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Prologue:眠れるお城のひそひそ話

河童で出会った皆さん、お久しぶりです。

誰だお前、と言う方々、はじめまして。三条司と申します。以後、お見知りおきを。

連載ものとしては、二作目になります。

べったべたのファンタジーが書きたくって始めました。

どうか、楽しんでいただけますように。



 すすり泣く声が聞こえてくる。





 大理石で出来た廊下はぴかぴかに磨き上げられていて、ところどころに設置されたアンティークの家具や、これまた年代物の甲冑などを映し返していた。一点の曇りもない窓には深い赤のビロードのカーテンが、カーテンを束ねるのは上品なベージュ色のカーテンタッセル。


 窓から見える景色は、手入れの行き届いた中庭。中庭の真ん中を通る道には真っ白な砂利が敷き詰められていて、それは真っ直ぐに重厚だが気品のある高い門扉へと続いている。小道の中程には、それぞれ左右にひとつずつの噴水。さらさらと流れる水は、時折吹く風によって霧のように霧散していった。


 ひとを圧巻させるには充分な大きさの建物は、城と呼ばれるのがふさわしい。その威圧的な名称とは対照的に、その雰囲気はあくまでも友好的で開放的だ。


 だが、今その建物は、それを満たす決定的な何かに欠けていた。


 人の気配。そして、声。


 あまりにも静かな城からは、ひとはおろか、獣の気配すらしない。モンスターに襲われたにしては綺麗な内観は、それに清浄過ぎる空気を相まって、一種神殿のような雰囲気に包まれていた。


 ただ、ひとつを除いて。                           


 建物の最上階。客人などは近付かないであろうプライベートな部屋から、その泣き声は聞こえていた。 


 部屋には、ふかふかと毛足の長い絨毯で覆われた床。広々とした部屋の中央に鎮座した、天蓋付きのベッド。サイドテーブルに乗ったのは、繊細なガラス細工を施されたグラス。中庭を展望出来るバルコニーに続く窓からは、柔らかい光が差し込む。


 ベッドの上には、一人の少女が眠りに就いていた。閉じた瞼には、長い睫毛が縁取られていて、うっすらと薔薇色に染まった頬は上等のビスクドールを彷彿させる。華奢な体躯を包むのは、豪奢なドレス。たくさんのフリルがついた袖から伸びた手首は、それだけで芸術品のような指へとなめらかな曲線を描く。


 その指を、ついと掴む手が現れた。


 指を強く握っても、ベッドの少女は何の反応も返さない。それを見て取ると、すすり泣く声はますます激しく、そして哀しみの色を強くした。


 声は若いというよりも幼く、指を離したその人影は小さい。ベッドの少女ほど豪華ではないが、きちんとしたドレスを身にまとったのは、同じく少女。顔を両手で覆ってすすり泣く彼女の顔は誰にも見えないが、その長い銀髪と頭から生えたそれは否が応にも他の目を引く。


 その頭部からは、鹿のものによく似た角が二本、生えていた。



 「こんなつもりじゃ、なかったのに……」



 さめざめと泣く少女の、手に覆われてくぐもった呟きは、人の気配が消えてしまった城においては、誰の聞き手も望めなかった。


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