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part14 devils

「魔族が教会を囲い混んでるって兄者は言うけどさー」

妹の紗々は剣を片手で振り回して俺に質問する。

「大体どのくらい?」

ずいぶんとアバウトな質問だった。

魔族と裏で繋がっていたハインリヒは今意識を失っている。

彼が悪魔を召喚し、魔族を呼び出したという。

「うーん。見たら分かるだろ」

「えー兄者適当すぎー」

そして危機的な状況に陥ってるにも関わらずどこか余裕のある俺たち二人だった。

「ハインリヒは今倒れてるから詳しいことは聞けないぞ」

「そういう意味じゃないってばー」

ぷくっと頬を膨らませる姿は愛らしいが今は感傷に耽っている場合ではない。

「紗々、ハインリヒが魔族とやり取りしているの見たか?」

「紗々知らないー」

首を横にふり紗々は剣を一振りする。

「でも紗々たちの前じゃ目じゃないよねー」

彼女はふふんと得意気に胸を張る。

すると天井から魔族が舞い降りる。

全部で十体以上いた。

「これは手強そうだぞ」

彼らの使う言葉は俺たちには理解できない。

だが彼らは倒れているハインリヒを確認すると何かをぶつくさと言い合う。

そして選んだ結論は。

「ぐがががっ」

俺たちを倒すという選択肢だった。

魔族は松明の光がなくとも夜目が利く。

崩壊しかかった教会に差し込む淡い月明かりだけでは心もとない。

「兄者ここは紗々に任せてー」

「おう」

紗々は魔族の大群に切り込んでいく。


その間にも俺は炎魔法で敵の目をくらませる。

「燃え上がれ!」

すると苦悶の声が魔族の口から漏れでる。

「これでしばらくは目が使えないだろう」

夜襲に特化した魔族たちには強い光は目の毒だ。


「こっちは使い物にならなくしたぞ」

「兄者早いー」

紗々はそういいながら剣で魔族の懐に入り込む。

そして。

ザンッ

下段の構えで敵の腹部を切ったようだ。

「紗々危ないから戦ってる最中は目を離すなよ」

「りょーかい!」

俺の注意を聞いているのかいないのかそのまま紗々は攻撃を続ける。


しかし参ったな。

敵は十体以上いるのが目にはいったが倒しても倒しても一向に減る気配がしない。

しかたがないのでハインリヒの頬をぺちぺちと叩く。

「おーい起きてくださいハインリヒ殿ー」

意識はないが呼吸はしっかりしている。心臓の動きも異常はない。

ただ気を失っているだけだとしたら。

「早く目を覚ましてくれないと困るんだよなー」

戦いは俺たちの優勢だったが数では敵に利がある。

ことの首謀者であるハインリヒが目を覚ませば交渉の余地はあるだろう。

「兄者ー何してるのー?」

「ハインリヒを起こそうとしているんだけどな」

面白いものでも見つけたように紗々は声をかけてくる。

「面白そうー。紗々にもやらせてー」

「ダメだ」

ピシャリといい放つと紗々はぐずつく。

「なんでーちょっとくらいいいじゃんー」

「お前は戦いに集中しろ」

「兄者のおーぼー」

横暴と言われるほどのことはしていないはずだが紗々は覚えたての言葉を使って詰る。

「おい危ないぞ」

彼女が目を話している隙に魔族が一体襲いかかる。

「うー兄者ー。やられちゃいそうだよー」

紗々がべそをかく。これだから詰めが甘いのだ。

「待ってろ今行くからな」

ハインリヒのことはおいてまずは妹の危機を助けなければ。

俺は詠唱魔法を繰り出す。

「炎よっ」

すると一気に魔族の身体が燃え上がる。

「うー助かった……」

紗々はその場にへたりこんでしまっている。

「だから言わんこっちゃない」

「うーだって兄者の真似がしたかったんだもん」

そういわれると彼女を責める気になれなかった。

我ながら自分の身内には甘いと一人笑う。

「兄者ーなにかおかしいの?」

少しむくれたようなそんな表情も年相応で愛くるしい。

「なんでもない」

「なんでもあるよー」

俺がはぐらかしたのが気にくわないのかやたらと食い下がる。

「兄者の意地悪ー」

どうやら彼女にとっては俺は優しくないようだ。

「うー。兄者がいけすかないよー」

そうこうしているうちにもう一体魔族が紗々の方へと駆け出す。

「ふーんもう知らないもんねー」

脇目も降らず魔族を切り捨てる。

その姿は夜叉のようでもあり鬼気迫るものがある。

俺にとってはただの妹でも紗々は国ひとつを背負う騎士だ。

「おーい怒るなって」

「ぷんすかぷん」

鼻をならしながら攻撃を続ける。

先程油断していたときとは打ってかわりその太刀筋に迷いはない。

次々に敵を倒していき地面には魔族が多く伏せている。

これが紗々の力か。

これは使う人によっては大きな力になる。

だからハインリヒも彼女を利用していたのだろう。

「兄者はハインリヒの相手だけしてればいいんだー」

紗々は涙目になりつつ縦横無尽に駆け出す。

そして十字に剣を動かすと。

「兄者のばかー」

魔族が一斉に吹き飛ぶ。

「とんでもない力だな」

俺がぼそりと呟くと。

「へへーん兄者なんてアリサ姫と結婚して玉の輿すればいいんだー」

自分でも何をいっているのかわからないのだろう。

支離滅裂だった。

「おい俺はまだ結婚するには年が若すぎるだろっ」

「でもでもアリサ姫には紗々よりずっと優しくしてるしー」

「何をそんなに怒ってるんだ」

八つ当たりに近い形で紗々は俺を詰る。

「せっかく久しぶりに会えたのに兄者はこそこそ一人で行動するし、紗々も気を使って一生懸命頑張ったのにごほうびもないってひどいよー」

どうやら俺の態度に不満があったようだ。

いや不満というか。ただ単に疲れているだけだろう。

そして疲れから俺に甘えたくなったのだろう。

そういうところはまだまだ子供なのだ。

俺はあきれたように笑う。

「ふーん何がおかしいのー兄者?」

「いや、お前もずいぶん大人になったと思ったけど」

「おとな?」

「うん。でもまだ子供だな」

「えー」

おとなと言われて喜んだのもつかの間子供っぽさを指摘され残念そうな顔をする。

「せっかく兄者に認められるような騎士になったと思ったのにー」

「俺はお前の実力は認めているよ」

「でもマナーとかも完璧に身に付けたんだよー」

どうやら自慢したいようだった。

彼女も俺と離れて色々と考えたようだった。

でも根本はあまり変わらない。

俺はそれがおかしくて小さく笑う。

「やっぱり紗々のこと笑うじゃん兄者ー」

「すまん」

それでも口許が自然と緩んでしまう。

俺も大概シスコンだなと一人呟く。

人に言われると認めたくないことだがこうして自分の妹を目の前にするとどうしても甘やかしてしまう。

「やっぱり作戦変更だ」

ハインリヒを起こすのはやめにした。

いくら彼が交渉権を持っているとしても悪魔が祓われた現在魔族たちが言うことを聞くとも思えなかった。

俺たちを追い込んだ首謀者は今も意識を失っている。

だがよくよく聞いてみると。

彼は規則正しい寝息をたてていた。

「ってハインリヒ?寝てるのかっ」

思わず突っ込んでしまった。

妹の成長を見てなごんでいた気持ちが一気に吹き飛ぶ。

「おい、ハインリヒ殿っ。早く起きろこのアンポンタン」

俺も紗々に影響されてか言葉が乱暴になる。

「ん……むにゃむにゃ」

やはり彼は今夢の世界にいるということだ。

しかたがないので耳元で大声をあげる。

「ハ・イ・ン・リ・ヒー」

「うーん」

この一大事に気持ち良さそうに眠れるやつがあるかと内心思いつつ表面上は冷静に努めた。

「朝ですよー」

行きを大きく吸い込み大声で叫ぶ。

「なんだ。界か」

まだ眠たげな声で彼は返してくる。

「界か。じゃないですよっ」

「うーん?」

本日二度目のうーんいただきました。だがそれを吹き飛ばす勢いで。

「今すぐ魔族を引き上げさせろー」

「そうだそうだー」

なぜか紗々も便乗してくる。

「あ?魔族?俺は一体何を……?」

どうやら悪魔が祓われたことで記憶が一部欠落しているらしい。

これでは使い物にならない。

「もういいお前は自分の身を守れっ」

「は?」

あまりの剣幕にハインリヒは言葉を失っていた。

仮にも騎士修道会の長だ。こんな粗雑な扱いを受けるとは思っていなかったようだ。

「元はといえばあなたのせいなんですからねっ」

本人には自覚なしだがことの元凶であるハインリヒに一言言っておきたかった。

「本当ならここで使いたくなかったが……」

ここまで来たなら背に腹は代えられない。

「紗々一緒に詠唱するぞ」

「う、うん」

俺の勢いに圧倒されたのかいつもより戸惑っているようだった。

「せえのっ」

目を会わせ声を揃えて。

「メテオラーッ」

そして教会にはいくつもの隕石が降るのであった。

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