1時限目
隣の席の美少女は 何か色々とえぐってくる。
優しい春の光に溢れる、午後。
「―――はい!では、皆さん。この文章を現代語に訳して下さいね~」
現在、古文の授業中。
昼食の後だからだろう。
俺の席からは、少なくとも3人が眠りに落ちているのが見えた。
かくいう俺も、幸運にも手にいれた主人公席―いわゆる窓際の一番後ろの席―で、うとうとしかけていたのだが。
「ちょっと。私の隣の席に座っているというのに、眠りにつかないでくれる?」
小さいが、隣の俺にはよく届く声が聞こえた。
(きたぁー。)
俺は心の中で身構える。
そしてちらりと、声の主を見た。
艶やかな黒髪、透き通る白い肌によく映える赤い唇。
澄んだ黒い瞳に、目元に影を落とすほどの睫毛。
正真正銘の美少女だ。
運動は出来るのかは知らないが、成績は優秀。
学年の男子たちは、それはそれは宝のように接している。
いやぁ、実は俺も、
最初はその男子たちと同じだったのだが。
席代えをした直後。
それは間違っていた事に気がついた。
「ねぇ、きこえているのかしら」
再び声が聞こえた。
「な、なんだよ」
俺が返事をすると、彼女はスッと目を細めた。
そして
「今から永遠の眠りについてくれるなら、話はべつだけど。あなたがいると、窓の外に広がる美しい青空が、美しくなくなるのよ。例えるなら、そうね。爽やかな香りのふわふわタオルに、ゴキブリが付いていた時のような気持ちだわ」
そう。
彼女はとてつもなく口が悪いのだ。
顔は美しいのに、口からでる言葉の数々は
それはそれは毒舌に毒舌を掛けたような物だ。
今なんて
遠回しに死ねって言っているような物だぞ。
「俺はゴキブリかよっ」
「何を言ってるの?笑えるわ。ゴキブリとあなたが同等なわけ無いでしょう。あなたはタオルに付着していた汚染物質よ」
「ゴキブリ以下だと・・・?」
予想外だっ!
しかもなにげに過去形であらわされているし。
「どうして、信じられない、って言いたそうな顔をするのよ。あなた、自分がゴキブリ以上だと思っていたの?」
「いやいや、むしろ、自分がゴキブリ以下だと思っているヤツなんていないだろっ」
「ええ、あなた以外には、いないでしょうね」
「(^q^)」
俺は何も言えなくなった。
彼女は、フッと嫌な笑みを浮かべて古語辞典を手にとった。
「はぁ。こんな汚染物質が隣なんて、私は毎日マスクが必要だわ。困っちゃう」
俺は心が困ってる!