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月を見て想うおはなし

まんまるカエル亭にはなじみのお客さんがたくさんいます。

その中の一人、三毛猫さんの幸せな恋が実りました。

空に浮かぶ月を共に見る相手ができた幸せな三毛猫へのおはなしです。

-*-*-*-*-*-


夜空に浮かぶあの月を

一緒に見れたらいいのになあ


-*-*-*-*-*-




タニアの空には二つの月が浮かんでいます。

オレンジ色したフェルの月。

レモン色したラメルの月。

優しい月は世界を照らし、静かに心を温めます。


そんな月が水面に映る小さな池の真ん前に、動物たちが集まる小さな酒場がありました。


酒場の名前は「まんまるカエル亭」。

名前の通り、酒場を取り仕切るのは一匹のカエルです。水かきと吸盤のついた小さな手できゅいきゅいとグラスを拭き、今夜もお客さまを待っております。


バーテンダーのウシが自慢のミルクで作ったミルク酒を暖めていると、騒々しく扉が開いて、愉快な仲間達が入ってきました。


「いらっしゃい」

カエルはにこりと笑います。


「また来たよー」

先頭に立ったニワトリがトサカをふるふる震わせて挨拶しました。

その股下をくぐり抜けてネズミが飛び込み、ウサギ、リス、フェレット、シカ、三毛猫が続きます。


「今日もおそろいだね」

そう言って、ウシは自家製チーズを添えたワインを出しました。

ミユーの赤い葡萄から作ったこくのあるワインにぽってりした黄色いチーズ。ソムリエのウシが研究を重ね、こだわり抜いた逸品です。


でも、客たちはそんなことはおかまいもなしに胃袋に投げ込んでいきました。

満足そうに目を細めて、空になった皿を見つめるウシ。

ウシにとってはお客さんの喜ぶ姿こそがごちそうなので、味わって食べないヤツは客じゃないなどといった思考回路がないのです。


「ねえ、聞いてよ、ママ」


チーズのかけらを舌で舐めたリスが、ニコニコと笑いながら三毛猫を引っ張ってやってきて、カエルの前のカウンターにつきました。


「この子ね、とうとう婚約しちゃったんだって!」

三毛猫は顔を真っ赤にし、下を向きました。


カエルはびっくりしましたが、それはとても嬉しいことでしたので、大きくぺちぺちと手を鳴らしました。

「ついにイケメン捕まえたんだ!」

カエルが言うと、三毛猫は髭をぴくぴくさせました。


「イケメン、なのかなあ……」

三毛猫は青い羽帽子を取り、後ろ頭をカリカリと掻いたりしています。


「イケメンだべさー。あの白い狼さんなんじゃろー?」

背後からフェレットが茶化します。フェレットは三毛猫の隣にスツールを持ってくると、チーズのお代わりを催促しながら言いました。

「近くにいると火がでるくらいのラブラブっぷりだってきいてるよん。いいないいな」

「にゃー、照れるうー。掘りたくなってきた!」


ざっくざっく。

掘り師である三毛猫は愛用のツルハシを振り下ろします。


「うひゃ、床にツルハシ突き立てるのやめなさい!オークスの地下じゃないんだから掘れないよ!!」

「あはははははは! さすが本体はツルハシ言われる猫! ママ、ワインで乾杯しよう!」

カエルは身もだえして笑っているフェレットの額をこつんと突いたあと、全員のグラスにワインをつぎ足しつつ言いました。


「幸せな三毛猫に乾杯!」


全員が唱和します。

とても穏やかな夜でした。


幸せな話で始まった宴がつまらないわけがありません。

いろいろな話題に花が咲き、笑いが響き、和やかな空気が酒場を満たします。

三毛猫のフィアンセになった幸運なオオカミの話から、いつ見ても仲がいいもこもこ羊のご夫婦の話、毎回火を噴きそうなほどアツアツなピンクのウサギ夫婦のことなどになり、最後には「パートナーについて」が話題になりました。


「尊敬できる人なら、パートナーとしてずっと一緒にいたくなるのかも」

と、ネズミが言いました。


「結婚したらあからさまに変わるってのもイヤじゃね」

しみじみとフェレットが呟きます。


「でもさ、実際のところ、結婚したりカップルになったりした時に、相手がどこまでを求めているのかわからないから怖い」

いつもはエロい話題にのみ敏感なシカも、何故か神妙な顔で頷きました。


「あら、シカさん、ニワトリ以外に相手がいたの?」

カエルが茶化すと、ニワトリは目を潤ませて言いました。

「ふにゅ、ニワトリ、捨てられたのね」

(注意:シカとニワトリは男です)

「捨ててないから!」

シカが何故かムキになるので、皆は多いに笑いました。


「もったいないからリサイクル!」

意味がわかりません!


カエルはけらけらと笑いながら、ウシ特製バターをたっぷりと使ったガーリックトーストを焼き上げ、カウンターに乗せました。


「まあさ、相手がいることだから、恋愛は難しいのよね」


珍しく正論なので、お客もウシもカエルを見つめます。

注目を集めたカエルは、えらそうにふんぞり返りつつ、言葉を重ねました。

「相手がどこまでを期待してるかなんか、わからないじゃない。今の自分でいてもいいのかとか、変なことを考えちゃったりして、それでドツボになっちゃったりしてさ、いいことばっかりじゃないよねえ」

しみじみといい、ガーリックトーストをかりりとかじる。


それから、カエルはカウンターからでると、窓を大きく開けました。


空には満天の星。

そして二つの大きな満月。


「ああ、綺麗だよ。見においでよ」


カエルが誘うと、酔っぱらった動物たちも窓辺に集まって空を仰ぎました。


「ほんとだ、綺麗」

三毛猫が呟きます。

カエルは三毛猫の帽子の羽根を軽く撫でました。


「それでもさ、この月を愛しいヒトと見られたら、それだけで結構幸せなんだと思うよ。ミケさんもこの世界でいいヒト見つけたんだから、幸せになってね。おめでとう」


その場に集まった動物たちが再び温かい拍手を送ります。

三毛猫の目がきらりと光ったのは、夜空の星のせいだけではなかったんだと思いますよ。





夜も更けて。

お客様は全員おうちに帰りました。


店内には片づけをするウシとカエルだけがいます。


「今日もにぎやかだったねえ」

カエルが言うと、ウシはにこりと微笑みました。


「さっきの話だと、カエルさんもいい人いるのかい?」

「いないよー」

哀しいくらいの即答でした。

「ヒトの幸せでオナカいっぱいですよ、ワタシゃ」

それにね、とカエルは笑います。

「ありがたいことに、ワタシにはあの月を一緒に見てくれるヒトがたくさんいるからね。心から幸せだと思ってるよ」

ウシはカエルの背をぽこんと叩きました。

「一緒に月を見て幸せだと思えるヒトの中に、私もいるのかねえ?」

カエルはにやりと笑いました。

「決まってるじゃん。せっかく親友になったんだから、今後ともよろしくね、ウシさん」

ウシは何も言わず、空を見上げました。

二つの丸い月もこちらを見て「一人じゃなくてよかったな」と思っているに違いない。

そう思うとちょっと楽しくなって、ウシの心もほんわかと温かくなるのでした。

カエルさん→カエル

ウシくんもしくはウシさん→ウシ

に、修正しました

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