアザラシさんにカエルが贈った言葉のおはなしです。
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雲の隙間からしか見えない世界へ
飛び込んでみてもいいんじゃない?
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二十三夜のぽってりしたオレンジの月と細くて消えそうなレモンの月が雲の後ろから顔を出しました。
そろそろ月も隠れる時間です。
白い夜空の雲から顔を覗かせる星もまた、一つ一つと姿を消える準備を始める、そんな朝と夜の真ん中でも、まんまるカエル亭は営業しています。
とはいえ、元気に、ということはなさそうですが……。
「わ、若いって素晴らしいねえ」
カウンターに突っ伏していたカエルが言いました。
店の真ん中のテーブルでは、いつものメンバー、ネコやシカやニワトリが陽気に騒いでおります。あの喧噪には睡魔さえ立ち入れないのか、誰一人帰る気配はありません。
カエルの横ではウシがグラスを磨きつつ、特製ミルクでカッテージチーズを仕込んでいます。ミルクを湧かす温かい湯気に引き寄せられて、睡魔はこちらにやってきたようです。
「ね、ねみぃ……」
カエルの呟きに、ウシはクックと笑いました。
「閉店する?」
「んにゃ、お客が帰るまで営業するよん。帰ったらヤツらに呪いをかけながら夕方まで寝るのだ」
呪いかい、とウシは突っ込もうとしてやめました。
ちょうどそのとき、テーブルから離れてやってきたアザラシが、カウンター前に座ったからです。
「はああ……」
アザラシは大きく溜め息を吐きました。
「楽しんでる?」
カエルはカウンターに伏せたまま尋ねます。
アザラシは頷きかけましたが、ちょっと考えて、また溜め息を吐きました。
それでカエルはやっと顔を上げます。
「溜め息ついてどーしたん?つまんなかった?」
「つまんないなんて、とんでもない!」
アザラシはふるふると首を振りました。
「ちょっと酔っぱらっちゃったの。ねえウシさん、冷たいお水をもらえるかなあ?」
ウシは手を止めると、アザラシの頭を軽くなで、キッチンに向かいました。
ウシがいなくなると、アザラシはカエルの横に頭を置き、同じようにカウンターに伏せました。
「相談してもいい?」
もちろんカエルは頷きます。
「あのね。こんな手紙をね、もらったの」
アザラシは荷物から封筒をだし、こそりとカエルに渡しました。
「内緒だよ」
そう言われて見た手紙には、こんなコトが書いてありました。
『今度会えたら言おうと思ってたんだけど・・・
好きです。 』
カエルは一瞬嫉妬しました。
「で、返事したの?」
アザラシは頷きました。
「アタシも好きですよ、って返した」
「そんな軽く流しちゃダメじゃん!」
「だ、だってええ……」
アザラシはカウンターに載せた頭をぐりぐりと押しつけます。
「そう言う好きじゃなかったら恥ずかしいんだもんー!」
カエルは大きく息を吐いて起きあがると、封筒をアザラシに返しました。
「一つ聞いていい?」
「うん」
「アザラシはそのヒトのこと好きなの?」
アザラシは伏せたまま固まってしまいました。
1分。
2分。
3分。
まだ動きません。
カエルが頭をぺちぺちと叩くと、ようやくアザラシは顔を上げました。
「好きなのかわからない」
アザラシは言いました。
「いつも会うと可愛いねって褒めてくれたり、側にいてくれたりはするんだけど、結構もてるヒトだし。何でこんなアタシにこんなお手紙くれるのかわかんないし。そもそもそう言う意味でくれたのかもわかんないし」
一息ついて、アザラシは続けます。
「そもそもアタシはこういうコトってわかんないのね。もしもあのヒトがアタシを避けるようになったらイヤなの。ものっすごく逃げたい気持ちなんだ。どーしよう、ママ」
カエルは思いました。
ああ、このアザラシは実は結構前から相手のヒトを好きだったんだなあと。
でもそういうのを認めたくなくて、というかなによりもヒトに恋するということを怖がっていて、だからこそ、現実を受け入れたくないんだ。
「バッカだなあ」
カエルは笑いました。
「そう言う時は深呼吸して空を見るのだ」
言いながら、カエルはカウンターから出て窓に向かい、大きく開けました。
遅い夜と早すぎる朝がひんやりと肌に当たります。
アザラシはカエルの横にちょこんと座り、空を見上げました。
月が消えてしまった夜空には、雲間からの星が明るく輝いています。
「雲の隙間からしか見えない星を見て、今日は星が少ないと嘆いてちゃだめさ」
カエルは水かきのついた手を夜空に伸ばしました。
「雲の後ろにはたくさんの星があるんだから。ちょっと見える現実だけでいろいろ考えててもさ、本当のところはわかんないんじゃない?」
アザラシは何も言いませんでした。
1分
2分
5分
ただ、空を見上げています。
カエルはにこりと笑うと、カウンターに戻り、ウシが持ってきた冷たい水を一口すすって仕事に戻りました。
「それじゃあ、おやすみー」
そう言ってお客が全員帰った時には、東の空は明るくなっていました。
騒がしく帰っていく仲間達の隙間から、アザラシが小さく手を振るのが見えます。さっき溜め息を吐いていたのとは別人のようないい顔です。
カエルは大あくびしつつ手を振ると、店の扉に「まだやってない」の札をかけ、店に戻りました。
「コレ片付けるのは明日でいいよね」
「コレらを片付けるのは明日だねえ」
ウシと同時に口を開き、顔を合わせて笑います。
「それじゃ、今夜は寝ようか」
カエルが言うと、ウシはこくりと頷きました。
「明日はアザラシさんがニヤニヤしながらやってくるだろうから、うんと冷たい水を用意しなくちゃねえ」
ふふ、と笑い会う二人。
「すっかり星もなくなったねえ」
「まあ、いいんじゃない?」
ウシの言葉に、カエルは言いました。
「見えないだけでちゃんとあるんだし」
まったくだ、とウシは頷きます。
そして二人は奥に引っ込むと、それぞれのベッドで眠りにつくのでした。
実はアザラシさんと同じ告白をゲーム内でされたことがありました。
その方とはもう会えませんが、あまじょっぱい思い出です。
まあ、ゲームキャラとしてなんですけどねー。
しかも私、キャラカエルだったので、カエルフェチなだけだったようです。チッ
カエルさん→カエル
ウシくんもしくはウシさん→ウシ
に、修正しました