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Intermezzo : 皮肉なお城のめそめそお嬢さん

 それとの出会いは唐突で、そして誰からも知られていないたったひとつの出来事だった。


 何もかもをコントロールされて生きてきた自分にとって、それは唯一の、他の誰とも関わり合いのない、自分だけに起こった出来事。その価値に気付かないほど愚かではない。


 それは、己に向けられた興味の理由が分からずに怯えていたけれど、そんなことはどうだって良かった。


 何度も城を抜け出しては逢瀬を重ねた。誰にも気取られないように、これまでと同じように、それ以上にもそれ以下にもならないよう細心の注意を払いながら、課せられたすべてをこなして、逢瀬に思いを馳せた。


 「こんなはずじゃなかった」


 それは、皮肉にも、自分と同じ台詞を口にした。


 だからといって世界を呪うわけでもない。ただただ、与えられたものに困惑するだけ。


 そこが、自分とは決定的に違うところだ。


 困惑などしていない。不満には思っているけれど。


 いや、違う。


 本当は、不満などにも思っていない。不満に思っているのは、周囲だ。期待して、欲して、願って、自分が彼らの代わりに何かを成し遂げて、どこか想像もできないような高みに行ってくれるのだと勝手な望みを押し付けては、それが叶わないと嘆いているのは、彼らなのだ。


 「こんなはずじゃなかった」


 だけど、それは、もうどうだっていい。


 思い通りにいかないなら、与えられた世界で好きに生きた方がいい。


 「好きに……?」


 何度目かの逢瀬でそう告げれば、それは大きな瞳をこちらに向けた。いつ見ても、泣き腫らした目をしている。会っている最中は涙の止まることもあったが、別れの挨拶のときに泣くから、どのみち同じだ。泣き虫、とからかえば更に泣いた。


 「好きにだ」

 「でも、どうやって?」

 「力は、与えられている。それを使えばいいだけだ」

 「でも、それは駄目だって言われてる」

 「どうして、周りの言うことを聞かなくちゃいけないんだ。あいつらが、お前に何をしてくれた? この人生は、いったい誰のものだ?」


 だから、自分の人生を、自分の手で掴み取りに行く。示された道が正しいだなんて、誰が言える? この体に閉じ込められているのは彼らではなく、自分なのだから。


 「決めたんだ」


 それは瞳孔の大きな、はしばみ色の瞳を自分に向けた。


 「こんなはずじゃなかったは、もう止める」


 だから。


 泣くのは、よせ。


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