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雨上がりの虹を見て想うおはなし

珍しく一人でやってきたシカさんはなんだか今日は凹み気味。

そんなシカさんとウシくんとの、静かな語らいのおはなしです。

-*-*-*-*-*-


雨も降らなきゃ虹も出ない

そんな人生つまんない


-*-*-*-*-*-




ぽつり、ぽつりと雨が降っています。

空は夕暮れ。

わずかにオレンジが残る空の端っこだけを残して、灰色の雲が行ったりきたりしている珍しい天気です。


「お天気雨の夕暮れなんて、粋だねえ」

窓辺に座って池に落ちる雨粒を眺めながら、カエルが言いました。雨が大好きなカエルですから、思わず「Singing the Rain~♪」と歌うほどご機嫌です。


店の中に雨が入らないといいなと思いながら、ウシはカウンターを拭いていました。


ここは「まんまるカエル亭」。

カエルのママとウシのバーテンダーがいる、のんびりした酒場です。


薄暗くなってきた店内にウシがランタンを並べていくと、オレンジ色の柔らかな光りが辺りを包みました。


「準備ありがとー」

カエルはにこりと笑い、窓を閉めました。

開店時間までは少し間があります。このわずかなひとときに二人仲良く夕食を食べるのが店の日常です。

「それじゃあ、今日もオイシイもの作るから待っててね」

カエルは鼻歌を歌いながら、奥のキッチンへと姿を消しました。

調子外れのアヤシイ声が包丁の音と共に流れてきます。


そのとき。

カタン、と扉が開きました。


「開店時間じゃないよね……」


入ってきたのは、シカです。

いつもは友達と来るシカが一人でやってきたので、ウシは少し驚きました。

様子を見れば、なんだかひどく疲れた顔をしています。

一人でいたいんだけれども一人は怖い、と表情が語っていました。

だからウシはにこりと笑い、窓辺の席へシカを通しました。


「まだ早いけれど別にいいと思うよ」

そう言って、特製のチーズとミルク酒を差し出します。

「でも時間外だからコレしか出せないけどね」


シカは何も言いませんでしたが、ピックが刺さっているチーズを一つ口に入れました。

「おいしいな」

「当然だよ」

ウシはシカの言葉に笑って答えました。


それからはしばらく無言。二人で並んで雨を眺めました。

キッチンからはいい匂いと、カエルの歌が聞こえてきます。


「ここはいいなあ」

シカはしみじみと言いました。


「何というか、最近いろんなコトがあってさ。焦っているつもりはないんだけど、いろんなヒトに「考えすぎ」とか「気を遣いすぎ」って言われたりして、なんというか、凹んでたりしてな。それが悪いってのはないんだけど、気持ちが浮き立たないと言うか何というか」

ここで溜め息を一つ。

「昔あったイヤなこととか思い出したりして、そんなの今は何でもないのに凹んだり。そんな自分を見て落ち込んだり。そんな自分が情けなかったりするんだよな」

シカはそのまま視線を遠くに流しました。


雨がだんだんひどくなり、池に落ちる雨粒も大きくなっています。

その一つ一つがはっきりとした音を立て、自分はここだよと言っているようです。


ウシはシカの横に座ると、同じように外を見ました。

「私の友達も、以前同じようなことを言っていたよ」

こう言って、ウシは話し始めました。





アレはいつのことだったかな。

友達は仲間と一緒に退屈に暮らしていたんだ。

退屈だけれど何をしたらいいのかわからないまま、群れの中でただ草を食べたりしていたんだって。


その時、人間がきた。

「一緒に旅に出ない?」

と、その人間は言った。


友達は退屈じゃなければ何でもいいと思ったから、素直にいいよと言った。

そして、人間と共に行ったんだ。


だけど。

人間は町から離れたところに友達を連れてくると、冷たく言ったんだって。


「もういらないから」


友達はさ、何があったのかわからなかったらしい。

ただ、いきなり棒で殴られて、死にそうな目にあったのだけは憶えてるって言ってたよ。

もしもここで通りすがりのオーガが人間を襲わなかったら、友達はきっとこの世から姿を消してしまっていただろうね。


人間はオーガと戦うことに夢中になって、友達のことなんか忘れてしまったみたいだった。


だから友達は必死に逃げて、もう二度と他人を信用しないって思ったんだって。


それでも。


やっぱり一人は淋しいんだよね。

独りぼっちで過ごす月日に涙が出そうなときもあったし、モンスターに追いかけられたこともあったみたい。


そんなときに。


友達は生涯の友達と言えるヒトに出会った。

そのときはこんなヤツ信用しないって思ったんだと言ってたけれど、共に旅することになった時にそのヒトが言ったことで癒されたんだってさ。





「なんて言われたんだい?」

シカが尋ねます。


ウシはニッコリと笑いました。


「キミに会えたことは、タニアの奇跡だって」


ウシの言葉が終わると同時に、キッチンからカエルが出てきました。

「あ、まだ営業時間じゃないってのに客がいる!」

カエルはそう言って二人のところに来ると、シカに体当たりしました。

「カエルアターック!」

大して痛くないのに精神的にひどくダメージを受けた気がする、とシカは思いました。





その後、ウシとカエルとシカは仲良く食卓を囲みました。

テーブルの上にはふんわりと湯気が立つパスタが乗っています。

カエルはシカに「何で早く来たんだ」とは尋ねませんでしたが、料理の味については実にしつこく聞きました。料理人の鑑です。


食事が終わると、カエルは窓を開けました。

「あ、雨が止んでいる」

カエルの言葉通り、先程までの雨は止んで、レモンとオレンジの月がほんわりと浮かんでいます。

その月の近くには虹がほのかに出ていました。

「綺麗だなあ。こんなステキな月夜になるなんて。雨も粋なことをするね」

夜の虹にカエルが歓声をあげます。


「いろんなコトがあるけどさ、こうして一緒にこんなステキな夜を迎えられる縁もまた、タニアの奇跡よね」


カエルはニッコリと笑って言いました。

それを聞いてシカははっとした顔でウシを見ましたが、ウシはウィンクを一つしただけで何も言いませんでした。





その後しばらくして、シカは迎えにきたニワトリと共に帰っていきました。

無限に建つ酒場に行くそうで、すでにたくさんの友達がシカを待っているそうです。

「シカさんは幸せだねえ」

カエルは言いました。

「友達は夜空の虹に負けないくらいの宝だね」

ウシが言いました。

二人は顔を見合わせてにこりと笑い、今夜はお客さんが少ないだろうなあと呟きながら、並んで月を眺めるのでした。

ウシくんとカエルママンの出会いみたいになりました。

二人はパートナーですがお付き合いしてるわけではないのですよ。フフフ


カエルさん→カエル

ウシくんもしくはウシさん→ウシ

に、修正しました

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