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part3 battle

「よし、行くぞっ」

「兄者、どこからでも構わないよっ」

久々の模擬戦だった。相手は俺の妹の紗々。

彼女がアリサ姫の騎士に召しあげられることが決まってからは初めてだ。


「火の精霊よ我に力を与えたまえ」

俺が魔術を詠唱すると紗々は不敵に笑う。


「ふふん。その手は兄者の得意技だねー」


先にこちらの手を読んでいたのか紗々はひらりひらりと炎の球をかわしていき俺の鼻筋に剣を向ける。


「これで兄者に勝ち目はないよねー」

「まだ俺は負けたとは言ってないぞ」


自信があるのはいいが油断してしまっては模擬戦の意味がない。


「水の精霊よ汝の力を天に示せ」


すると俺と紗々の間に水の柱が沸き上がる。


「ううっ。兄者ずるいー」

「お前が油断しているのが悪い」


水が俺たち二人を遮っている間に次の攻撃に備える。


「ううっ紗々だって……」


俺が魔法の詠唱を始める前に紗々は攻撃を始める。


「行けええええ!メテオラッ」


それは天から炎の塊を呼び起こす詠唱魔法だった。


「ちょっと待て紗々っ」

「べええっ。兄者の言うことなんて聞くわけないもんねー」


あっかんべえのポーズをとりながら詠唱を続ける。


「天の神よ闇の神よ汝が力を我に……」

「ちょっとタンマっ」


「勝負に待ったは無しだよー」


これまた余裕の表情で紗々は詠唱を終えると今度は剣術でも俺を圧倒する。

「ふふん。魔術で兄者に負けても紗々には剣術があるもんねー」

彼女は俺に切りかかる。

「水の神よ」

一つ一つの動きに会わせて水の盾を作り上げ攻撃に耐える。

「さてさてメテオラで兄者はやられるルートだし。剣術でも追い詰められているよー」

攻撃を受け止めることに精一杯で次の手に出ることができない。

これが俺と紗々との実力の差か。

近い将来魔族との戦いの前線で彼女は活躍するはずだ。

俺だって魔法に関して言えば紗々より実力は上だ。

だが生まれ持ったセンスや運の強さ、すべてを含めた実力は彼女の方が上だった。

「これじゃ俺も最終手段に出るしかないな」

「さいしゅーしゅだん?」

不思議そうな顔をする紗々だったがそれでも剣術に手を抜く様子はない。

「なんか難しそうなこと言ってるけど兄者にはメテオラが待ってるんだよー」

それが来れば剣術などなくても彼女の勝利だと言いたげだ。

だがその自信が命取りになるとは考えていないようだ。

「ふふん。メテオラがあとちょっとで降ってくるよ」

「ああそうだな」

「うーん。諦めの悪いやつだなー。どうして兄者は諦めないの?」

厳しくしすぎたマナーの特訓の逆襲のつもりか紗々の攻撃に容赦はなかった。

「兄者が苦手な模擬戦で悶え苦しむのを見て楽しむつもりだったのにー」

「お前……」

得意なことになると生き生きとしているのがなんだかなあと思ってしまう。

他のことにもこれくらいのやる気を出してほしいものだが。

「ここまで追い詰めたのに兄者が紗々のことあれこれ説教しそうな顔してるー」

「悪いか」

「なんで紗々が勝ちそうなのにそんな目で見るのー?」

少しばかりふてくされたのが子供っぽくて俺は苦笑した。

「それは俺にも意地があるからな」

「何の?」

「騎士になるお前の兄としての」

これで十分だろう。相手の気は完全に引き付けた。

「行くぞ。リフレクションッ」

降ってきた火の玉が紗々の方へと反射する。

「兄者図ったなー」

紗々はそう言葉を発すると次々に火の玉を避けていく。

だが。

「俺からもメテオラだ」

反射してきた炎の球とは逆方向にもう一度炎が襲いかかってくる。

「ひい兄者のバカー」

頭を抱えながら紗々は火の玉を剣でついていく。

「うぅ。もうへとへとだよー」

しだいにそのスピードは落ちていき最後は尻餅をついた。

「うう。紗々の敗けですー」

そうして涙混じりに俺を見上げる姿はどこか情けなく。

「仕方ないな」

俺は魔法を引っ込める。

そしてへたりこんだ紗々に手を差し出す。

「大丈夫か?」

「うーんダメかもー」

頭をくらくらさせた紗々の頭をくしゃりと撫でる。

「久しぶりの魔法で目眩がするよー」

そのまま紗々は静かに目をつぶった。

「兄者は鬼畜なのにこういうときだけ優しいよね」

「鬼畜って……。お前はそういう言葉をどこから習ってきてるんだ?」

「ふふん。ないしょー」

少しだけ嬉しそうに紗々はにへらっと笑う。

「紗々だって兄者が思ってるよりおとななんだよー」

「大人は油断して試合で負けるのか?」

「ううっそれは別」

ばつが悪そうに返事をする紗々だったが。

「今度は負けないからねー」

彼女が俺を負かす日はそう遠くないだろう。

そう思うと彼女を手放すのが名残惜しく何度も紗々のきれいな赤い髪を撫でる。

それを気持ち良さそうに目を細める紗々だったが。

「ねえねえ。ぱとろんのおねえさんにもこういうことしてるの?」

「うっ」

痛いところをつかれ俺は言葉につまった。できることなら俺の黒歴史は知ってもらいたくはない。

「うーん。どうだろうなあ」

明後日の方向を見て頭をボリボリ掻くと。

「隙ありっ」

額にに空手チョップを入れられる。

「ダメだなー兄者。今油断してたでしょ」

なぜか得意気に胸を反らす紗々だった。

「ちょっぷ」

そして平手でぶつふりをする。

「こら模擬戦はもう終わったんだぞ」

「そんなの気にしないーちょっぷ」

もう一発額に空手チョップが入る。

「イテッ」

「ふふん兄者大人は油断して負けないんでしょー」

どうやら俺の言葉を気にしているらしい。

「俺が悪かった。俺の敗けだ」

「分かればよろしい」

バシッと肩を叩かれる。

「ねえ兄者。紗々が騎士になったらご飯おごってあげるよー。だからぱとろんのおねえさんたちの側にいるのはやめようよー」

彼女の言うことは正論だった。だが俺は妹に養われるのは兄としてのプライドが許さなかった。

「それは難しいかもしれないな」

「なんで?」

キョトンとした顔で俺を見上げる姿は愛らしい。

「俺も魔法はそこそこ使える。だけど騎士団に召しあげられるだけの実力はない。だから子供相手に魔法を教えるくらいならと思ったんだ。それなら引き続きお前のサポートもできるし何より気楽でいい」

「兄者はそれでいいの?」

「うん」

今後紗々が騎士として行き詰まる時がくるだろう。そのとき俺は全力で彼女を助けられる。そんな状態にしておきたいのだ。

「紗々はなっとくできないなー」

「どうしてだ」

「それじゃ兄者は紗々のために生きてるみたいだよー」

俺はそれでいいと思っていた。唯一の家族を大切にしたい。

「兄者、自分にうそついてない?」

「難しいことを聞くんだな」

俺は自分にうそをついているつもりはなかった。

「紗々だって騎士なんだよー」

「ばか。これから騎士になるんだろ」

「うーん」

これ以上会話をしても埒が明かないと思ったのか紗々は思案顔をしてから真剣な面持ちになり。

「これいじょうはふもんにする」

そう宣言した。それがおかしくて俺は頬を緩める。

「お前それがやりたかっただけだろ」

「ふふん。バレたー?」

笑顔の紗々は可愛らしかった。できれば手放したくないほどに。

「じゃあ兄者。買い物に行こうー」

「ああお前の誕生日プレゼントだな」

約束した通り彼女に渡すものを買いにいくことにする。

彼女といられる時間は限られている。

今は存分に楽しむことにしよう。


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