ノケモンたち(1)
暇つぶしに書きました。
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【田名部 彰浩】
いつからだろう。
2階の自室の窓から、登校中の小学生をみるのが当たり前になったのは。
「あの時は自分はクラスの人気者だったな・・・」
「クラスで一番かわいい宮川さんに告白されたっけ・・・」
「またみんなで校庭でサッカーをしようね・・・」
彼らを見ては過去の自分を思い出し、あの時は良かったと独り言を繰り返すようになったのは。
母親がパートに向かう準備をする物音に、罪悪感を感じなくなったのは。
自分の部屋から出られなくなって、一体どれほどの時間が経ったのだろう。
しばらくそのままカーテンの隙間から道路を眺めていると、一人の少年に目を奪われた。
始めに注目した点は彼の容姿だ。
小さな顔の中に切れ長の瞳、高い鼻、薄い唇が理想とされる位置に収まっている。
そんな印象を受ける少年だった。
けれど、容姿とは逆に身につけている学生服は皺が目立ち、もう何か月もクリーニングに出していないことを想像させる。
その学生服が自分の通う学校と同じものであったことも一つの理由だ。
目をひかれた最大の理由は、彼が誰かと話をしているように見えたことだ。
彼は自分の右隣に顔を向け、誰かと話をしているように口元が動く。
しかし、そこにはだれもいない。
少なくとも自分の目には見えない。
彼は自分の視界から見えなくなるまで、ずっと会話を続けているようだった。
まるで、普通の人には見えない何かと話をしているように。
僕は再びベッドの上で仰向けになり彼のことを考えた。
彼の歪な外見とその不可解な行動から、彼も自分と同じように心を病んでしまったのかと想像をめぐらせた。
しかし、すぐに自分と同じはずがないと思いなおした。
なぜなら自分がこの世界で一番不幸だからだ。
その気持ちだけが今の自分を支えている。
この世界で一番不幸な自分はここから先、物語の主人公のように不幸をバネにして立ち上がる。
そして、自分を見下した奴らに復讐する。
彼らは、涙ながらに自分に謝罪してなんでも自分のいうことを聞くようになる。
クラスの女子はようやく自分の魅力に気づき媚びを売るようになる。
そして、クラスで一番かわいい女子と付き合い男子からも一目置かれた存在になる。
ベッドの上でいつものように自分の理想を想像しながら、再び眠りについた。
⏰
窓から見た少年が僕の部屋を訪ね、
「豚かと思ったら、田名部君か」
僕に向かって人間とは思えない暴言を吐いたのは、彼を初めて見たこの日から2週間がたった夜のことだった。
ありがとうございました。