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Scene 3 : Who is GANSAKU?

 「あの剣はね」


 まるで聞かれてはいけないことのように、ニーニャが声を落とす。


 「最近、この近くの遺跡から見つけられたものなの。考古学者のせんせーたちがこぞって、これは名剣だーって叫ぶもんだから、あっちこっちから勇者志願の剣士たちが大陸中から集まってくるのよ。ただね、見ての通り、剣は台座の中に埋まったまんまで抜けないのよね」


 ほう、と思わせぶりにため息をつくと、絶妙のタイミングでユリアが後を引き継いだ。


 「もちろん、塚の部分を調べた学者の言うには、あれが贋作である可能性は低いって」

 「がんさく?  人?」

 「違う!  が・ん・さ・く!  良くできた偽物ってこと!」

 「え?  あれ、偽物なのか?」

 「ちっがーう!  偽物ではない、つまり、本物だってこと!」

 「なんだ。じゃあ、初めから本物だって言えばいいのに」

 「初めっからそう言ってるじゃない。 贋作ではない、って言ってるんだから」

 「がんさく?  人?」

 「違うって!」


 下手をすると無限のループに陥りそうな予感を嗅ぎ取って、ユリアは苛立たしそうに髪をかき上げ、鼻から息を出した。グレンはぽかんとそのヘーゼルの瞳を純朴に開いたまま、すいませんと謝る肩のアメリアを見つめる。


 「どうしたんだ、アメリア?」

 「お兄ちゃんは、大人しく話を聞いていてよ。あとであたしが、ちゃんと説明してあげるから」


 八つも下の妹に、多少呆れた声音でそう言われても、グレンの極太の神経は何も感じない 素直に破顔すると、アメリアは優しいなあ、などとのたまった。


 「ちょっと、こいつ、やばくない?」


 肩を落としたままのユリアに、ニーニャが話しかける。幸い、グレンがアメリアに見とれて、アメリアがそれを叱りつけているため、こちらに注意が向くことはない。


 「うん……ちょっと、な。まあ、様子を見てからでも遅くはないだろう」

 「どうかしましたか?」

 「あ、ううん! 何でもないの!」


 両手を左右に振って、ニーニャが歯を見せて笑う。と、近くを通りかかった中年の男性がそれを見て、だらしなく目尻を下げる。嫌悪の表情も露わに、ニーニャが男性を睨み付けると、ますます男性は目を三日月のように細めた。


 「お嬢ちゃん……」

 「行かない! 呼ばない! しない!!」


 ふらふらとこちらに寄ってきた男性が言い終えるより早く、ニーニャが噛み付くように早口でまくしたてる。


 「まだ、何も……」

 「だから! あたしは、おっさんとどこにも行かないし、あなたのことをおじさまだの何だのって呼ばないし、おっさんが望んでいるようなことはどれもしない! あっち行ってよ!」

 「おお、おお、可愛いなあ」

 「んも〜〜〜〜〜。ユリア〜」


 半泣きの顔をユリアの方に向けると、ユリアはするりと男性の前に立ちはだかった。そして、一言。


 「痛い目に遭いたいのか? おっさん」

 「ひっ」


 ドスのきいた声で言われ、男性は目が覚めたみたいに小さく悲鳴を上げて、そのまま後ずさりをする。ニーニャを庇うように立つユリアのせいで、男性にはニーニャの姿がまったく見えない。ユリアがもう一度、睨みをきかせると、男性は今度こそ回れ右をしてさっさと姿を消した。


 「ありがと、ユリア」


 ニーニャがほっと息をつくと、ユリアは口を片方だけ歪めてふん、と笑う。


 「あれが、がんさく?」

 「お兄ちゃん! がんさくは、人の名前じゃないってば!」


 去りゆく男性の背中を見てぽつりとグレンが言うと、アメリアは大仰に天を仰いで叫んだ。そして、再度、目の前の少女たちを見つめて、ぺこりと頭を下げる。


 「ごめんなさい。お兄ちゃん、決してひとが悪いわけじゃないんだけど、ちょっと空気が読めないっていうか、脳みそも筋肉になりかけてるっていうか、運動神経のために知性を犠牲にしたっていうか、むしろこれで勇者でもなかったらそれこそただのお馬鹿さんに成り下がってしまうというか、とにかく、心根が腐っているわけじゃないんです! 腐るほど、知能指数があるわけじゃないですから。だから、ユリアさん、ニーニャさん。お兄ちゃんが、ただの馬鹿になってしまうのを阻止するのを手伝ってもらえませんか? あの剣を抜いてしまうのが、一番手っ取り早いんですけど、あれって何かいわくがあるんですか?」

 「あんたって……」

 「あなた……」


 その後を、ユリアもニーニャも口には出さなかったが、思いは同じであった。すなわち、小さいのに、結構辛辣なことを言うのね、と。


 我に返ったふたりは、アメリアはそんなにお兄ちゃんが大事か、などと涙を流しているグレンをこの際無視することにして、脱線していた話を元に戻す。


 「塚に埋め込まれた石はルビーなんだけど、ルビーはルビーでも、ヴェランデでしか取れないルビーなの。そして、それは一様に火の女神の祝福を受けていると言われているわ。それを塚に埋め込むなんてことは、魔法に長けた人間にしか出来ないこと。つまり、あの剣は、火の魔導士が作成した剣」

 「そして魔導士が作った剣は、その瞬間から、鍛冶屋の作った剣とは一線を引く。あれはね、アメリアちゃん。剣は剣でも、魔剣と呼ばれる類のものだ。だからこそ、あれには名前がある。ヴェランデ語ではフィアッマ・パグリアっていうんだが、オードだと多分、フレーム・ストローって呼ばれてるんじゃないか?」

 「フレーム・ストロー? 稲穂の炎?」

 「そう。もちろん、あれは発見されてから誰も使っていないから、その効用のほどは分からないんだけど、文献が残っていてね。フィアッマ・パグリアは、一太刀で炎の穂をつけるっていわれてるの」

 「魔剣だからな。魔力のない人間が使っても効用は同じだ。ちなみに、グレンは魔力はあるのか?」

 「えっと、どうだろう。お兄ちゃん、魔法使える?」


 話を聞いているのか聞いていないのか。それとも、聞いても理解できないだけなのか、静かにしているグレンに、アメリアが声をかけた。


 「おう! お兄ちゃんは、アメリアのためだったら、かぼちゃを馬車にすることくらい、何てことないぞう」

 「…………。えっと、ないみたいです」

 「…………。生まれた時に、調べなかった?」

 「はい……たぶん」

 「そっか。ヴェランデだと、新生児にね、石を持たせるの。その石がどういう変化をするかによって、そのこの資質を調べることができるのよ」

 「その慣習なら、オードにもある」


 今まで立ったまま眠っていると思われたベンが、急に口を開いたので、女性陣は大いに驚いた。ユリアにいたっては、右手を心臓に当てて、呼吸を落ち着けている。


 「そうなの? おじいちゃん」

 「あるとも。ただし、石もただではないからのう。ディグオスで、そんなもんに金をかけられるやつはほとんどおらん。そもそも村の人間は、魔法の資質など関係のない生活を送っているからの、不便でもないわい」

 「なるほど……」


 恐るべし、ど田舎! とは口に出さずに、神妙な面持ちでユリアとニーニャは頷いてみせた。


 「魔法に対抗出来る非魔法っていうと、薬師が作る薬くらいのものなのよね。それ以外だと、やっぱり魔法防御のかかっている武器や防具に頼るしかないから。だからこそ、あのフィアッマ・パグリアを手にすることが出来れば、魔法の使えない人間でも、魔導士と戦えるようになるってわけ」

 「あの台座には石碑のようなものがくっついていてね。そこにはこう書いてあるの。我、選ばれし者の手に。ってね」

 「すごい。じゃあ、本当に、あの剣を抜くことが出来れば、勇者さまになれるのね」


 感動に声を震わせて、アメリアが微笑んだ。


 「さ、どうする?」


 ニーニャが、グレンを見上げて尋ねる。


 「それでもあんたは、あれを抜きに行く?」


 にやりと笑って、ユリアが後方の人だかりを指さした。


 「えっと、何の話だっけ?」


 グレンが言うと、アメリアはたまらず兄の頭をぽかぽかと殴る。


 「いてて」

 「行きます! 何があっても、行きます!!」


 敏腕マネージャーよろしく、アメリアが声を上げた。


金穂の炎は、オード語でThe Flame of Golden Strawです。

つまり、オードは英語圏、ヴェランデはイタリア語圏です。

(ちなみに、strawは麦穂という意味で、飲み物を飲むストローの語源です。

ストローは、エジプトにて不純物の多いビールを飲む際に、

稲穂をストローとして使ったのが、その理由だとか。)

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