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  作者: しずか
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ノケモンたち(4)

また書きました。

【少年】

「急にどうしたんだ?」


休み時間にいつもの様に机に突っ伏していると、


僕の唯一の友達、浅葱さん大好き人間大柴が声をかけてきた。


「何が」


僕は大柴の顔をみないまま会話をする。


「田名部についていろいろ聞かれたとクラスの女子が騒いでたぞ」


普段話もしない得体のしれない生物が、話かけてきたからびっくりしているのだろう。


さながら、いつもは洞窟でのんびり暮らしているドラゴンが街に買い物にいくような、そんな感じだろう。


「人間のみなさんを驚かせてしまい、申し訳ございませんでしたと伝えておいて」


「いや、女子は逆に喜んでたぞ。お前と話が出来たって」


「そっか、確かにドラゴンは珍しいもんね」


「さっきから何の話してんの?」


「大柴は田名部くんのこと詳しい?」


「別に詳しくはねえけど、入学式で少し話したかな。

気弱そうだったけど、人の話をしっかり聞くいいやつだと思ったな。」


「そうなんだ。なんで学校に来なくなったか、知ってる?」


「それは知らん。確か、最初の一週間登校してその後から学校に来なくなったって聞いたけど。」


「田名部くんについて一番詳しいのは誰なんだろう」


「さあな、小学校が同じだったヤツは何人かいるんじゃないか。

田名部は学校の近くに住んでるから、南小に通ってたんじゃないかな。」


さすが大柴だ。顔が広くて、クラスの人気者。


困ったときは大柴だな。


そう思いながら顔を上げ、本日初めて大柴の顔を見る。


大柴は少し微笑んでいるような、とても穏やかな顔をしていた。


浅葱さんについてエロイことを考えているとピンときたので、冷たい声で言った。


「さっき浅葱さんと少し話したけど、大柴のことキモイって言ってた」


「お前それ嘘だろ。嘘じゃなくても嘘って言ってくれよ。俺もう生きていけないよ・・・」


「嘘だよ」


「なんでそんなひどい嘘つくんだよ。田名部のこと教えてやったのに」


「大柴がエロイ顔してたから。浅葱さんに代わって処刑してあげようとおもって」


「エロイ顔なんかしてない」


「おもしろくないのに、少し顔が笑ってた」


大柴はそこで少し間をあけると恥ずかしいことを口にした。


「お前がクラスの人間に関心を持ってくれたことが、うれしくて・・・」


さすがの優等生、クラス委員だ。


しかし、彼の言う通りだろう。


彼以外のクラスメイトと話をしたのは初めてだ。


会話をして特別何かを感じたわけではないけれど、人と話をするのは嫌いではなかったのだと思い出した。


そして、わかってはいたけれど大柴はいつも僕のことを気にかけてくれていたのだな。


今度、浅葱さんと話をするときは大柴はいいやつだと伝えておこう。


「ありがとう、大柴。ついでだから一つ頼み事があるのだけれど・・・」


大柴がなんでもしてくれそうな雰囲気だったので、お願いをしておいた。


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【田名部 彰浩】

一人の時間は人間にとって必要なものだと思う。


対人関係が生活のほとんどすべてである現代において、一人の時間は薬のようなものだ。


しかし、一人の時間が多すぎてしまうとそれは毒になる。


先日、家族以外の人と話をして自分の姿を鏡で見てふと思った。


僕が日ごろ心の支えにしている小学校の時の栄光の記憶は本当なのだろうかと。


僕は、クラスの人気者でクラスで1番かわいい子に告白されて、スポーツも万能。


本当に?


卒業文集をみても、友人のコメントは4人からしかコメントをもらえていないし、内容も当たり障りのないものだ。クラスは32人いたのに。


6か月という短くない期間のなかで僕の記憶は美化されてしまったのではないか?


いや、美化なんて生易しいものではなくクラスの人気者の過去を自分の過去だと思ってしまっていたのでは?


高校に行かなくなった理由も今ではあやふやだ。


大した理由なんかなかったのかもしれない。


ただ、これまでの経験から高校生活がどんなものになるのか予想がついてしまったから。


それ以上、考えると本当にヤバイ気がしたのでそこで考えるのをやめる。


唯一の心の支えさえなくなってしまったら、自分は本当におしまいだ。


ただ、美化された思い出の中で本当のこともあるような気がしている。


あれはおそらく5年生の時、自分にも親友と呼べる相手がいて毎日を一緒に過ごしたような気がしている。


もちろん勘違いかもしれない。


それならなぜ、文集に親友の言葉がないのだろうという話になる。


もう何もかもがどうでもいい。


そんな存在がいたところで、僕はもう変われないのだから。





ありがとうございました。

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