part19 party2
かくしてパーティーは始まった。
俺は来客に挨拶をしながら広間へと案内する役目だった。
ちなみにアリア姫も今日ばかりは部屋で閉じ籠るわけにいかないので彼女も俺と同じ役目を担っていた。
つまり俺とアリサ姫の二人で来客を捌くことになる。
「いらっしゃいませ」
東方の住民が多く集まっていた。彼らはこの地を支える貴重な人材だ。今日は彼らを楽しくもてなすことが出きればいいが。
「アリサ姫のいる屋敷とはこちらでよろしいのか」
騎士修道会の仲間たちもパーティーに出席する予定だ。
彼らもぞろぞろとやってくる。
普段が男所帯だからか村の娘たちが綺麗に着飾っているのを見ると目を輝かせている。
「へへっ。べっぴんさんだらけじゃないか」
案の定若い娘に浮かれている兵士たちが顔を見合わせている。
「今日こそは恋人を作るって決めたんだ俺は」
決意が固いのか男はことあるごとに女性にちょっかいを出している。
「へいお嬢さん俺といっぱいどうかい?」
「それはちょっと……」
女性が困ったような顔をしているが兵士はぐいぐいと言い寄る。
「なに一杯だけだよ一杯だけ」
「勘弁してよ……」
あからさまに嫌な顔をされて兵士は別の女性に当たる。
「へいお嬢さん、これから食事はどう?」
「食事は広間でいただくので」
今度はさらっとかわされてしまった。
「あちゃあ失敗続きだな。でも俺はめげないって決めたからな」
そして何度も女性にアプローチをかけては玉砕するの繰り返しだった。
周囲の女性も辟易しているようだった。
その空気を読み取って俺はある行動をとることにする。
大切なパーティーを白けさせてはいけないのだから。
そしてもちろん主催者のアリサ姫の手前見逃せないというのもあるが。
「おいお前今日はハインリヒ殿の大事な日だぞ気を抜くな」
浮かれている兵士に声をかけると彼は素直にうなずいた。
「はい旦那、分かってますよ」
「女性にちょっかいを出すのはほどほどにしておきな。そうだ広間では食事が用意されている。まずはそっちに向かえ」
「そうですね。おまんま食いっぱぐれないようにしないと」
そう笑うと兵士はおとなしく広間に向かった。
「先程はご活躍していましたね」
時間の合間を塗ってアリサ姫が声をかけてくる。
「何ですか?」
「女性に声をかけていた兵士をさりげなく広間に向かわせてくれたじゃないですか」
彼女は優しく微笑みかけてくる。
数の多い来客に疲れているだろうに嫌な顔ひとつしなかった。
「そんな感謝されるほどの事ではありませんよ」
むしろ細かいところまで気を使ってもらってこちらの方が驚きだ。
「それよりアリサ姫ドアの近くは冷えます。なかに入って暖をとるのはいかがですか」
ずっと立ちっぱなしで寒いところにいたのか彼女の顔色はよくなかった。
「ええそうさせてもらいますね」
彼女はこくりとうなずき広間へと向かう。
これから先も挨拶をしないといけないだろう。
今日は彼女がパーティーの主役だ。
忙しいのは気がかりだったが楽しんでもらえればいいが。
その後も客足は絶えず俺はアリサ姫の分も含めて丁寧に挨拶をした。
一応俺がこの屋敷のもとの主だからな。
大半は顔馴染みだったので苦労はしなかった。
むしろ再びこの地で会えたことに喜びを感じていた。
「そろそろパーティーが始まります」
村人の言葉で俺も広間へと向かうことにする。
予定の時間を迎え客人たちもほとんどが広間に集まっているところだった。
「本日はようこそいらっしゃいました。私は国王の娘のアリサです。今日は幹事を務めさせていただきます」
彼女の言葉に拍手が起こる。
「そしてこちらがハインリヒです」
騎士修道会の長であるハインリヒが挨拶を求められる。
「こほん。本日はよく来てくれた」
そして本題にはいる。
「色々と騎士修道会で相談した結果を報告しよう」
それは彼がアリサ姫の依頼を引き受けるか否かという問題だったが。
「俺はアリサ姫の下で東方を治めることになった」
その言葉に客人たちから賛成の拍手が起こる。
「よっハインリヒ殿下」
「今後ともよろしくだぜ」
合いの手が入り彼は苦笑した。
でも嫌ではなさそうだった。
そして最後に。
「今日は楽しもう」
簡潔だがそれで十分だった。
ワインの入った杯を片手に彼は一言。
「乾杯」
客人たちもそれに合わせて乾杯をする。
「ねえねえ兄者ーどうして紗々は葡萄ジュースなの?」
人混みを掻き分け妹の紗々が俺のもとへとやってくる。
「それはお前がまだ子供だからな」
「ええー。みんなばっかりずるい」
「しー」
人差し指をたてて静かにするように合図すると紗々はおずおずとしたがった。
「うー紗々はアリサ姫の騎士だから立派にしておかなきゃ」
「よしよし」
彼女の頭を撫でると紗々はふふんと鼻をならす。
「それよりハインリヒが悪巧みしているの止めなくていいの?」
「悪巧み?」
紗々はにやにやしながら話を続ける。
「ハインリヒ、さっきからケーキをきょろきょろ眺めているからさ」
きっとなにか悪いことしたんだよと紗々は言う。
「あの人……」
自分では人に頼らないといったのに結局ものに頼っているようだ。
つまりシュトーレンではなく今日はケーキに指輪を仕込むつもりのようだ。
指輪は自分でいれるつもりなのだろうがアリサ姫の食事のタイミングをうかがっているようだ。
「紗々ちょっと行ってくる」
「らじゃー」
彼女は敬礼で見送ってくれる。
「さてみなさん本日は美味しい食事楽しんでいただけたでしょうか」
アリサ姫は司会に徹していてなかなか食事をできていないようだ。
「美味しいよーアリサ姫ー」
周囲の声に混じって紗々の声がする。
まったくあいつはと俺は一人苦笑する。
「アリサ姫少しよろしいですか」
小声で彼女に声をかけると少し具合が悪いのか静かにうなずく。
「司会は俺が代わります。今はゆっくりと食事をしてください」
「でも……」
自分が開いた会だから責任感も強いのだろう。
「いいのです。あとはこちらのしおりにかかれている通りに話を進めればいいのですよね」
「では……申し訳ありませんがよろしくお願いします」
彼女に皿とフォークを手渡し俺が司会の代役に出ることにする。
しおりをみて次の流れを確認する。
今日は食事がメインのパーティーだが聖夜なので聖歌隊を呼んでいるようだ。
ということで客人たちの食事が一段落する頃を見計らって控えている聖歌隊を呼び込む。
「今日は聖歌隊の皆さんが屋敷にいらしています」
十数人の少年たちがピアノに合わせて歌を口ずさむ。
きれいな歌声だった。
曲名はわからないが聞いているとどこかで聞いたことのあるようなどこか懐かしみを覚える曲調だった。
ぱちぱち拍手が起こる。
客人たちも喜んでいるらしい。
拍手は次第に大きくなりアンコールを求める声が出てくる。
「では皆様のお声にお答えいたしましてアンコールです」
彼らは聖しこの夜を歌ってくれた。
優しい歌声に心を現れるようだった。
そして仕事が終わりほっと一息つくと。
ハインリヒがアリサ姫にケーキの皿を手渡すのが目にはいる。
「あっ止めないと……」
ハインリヒは自力で告白するといったのだから多少邪魔してもいいだろうと判断する。
彼には気の毒だがアリサ姫の具合はよくなさそうだし見ていて不安になる。
「ちょっと待った!」
二人のもとにかけより間に割ってはいる。
「何だ界?」
「どうしましたか?」
二人は目を丸くして俺に尋ねる。
「いやー司会も無事終わったし俺もそろそろケーキが食べたいかなと思って」
その言葉にハインリヒの目がぎろりと光る。
「このケーキはお前にやらんぞ」
どうやら俺を邪魔な人間第一号に認定したようだ。
「お前はあそこのテーブルから新しいケーキをとってくればいいじゃないか」
そもそも腹は減っていたが本当は暖かいスープやキッシュにフリッツ、豚の丸焼きが食べたかった。
つまり今は甘いものの口ではないのだが。
彼がアリサ姫に告白すると言うイベントを邪魔しなければいけないと言う使命感に駆られていた。
「あのこちらのケーキはハインリヒが私にと言ってくれたものです」
アリサ姫はなにか不穏なものでも感じ取ったのか疑問を口にする。
「人にいただいたものを勝手に渡すのは憚られますが私は食欲がないのでよろしかったら界が食べてくれませんか」
その言葉にハインリヒの瞳は絶望の色に染まる。
「それだったら俺が食べる」
大人げないことをと思ったがここは俺も引くわけにはいかない。
「アリサ姫フォークをお借りします」
いそいそと彼女のてからフォークを受け取り急いでケーキにそれを突き刺す。
「おのれ界っ。お前手伝ってくれるんじゃなかったのか」
「あなただってもっと堂々とした方法でやるはずだったでしょう?」
一口大のケーキに大きく口を開けて。
「いただきまーす」
「おいっ」
勢いよく食べるとカランと金属音が響き渡る。
「これは……」
予想通り高価な指輪がケーキに入っていた。
「おお高級な指輪が入っていたぞ。プレゼントしてくれたのは誰だろう?」
わざとらしく俺が呟くとハインリヒが俺の頭を叩く。
「バカ野郎」
「すみません」
悪びれずに謝ると余計に彼の怒りを煽ったようだが。
「あらハインリヒ。あなたも隅におけませんね」
ふふっとアリサ姫が笑う。
どうやら彼女は誤解してくれたようだ。
「どこかのお嬢様があなたのことを気に入ってくれたようで」
かくして波乱のパーティーは終わった。




