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part4 shopping

「わあ立派な甲冑だねー」

紗々は店に入ると感嘆の意を示す。

「こっちの剣も捨てがたいなー」

「お客様お気に召しましたか」

紗々がキョロキョロしていると店員が声をかけてくる。

「こちらには素敵な商品がそろっています。お気に召したものがあれば何なりとお声かけください」

「はーい」

嬉しそうにうなずく紗々に内心俺は胃が痛くなっていた。

「兄者こっちの甲冑とあっちの剣どっちがいいかなー」

「剣の方がいいんじゃないか」

「えーでも兄者は甲冑買ってくれるって言ったよね?」

「そうだな」

俺は同意したが内心は困っていた。

一応プレゼントなので値段を見ろとは言えなかった。

だが俺の財布だって予算と言うものがある。

「紗々はねー。この鎧がお気に入りだなー」

何せその金額は俺の予算を遥かに上回っている。

百万ゴールドか。

「なあ甲冑はお前の騎士就任のお祝いってことで誕生日の方を探さないか?」

「うんわかった」

こういうとき自分の妹が素直でよかったと心から思うのだ。

「じゃあ紗々はアクセサリーがほしいなー」

「よしじゃあ装飾店に行こうか」

俺は彼女の手を引き目的の場所へ向かう。

「もう兄者過保護だなー」

「ん?お前がはぐれないか心配だからな」

俺がそう返すと紗々は呆れたような顔をする。

「これじゃいつまでたっても恋人ができないわけだー」

「ん?今聞き捨てならないことを耳にしたような……」

「兄者の気のせいじゃないー?」

紗々は俺の手をはずそうと全力疾走を始める。

「おいっ紗々あんまり急ぐな」

「へへっついてこれるかなー」

これじゃおいかけっこだなと一人苦笑する。

彼女と手を繋ぐといつも手を振りはずそうとするのは日常茶飯事だ。

それが面白くてやっているという側面もある。

「まあ今日は自由にやらせてやるとするか」

一人呟くと紗々は一直線に駆け出す。

「おーいあんまり人に迷惑かけるなよー」

「紗々だってわかってるよー」

俺の方を振りかえって見つつ彼女は駆けていく。

「仕方のないやつだ」

彼女がいつまでもそのまま素直でいてほしいものだと願う。


「お客様申し訳ありません」

「えーなんでー?」

行きつけのアクセサリー店に向かうとそこは立ち入り禁止になっていた。

「もしかして事件が起きたとかー?」

「いえそういうわけではございませんが本日はご要人が来店されているので」

店は平常通り営業しているが一般人は立ち入り禁止となっているようだ。

そこで余計な一言をポロリと放つ。

「お買い物するのに身分は関係ないと思うけどなー」

「こらっ紗々」

要人が来ているとなれば店側もそれ相応の対応を取らなければならないだろう。

俺も身分制には疑問を抱いていたがこの世界では身分がものを言うのだ。

「すみませんこいつが失礼な発言をして」

「いえ」

困ったように店員は苦笑いを浮かべる。

「なんで紗々のことで兄者が謝るのー」

「こらっ」

紗々は自分を自分で追い込んでいるのがわからないのだろう。

「要人が来ているってことはそれなりの身分の人が買い物してるってことだろう」

「うん」

「店側も警備の問題で一般人を近づけるわけにはいかないだろう」

「そうなんだー」

少し不服な様子だったが渋々といった様子で紗々はうなずく。

「それに身分の高い人っていうのは自由に買い物なんてできないって聞くしな」

「ふーん」

珍しく神妙な顔をして話を聞く紗々だった。

「身分が高いっていうのは色々あるんだよ。特権がどうのこうの言う人もいるがそれを俺たち庶民があれこれ言うのはまずいんだよ」

俺が歯切れ悪く説得すると店員もほっとした顔をする。

「ご理解のほど感謝いたします」

店員だって好き好んでこんな仕事をやっているわけではないのだから。

「ほら別の店にいくぞ」

「えー」

でもやはり納得はいっていないようで。

「身分が高い人は権力があるってことでしょー」

「そうだな。お前の言うとおり今その権力のある人が買い物してるんだよ」

「でも実は紗々だって騎士なんだよねー」

まずい。こいつ特権があるとわかった途端それを乱用しようとしている。

「ばか。これから騎士になるってだけだろう」

「ふふーん。でも騎士は騎士だよー」

そして店員に微笑みかける。

「ねえ少しだけでいいから中見せてよ。紗々は騎士だよー」

それは半ば脅しのようなものだった。

「しかし……」

店員は困ったような顔になる。当然だろう。ただの小娘だと思っていた相手が未来の騎士なのだから。

「ほらっこれが王家の紋章だよー」

正式にはまだ王家の騎士ではないのだが何かあったときのために事前に手渡されていたのだ。

だけどこんなことに使うためではない。

「これは失礼いたしました。どうぞ中にお入りください」

紋章を見せると店員は恭しくひざまずく。

「いや申し訳ありません」

「いえ王家の騎士の方を外でお待ちさせるわけにはいきませんので」

そして店内に招き入れられた。


そこには俺のよく見知った顔があって。

「あら紗々と界。どうしてこちらに?」

国王の一人娘で紗々が仕える相手でもあるアリサ姫がお忍びで来店していたのだ。

「なんだー。要人ってアリサ姫のことだったんだー」

「あら。外でお待たせしてしまったようですね。従者のものが気が利かなくて申し訳ありません」

「いえ」

俺はあまりの恐れ多さにさっきの店員と同様ひざまずく。

「ほら紗々も」

「はーい」

紗々にも促すと彼女は素直に従った。

「そう仰々しくならなくても……」

アリサ姫は少し困ったように笑った。

「でも俺はただの平民。紗々も未来の騎士とはいえあなたに仕える身分ですから」

「みぎにおなじく」

紗々も恭しい態度でアリサ姫の手の甲に口づける。

「わが主に最高の一日を祈っておりまーす」

「まあ可愛らしいことをしてくださるのですね」

アリサ姫は紗々の行動に喜んでくれたようだ。

場がなごみ俺は一人ホッと息をつく。

「アリサ姫本日はいかがいたしましたか」

「まあなんて言いましょう」

彼女は再び困ったような顔をする。

すると従者が前にやって来て一言付け足す。

「本日は新しく騎士になられる紗々さまのためにお買い物を」

「でも王家には専属の業者がいるって聞きましたが」

「シュタット家とのことね。でももう彼らとのやりとりも先代限りで終わりにすることにしたの」

そう告げる姿はどこか寂しそうでもあり複雑そうだったが彼女ははっきりと言った。

「これから市政にも目を向けないといけませんから」

相場がどうなっているのか知りたいという側面もあったのだろう。

「私も新たな騎士を迎えてからは政治に力を入れなければと父とも話しておりました」

「へえ。アリサ姫もせいじのせかいにはいるんだー」

「そうよ。あなたにも力になってもらいます」

彼女は紗々のてを握りにっこりと微笑む。

「でもいきなりお店に入ってきたのは驚きました。人払いもしてあったのにどうやって?」

「それは……」

もじもじと恥ずかしがる紗々をよそに俺が答える。

「紗々は王家の紋章を店員に見せたんです」

「まあっ」

彼女は厳しい面持ちで紗々にいって聞かす。

「王家の紋章はそうそう簡単に見せてはなりませんよ」

「はい……」

しおらしくなった紗々は恥ずかしそうにうつむく。

「もうしわけありません。アリサ姫」

「今日は不問にいたします」

にっこりと笑うアリサ姫に紗々は驚いた顔をする。

「いいのー?アリサ姫?」

「ええ今日は特別よ。それだけじゃなくてよかったら一緒に買い物しませんか?」

「やったー」

彼女の言葉に嬉しそうに笑う紗々だった。

「それじゃ俺はこの辺りでお邪魔します」

「いえあなたも一緒にいましょう」

兄弟水入らずを邪魔して悪いけれどと付け足す。

「恐れ入りますアリサ姫」

かくして俺たちはアリサ姫の言葉にしたがいお側に控えさせてもらえることになった。

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