ノケモンたち(2)
また書きました。
【少年】
いつもの様に放課後のチャイムがなった。
いつもの様に掃除を行う。
いつもの様に帰り仕度を行い、廊下に出るといつもとは違うことが起こった。
「あなたは1年3組の方ですか?」
後ろから声を掛けられ、振り返るとそこには気弱そうな女性が立っていた。
「そうですけど・・・」
応えながらも女性を観察する。
おそらく40代くらいの女性で、白衣を着ているため保健か科学の先生だろうとあたりをつける。
1年生の授業で関わりはないから2、3年生担当の方だろうと想像する。
「少しお聞きしたいことがあるのですが、お時間よろしいですか?」
女性はそう言った。
先生が生徒に声をかけるにはあまりに丁寧な言葉遣いだったので、こちらが申し訳なくなる。
「すこしなら・・・」
普段なら僕は絶対にYESとは言わない。
他人の厄介事に首を突っ込むのはごめんだし、自分が何かを成し遂げられる人間だとも思っていない。
しかし、先日の自称死神との約束もあるし何より彼女が泣きそうな顔をしていたから。
⏰
場所をかえようと廊下を歩いていると、彼女のほうから正体を明かしてきた。
「私は、1年3組の 田名部 彰浩 の母です。」
自分の推理が全く明後日の方にいっていたことに軽くショックを受けた。
話を聞いていると彼女に関していくつかの情報を得られた。
・同じクラスの田名部くんの母親(そんな生徒がいるなんて全く知らない)
・老人ホームで介護のパートをしているらしい(だから白衣)
・田名部くんは高校入学の4月から不登校で家でずっと引きこもっているらしい(雲行きが怪しい)
先生に空き教室使用の許可を頂いて、教室で対面で彼女の話の続きを伺った。
「先生が週に1度自宅に様子を見に来てくださるのですが、部屋から何の反応もなくて・・・
もう10月なので、このままでは留年が決まってしまうそうです。
せめて、原因を知りたくて教室の雰囲気を確認しようと教室にくる許可を先生にいただいたのですが、
やはり生徒さんに直接話を聞きたくて、・・・お時間をとらせて申し訳ございません」
そういえば6時間目の授業を誰かが廊下から見ていたと、掃除のとき女子が話していたような。
女性の腰の低さに恐縮しながらも、僕自身申し訳なさでいっぱいだった。
僕は彼女の望む情報を何一つ持っていない。
教室の人間関係や雰囲気なんてものは、逆に僕が教えてほしいくらいだし、
そもそも田名部くんの存在すら知らない人間だ。
ここで僕が「このクラスは明るくてみんな仲良しですよ。」と
いかにもブラックな職場の謳い文句を言っても彼女の心労は増すばかりだ。
上手くかわす方法もあったのだろう。
そして自分にはその行動をとることもできた。
そうしなかったのは、息子を心の底から心配する目の前の母親の顔に、
かつての壊れてしまう前の自分の母親を重ねたからなのだろう。きっと。
「田名部くんと話をさせてください」
僕は彼女にそういった。
ありがとうございました。