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凡人師匠と非凡な弟子  作者: 黒三葉サンダー
3/4

村人


「なぁ弟子よ。時にこの盛り上がりはなんだ?」

「はい、師匠。以前師匠が作り出した超栄養剤が実を結び、畑が回復したとのことで皆さん喜んでいるのです」


俺の家は村から少し離れた場所に立地しているため、滅多に村には訪れない。その為何故こんなにドンチャン騒ぎなのか理解出来なかったが、弟子の言葉である程度理解した。

まぁなんだ。要するにあの副産物が結果的に村の畑をマジで救っちまったわけだ。


至るところで野菜や果物を売ったり食べたりしている───は?早すぎね?もう収穫できてんの?あれからまだ二週間だぞ?


「流石は超栄養剤です。その成長速度には神秘すら感じます」

「……いやそれにしたって成長早すぎだろ!?逆にあぶねぇんじゃねぇのあれ!生命の神秘ですらねぇわ!なんなら魔改造レベルだわ!」

「お?この声は!」

「魔導師くんじゃないか!ようやく村まで降りてきたな!待ってたぞ!」

「魔導師さん、ありがとねぇ。これで飢餓に怯える必要がなくなったよ」

「あ、魔導師さま!この前は息子がお世話になりました!お弟子さんもありがとうございます!」


俺の声を聞き付けた村人どもがワラワラと押し寄せてくる!ドンドン増えてく人集りにウザったくなり、逃げ出そうとすると弟子に拘束された。相変わらずの無表情だが、ほんの少しだけ口角が上がっているのがわかった。


こいつがこんな風に笑うのは滅多に無い機会だ。


……はぁ、しゃあねぇな。丁度食糧の買い出しに来たわけだし、こいつだけ置いてきゃ問題ねぇだろ。

そうして拘束を振り払い逃げ出そうとすると、一瞬にして村人どもが俺を囲う!

その手に持つのは野菜や果物が入ったカゴだった!


「魔導師さん!これうちで取れたハクサイなんだ!取れたてだから是非持っていって!」

「おっとこいつも持っていけよ!うちの自慢のオレンジだ!あんたのおかげでこんなに大きく育ってくれたんでよ、あんたに食ってもらいたいぜ!」

「あたしんとこもあんたのおかげで随分と楽出来てるよ!ほら、これあんたの大好きな豚肉!今回はタダで良いからね!」

「えぇい!次から次へとなんだお前らは!?あの薬は作りたくて作った物ではない!お前らの為なんぞ少しも……って話を聞けぇ!」


 



───────


 



師匠が皆さんに揉みくちゃにされている中、私は村の女性や女の子たちに囲まれています。皆さん何故か頬を紅潮させたり、やけにニコニコとしていたりと普段よりも様子がおかしいです。


「ねぇねぇお弟子さん!あの人ってお弟子さんが話してた師匠さん!?」

「え、はい。そうですが……」

「やっぱり!?わたし初めて見たけど、良い男じゃない!」

「そうだよねぇ!なんか普段はダメ男って感じだけど、いざという時にバシッと決めてくれるタイプっぽくない?」

「でもあたしはちょっとなぁ……なんか冷たくされそうだし……。それに少し怖いかも」

「む……師匠は冷たくなんかありません」

「へ?」


師匠は私の命の恩人です。あの冷たい夜に暖かさをくれた優しい人なのです。それを悪く言われるのは気分が良くありません。


「確かに師匠は素っ気ない態度が多いですし、怒ることも多いです。しかし行き場の無い私に居場所を与えてくれたのは紛れもなく師匠なのです。だから……」

「あぁいやごめんね!師匠さんの事をよく知らないからあんな事言っちゃったんだ!あたしこそごめんなさい!」

「いえ、こちらこそすみません。強く言ってしまって……」


うう、私としたことがつい。これで皆さんに嫌われなければ良いのですが……。

もし皆さんとの交流が途切れてしまえば、結果的に師匠にもご迷惑が掛かってしまいます。


「ほらほら、そんな困った顔しないでさ!師匠さんの事教えてよ!確かお弟子さんも一緒に住んでるだよね?」

「えぇ!?本当!?もう同棲まで進んでるの!?」

「ねぇねぇ!師匠さんとはどこまで進んだの?キスとかした?」

「いやいや!もう三年も経つんでしょ?ならもっとスゴい事してるんじゃない!?」

「え?いえ。そういった事は全く……」


私の言葉に皆さんが「えぇ!?」と声を揃えて驚く。

そんなに驚く事でしょうか?


「うっそー……あり得ないわ……」

「あぁ見えて意外と奥手だったとは……」

「お弟子さんとっても可愛いのに手を出さないなんて!お弟子さんかわいそうだよ!」

「え?え?」

「そうねぇ。わたしももうお師匠さんとお弟子さんはお付き合いしてるものかと思ってたし」

「お付き合い……?」


私と、師匠が?お、お付き合い?

師匠と手を繋いだり、き、キスとか……。

い、いえ!師匠が望んでいるのは今の関係。これくらいの甘言に惑わされる必要はありません!


「師匠は師匠で、私は弟子。今はそれでいいのです」

「今は、ねぇ?」

「……なんですか」

「頑張りな!相手は捻くれ者だよ!もっとあんたから押してかないと!」

「だから私は……」

「おい!弟子よ!早く帰るぞ!このままここに長居すれば何をしてくるか分からん!」

「っ!はい師匠!」


おばさんに反論しようとした時、今まさに話の種であった師匠から声を掛けられて少しビクッとする。

師匠の方へと振り替えれば、その手に沢山の食材を抱えておりカゴはズッシリと重そうでした。


「師匠、私もお持ちします」

「いらん。貧弱なお前に持たせる物はない。それよりも帰るぞ。必要な物は手に入ったし、もうここに用はない」

「でも師匠……」

「……ならこれでも持ってろ」


師匠から一番小さい荷物を預かり、師匠と並んで歩く。

後ろから皆さんが「二人ともまたこいよー!」「魔導師さま!何時でも遊びに来てください!」「お弟子さんファイトだよ!」等と声を掛けてもらっています。


「騒がしい奴らだ。全くもって相手に疲れる」

「師匠、少し顔がニヤけてますよ」

「んな訳あるか」


予想通りな師匠の素っ気ない態度におもわずフフッと声を出してしまう。確かに師匠は誤解されやすいかもしれません。

けれど、そんな素直じゃない師匠を可愛いと思ってしまうのは可笑しいでしょうか。


「何を笑ってるんだ弟子よ」

「いえ、なんでもありませんよ。師匠」


 

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