銃と重火器、自由と重課金
久しぶりに書いてみました。
技術革新により生み出されたAI、Xが人類を支配して早数百年。
世界には戦争も飢餓もない、平和な時代が訪れた。
が、そこに笑顔はない。
誰もが機械のように無表情で、機械のような毎日を過ごしている。
自由も権利も許されず、Xの指示に従い世界を回すだけの存在、それが今の人類だ。
糞みたいな世界だ、と思いながらも俺もその歯車の一つである。
今日も今日とて骨董品屋の店番だ。こんなガラクタに需要があるとは思えないが、Xには逆らえない。
Xに逆らえば死ぬ。命は一つだけ。
だから、どうせ今日も客なんて来ないのに、店の扉が開くのを待ち続ける。
どうせ今日も――。
「こんにちは」
扉が、開いた。
お客様第一号は、少女であった。
少女は店内の品々には目もくれず真っすぐこちらにやってきて、はっきり言った。
「銃が欲しい」
少女の言葉に、俺はため息を返す。
折角の客かと思ったら冷やかし。がっかりだ。
「お嬢ちゃん。骨董品屋に銃があるわけ」
「あるでしょ」
あまりに確信めいた口調に、俺は口をつぐんだ。
確かに、銃の類はこの店にある。今や平和となった世界には不要な骨董品として、人類の愚かな歴史として保管してある。だがそれはXにより情報統制された機密事項だ。年端もいかぬ少女には知る由もないはず。
「十円で、あるだけ全部ちょうだい」
十円で買えるわけが、と口にする前に俺はそれに気づき、はっとした。
少女の掌にある、それ。
「じゅ、十円玉じゃないか!」
金なんて遥か昔にXが電子化して、硬貨は金属資源として全て回収された、はずなのに。
今となっては幻のお宝だ。確かにこれなら、この世に現存する銃器でも重火器でも何でも全て買い占められる。その「全て」はこの店にあるのだから、すぐにでも売ることは可能だ。
だが。
「この武器で、どうするつもりだ?」
「決まってる。Xを壊すの」
少女は力強く言う。
「Xは絶対の存在じゃない。私は、私たちはそう確信してる。Xを壊して世界を取り戻すと、その十円玉に誓ったの」
「……」
少女の言葉、思いの裏に何があるのか俺には分からない。Xに挑むなど無謀極まりないと思うが、俺には客の意思に口を挟む権利はない。
だから遠回しに、一言だけ呟いた。
「たった一つの宝を手放すなんて、勿体ない」
すると少女は、分かったのか分かってくれなかったのか、笑顔でこう言うのだった。
「手放すんじゃないわ。私は自由のために課金するの!」
少女の笑顔が、俺には眩しく、羨ましかった。
お読みいただきありがとうございました。