ノケモンたち(3)
また書いてしまいました。
【???➡死神(自称)】
俺が死神の進捗会議に参加している間に何があったのだろう。
「なんだ豚かと思ったら、田名部くんか」
急に人の家に上がり込んだと思ったら、暴言を吐く。
その姿はまるで、悪魔や死神。
俺の真似をしているのかな。でも、俺はあんな酷いことはいわないような・・・。
暴言を浴びせられた田名部くんとやらは、何が起きたのか分からず放心状態だ。
「鍵閉めたはずなんだけど・・・」
かろうじてそんな声を上げる。蚊の鳴くような小さな声だ。
「鍵ならぶっ壊した」
全然悪びれず、むしろゲームでラスボスを倒してやったぜと言わんばかりに胸を張っている。
「なんで・・・」
田名部君は泣きそうだ。
「扉に鍵がかかっていたから」
少年は嬉しそうにしている。
会話は全く嚙み合っていないようだが、雰囲気で少年が押している。
「それにしてもこの部屋汚いね。掃除手伝おうか?」
少年はそう言いながらも既に扉脇のゲーム類を棚に移動させている。
死神をやっていると人の気持ちに敏感になる。
表情や雰囲気でどのような感情を抱いているかがわかる。
この時の田名部の気持ちも。
「触るな」
田名部は少年に近づき奪い取るようにゲームを取り返した。
そして、憎しみとわずかな悲しみを瞳にともし
「出て行ってくれ。そして二度と僕に関わるな」
俺にはその声が泣いているように聞こえた。
⏰
「すいません。鍵を壊してしまって」
少年は田名部の母親であろう人物に頭を下げ、また来ますと口にして別れた。
帰り道、少年はいつもの様に見慣れた景色を見ながらもの思いにふけっているようだった。
しばらくして口を開いた。
「キミは自分が不幸だと思ったことがある?」
「・・・」
俺はその問いに答えなかった。
答えられなかったのではなく、答えなかった。
少年が答えを求めているのではないとわかったから。
「意外かもしれないけど、僕は一度もない」
家庭での居場所がなく、服やゲームや食べ物といった欲しいものさえ望むことを許されない。
周りの人間が当たり前に持っている環境さえ彼には与えられない。
加えて見ず知らずの他人にお前はもうすぐ死ぬと告げられる。
常人なら発狂するレベルだろう。
それでも彼は、強がりでもなんでもなくそれが当たり前のことだというようにそういった。
正直な話、意外でもなんでもない。
お前はそういうヤツだよなと思った。
しばらく無言で道を歩くと、電柱の脇に花が添えてあるのが目についた。
少年はそれを見て、こう言った。
「この前、丁度僕とキミが出会った日だね。ここで事故があって小学生2人と中学生1人が亡くなった。
それさえきっと、不幸なことではないと僕は思っているよ。
・・・人の痛みや不幸を感じることが出来ない僕には、誰かを助けるなんて土台無理な話だったのかもね」
そうかもしれない。
特殊な環境で育ったお前には、彼がどうして悩んでいるのかなんて分からないのかもしれない。
それでも、俺は彼に言う。
「無理だと言ったら、諦めるのか?」
少年は今日初めて俺と目を合わた。
その静かな瞳は話の続きを促しているように感じられた。
「できるか、できないか、それは一体いつだれが判断するんだ。
ここで諦めたらできなかったってことになるんだろうけど、
どうせなら何度でも挑戦すればいいだろ、どうせ他にやることもないんだから」
暇だから人を助ければいい。
俺はそういった。
本当の理由は、ほかにあったけれどそれを口にするのはあまりに恥ずかしかった。
少年は俺の話を聞いて
「確かに」
真顔で言った。
「僕って暇人だった・・・それにもうすぐ死ぬし」
驚愕の事実を思い出しかの様に、衝撃を受けている。顔はいつものすまし顔だけれども。
「じゃあ、失うものはなにもないね」
彼は楽しそうに言った。
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【田名部 彰浩】
久しぶりに家族以外の人間と話をした。
どこか見覚えのある顔で、でもはっきりとは思い出せない。
美少年という他ない外見と自信満々な物言い、きっと毎日が満たされた生活を送っているのだろう。
不幸を知らない人間は気楽でいい。
事情も知らないのに勝手に人の領域に足を踏み入れ、助けようする。
英雄気取りか。助けてほしいなんて誰が言ったんだよ。
挑戦あるのみ、行動あるのみ。自分を変えるにはそれしかない。
そんなことは、お前たちみたいな満たされた世界で生きている人間なんかよりも、余程実感をもって知っている。
外見や性格に難がある人間ほど、挑戦できる回数は少ない。
ある程度挑戦すれば結果なんて出る前からなんとなくわかる。
僕たちに挑戦をさせるのも、挑戦させることを諦めさせるのも、全部お前たちのような人間だろう。
何がしたいんだよ。
自分よりも下等な人間に手を差し伸べて人助けの快楽を感じては、成長しようともがいている人間に絶望を与えてやはり自分は優れた存在なのだと自覚する。
僕たちはお前たちの自己愛を肯定するための道具じゃない。
一通り思いを吐き出しても、醜い言葉は自分の心に残り続ける。
自分は本当は助けを求めているのかもしれない。
でも一体、誰に自分のことを助けられるだろう。
心に醜い感情を残しながら無理やりにでも眠ろうとする。
様々な暗い過去が思い出されていく中、思い出の中で小学生くらいのランドセルを背負った少年がこちらに手を伸ばしている。
その男の子が笑っているように見えて、悲しかった。
ありがとうございました。