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僕にはコトバで闘う異能力があるらしい  作者: 蔓苔 桃
非日常の始まりは希望の終わり
2/2

束の間の希望に満ちた世界は

 国立信条学園高等部。日本では珍しい高大一貫の学校だ。倍率も高く、入学難易度は最高峰。入学して、すぐに研究室に入り、一般授業を受けながら専門的な知識を学ぶという、いわば即戦力を育てるための学校。少し特殊だ。

 高校の間は授業がメインで、大学に入ってからは研究がメインになる。卒論を書けば卒業は出来るが、そのまま研究室に篭りここの研究員となる者もいる。

 エリートの中のエリートを集めたこの学校の研究室は、世界的にも注目されており、いくつも結果を出している。賞を取ったところも、いくつもある。

 そんな、入学したら出世間違いなしとも言われるエリート高に僕は入学した。

 昔から勉強が好きで、小中ではずっとトップの成績を取っていた。そして、もっと色々な勉強、高度な勉強をしたいと考え、この学校を志願したのだ。

 勉強は苦痛ではなかったが、夜な夜な猛勉強を続けての入学だ。嬉しくない訳がない。


 入学式やらオリエンテーションやらをこなし、今日は入学三日目だった。今日は研究室を見学しに行くという今後を決める重要な日だった。

 全寮制のこの学校、朝は七時半頃までゆっくり寝ていられる。だが、深夜に研究室紹介の冊子を読み込んでいた所為で僕はどうも寝不足だった。

 いくら読んでみても学びたいことは色々あれどやりたいことが見つからないのだ。

 ただ漠然と『勉強をもっとしたい』というだけでは駄目で、明確な目標がないとこれから社会ではやっていけないのではないかと思わされていた。

 ただ、大まかに目星はつけた。それらの研究室を回れば僕のやりたいことはひとつくらいみつかるのではないか、と、そう考えていた。

 だから、僕は今日という日が楽しみだった。

 心躍らせながら僕は寮を後にし、高等部棟へ向かう。

 信条学園は当然のように敷地が広く、寮から高等部棟へ向かうのにも少し歩かなければならない。まぁ十分ほどなので大変ではないが、その道のりを歩いていると敷地の広さを実感し、改めて凄い学校なのだと思わされる。


 少し早めに来たからか、廊下に人は少なかった。人々はどうやら同じ一年生のようで、僕と同じ高等部棟二階へ向かっていく。二年生以上は何故か殆ど見かけなかった。

 寮生活なのだから、ギリギリまで来ないのも納得ではあるが、それにしても人が少なかった。

 教室に着いても、まだ25人の半分以下、10人程度しか来ていない。それにまだみんな慣れていないせいでとても静かだった。僕がドアをガラガラと開ける音に数名反応するものの、すぐスマホやら本やら参考書に目を戻してしまう。

 別に、僕だって人付き合いが得意なわけでは無いからいいのだけれど。

 僕の席は一番前の一番端。入ってすぐだ。僕の名前は淡藤雪斗、『あわふじ』だから、出席番号はいつも大体一番。ある意味慣れっこな席に僕は座る。

 椅子を引く音さえも、ここでは大きく聞こえるような静かな教室。

 僕は鞄を開いた。読み込んで少しへたれた冊子を取り出し、机の上に出す。今日の最終確認をしておこうと思ったからだ。冊子には、この信条学園の研究室の中で、とある2つの研究が話題だとでかでかと書かれている。もちろんそこには行くつもりで、あとは興味のありそうな研究室を少しずつ回っていく予定だ。


 そうしてパラパラと冊子を捲っているところに、ひとりの男子生徒が入ってきた。髪の毛を明るく染めており、ピアスをいくつも開けている。この学校には似つかわしくないような容姿の男子だ。

「おっはー!ユキ!」

 彼の名前は山吹真琴。昨日のオリエンテーションでペアになってから仲良くなった、信条学園での僕の初めての友達だ。

 彼は、僕のことをユキ、と呼ぶ。馴れ馴れしい、とも思うが今まで僕をそんなふうに呼ぶ人なんていなかったから、素直にそこは嬉しかった。

「おはよう、真琴君」

 お互いに挨拶を交わし、彼は自分の席へ歩いて行く。そして、ドサッと鞄を机に乱暴に起き、また僕の方へ戻ってくる。

「どうしたの、真琴君......」

「なんだよ、オレらって友達だろ?だったらなんか話そうぜ、何を話すかは決めてないけどな!!」

 彼は元気に笑って、そう言った。僕はそれに対してあははと笑って返したが、どうやら彼は不満だったらしく、

「なんだよー、やっぱユキって友達いねーんだろうな!マァ、いかにもマジメそーな顔してるしな」

 そう言って僕の背中をバンバンと二回叩いた。

 ......はっきり言うと結構迷惑だ。僕にこんな風に接してくれる人は今までいなかったという点では嬉しさもあるのだが、正直なところ嬉しさ二割迷惑八割ってところだった。

 だが、僕がこんなコミュニケーションなんて慣れていないというのは当たり前のことで、それに対しても苦笑いを返すことしか出来ないというのも事実だった。

 その時、彼はふっと真剣な顔になると周りを見渡して言った。

「でもよ、お前でも他の連中よりはマシだな。あいつら、本当に自分しか眼中にない。無視決め込んだり迷惑だってバッサリ切り捨てたりな。その点、お前は迷惑そうな顔しつつもオレに構ってくれる。それは、ユキ自身が心の何処かでオレと仲良くなりたいって思ってるってことだろ?それだけで、オレは満足だ!」

 迷惑だって分かっていたのか、と思いつつ、僕は驚いた。彼にとって僕はただのオモチャ程度なのだろうと思っていたから。

 だが、僕はそんなバッサリ切り捨てる勇気なんてないだけなんだよ。とは、やはり言えなかった。

 だから今はこの少し嬉しい気持ちに素直になろうと思った。

「そうなんだ......なんか、ありがとう」

「お前が礼を言う必要なんてねーよ、こっちこそ友達になってくれてありがとな!オレだって......いや、なんでもねぇ」

「?」

 僕が不思議そうな顔をしていると、彼は真剣な顔つきを解いてまたにへらと笑って、

「気にすんな、なんでもねーから!」

 と言った。

 今までとは違う感覚。僕とは別の世界だと思っていた『馴れ合い』の世界。そんなものも悪くないかもしれない、と思う。

 少しこれからが楽しみになった。こんな凄い学校で、色々学べて、さらにそれを共有できる友人がいる......これからどんなことが起きるのか、わくわくしていた。

 真琴君も不真面目そうななりではあるが、この学校にいると言うことは頭は良いのだろう。少し、うざったらしいけれど。

 僕は希望を抱いていた。未来への希望を。

 だが、それがすぐぶち壊されてしまうことを僕はまだ考える由もなかった。

 ましてや、既にいくつもの悪意が蠢いており、絶望へのカウントダウンが始まっていたことなんて、知る由もない。

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