第97話 本心
「シング、今度は8匹だ。やれるか?」
「またかよ兄ちゃん。
こんな魔物何匹いようと問題ないけどさ、さっきから数が多すぎじゃない?」
数が多いか、たしかにな。
俺達がファリス森林に入りここまで来るのにすでに50匹以上のラビッツと戦闘している。ゾンガさんからは30匹程度と聞いていたのだが、これは認識を改める必要があるな。まぁシングの言う通り、この程度の魔物何匹いても問題ないだろうが。
俺がそんな事をのんびり考えている内に、シングの方は戦闘が終了していた。
「終わったよ兄ちゃんー」
「ああ、お疲れ。いい戦いだったな」
「へへ、こんな奴ら何匹いても俺の敵じゃないさ!」
そうシングは得意げに話す。
あちゃー、シング君少し調子に乗ってるな。
子供だからと甘やかすのは簡単だが、このままだと少しだけ不安だな。
念の為、釘を刺しておくか。
「シング、自信を持つのはいい事だ。
だがな、過剰な自信は油断につながる事もある。
そして、僅かな油断が命取りになるのが、実戦だ。よく覚えておくことだ」
「……うん、分かった」
俺の言いたい事は分かってくれたようだ。
しかし、若干不貞腐れたような表情は隠せてない。
おそらく褒められると思ったのに説教の様な事を言われて少しだけ不満なのだろう。仕方ないな。
「よし、じゃあ先に進むとしよう。それと、さっきも言ったがいい戦いだったよ。この先もこの調子で頼むな」
「……あ、うん!任せてくれよ兄ちゃん!」
俺がそう雑なフォローをすると本当に嬉しそうにシングがほほ笑む。
なんだろう、シングには時折、妙な必死さを感じるな。
まるで、人との交流に飢えているような……
「おーい、兄ちゃん先に行っちゃうぞー」
「……ああ、今行くよ」
まぁいいか、
そう思い俺とシングはさらに森の奥へと進んでいく。
それから数十分後、
丁度お昼に差し掛かろうとしていた頃、
俺は懐かしの場所を発見する。
「ここは、懐かしいな」
「兄ちゃんはここの事知ってんのか?」
「ああ、以前この森に来たときは、ここで寝泊まりをしたのさ」
そう、俺の目の前にあるのは以前寝泊まりしたあの洞窟だ。
あの時、この洞窟を偶然見つけれなかったら俺は生き残れてなかったかもしれない。俺にとっては大事な場所だ。まさか、また来ることになるなんてなぁ。
丁度いい、この洞窟は魔物もいないはずだ。ここで休憩していく事にしよう。
「よし、一旦ここで休憩していくことにしよう」
俺がそう言うとシングは少し不満そうに、
「ええ、俺まだまだ行けるよ!休憩なんていらないよ」
「まぁそう言うなシング。
昔から言うだろ?腹が減っては戦はできんと」
「何言ってんだよ兄ちゃん、そんな言葉聞いた事もないよ!」
ああ、そうだったそうだった。
最近少しだけ忘れがちだが、ここ異世界だったなぁ。
「まぁ簡単に説明すると、腹が減っていては満足に戦うことは出来ない。なので、まずは腹ごしらえをして体力を回復させようぜって事だ。それに、そろそろお昼の時間帯だ。お前だって腹減ってるんだろ?」
俺がそう言うと、シングのお腹からグゥ~と音が鳴る。
くく、やっぱり腹減ってるんじゃないか。
「ほれ、腹減ってるんじゃないか。大人しく食事休憩といこうじゃないか。それに、今回は特別にマリアさん特製弁当まであるんだぞ?」
俺がマリアさんのお弁当と言葉を発した瞬間、
今まで腹が減っているのを我慢していたシングの様子が変わる。
「マリアおばさんのお弁当があるの!?兄ちゃん、今すぐ休憩しよう!」
シングは一目散に洞窟の中へと駆け込んでいった。
その様子から察するに、シングとマリアさんは知り合いだったようだ。まぁ考えてみればそれも当然か。何しろシングの父親のジルグさんとガントさんは親友だったんだ。それなら、ガントさんの妻であるマリアさんと交流があったとしても何ら不思議ではない。むしろ当然か。
さて、あんなに嬉しそうにしているシングを待たせるのは悪いな。俺もさっさと行くとしよう。そう思い洞窟の中へと入っていく。
うん、特に以前来たときと変わっていないな。魔物が生息している様子もない。これなら安全に過ごすことができそうだ。そう考え早速アイテムボックスから二人分の弁当を取り出し、シングにその一つを手渡す。
「おお、やったやった!久しぶりのマリアおばさんの弁当だ!」
「シング、腹が減っているのは分かるが、あまり勢いよく食べるなよ。喉に詰まらせでもしたら大変だからな」
「分かってるよ兄ちゃん、あんまり子供扱いしないでくれよな!」
そんな事を俺に言いながらも、シングは子供のように弁当を掻き込んでいく。その姿、俺から見たらまるっきり子供なんだけどなぁ。
さて、俺もそろそろ食べるとしようかな。
そうして俺とシングはマリアさん特製の弁当を二人で食べていく。
「美味しい美味しい、やっぱりマリアおばさんの料理は村一番だ!」
たしかに、マリアさんの料理の腕前はかなりのもんだ。
まぁサリーには負けるけどね!!
「そういえば、シングは昔からマリアさんの弁当を食べていたのか?」
「うん、そうだよ。まだ父ちゃんがPTを組んでいなかった頃、よく父ちゃんとガントおじさんと俺の三人で出かけたりしてたんだ!そんな時はいつもマリアおばさんがお弁当を作ってくれてたんだよ!」
なるほど、日本でいう遠足みたいなもんかね。
「父ちゃんが蒼き狼を結成した後も時々作ってくれてたんだけど、それがまた蒼き狼のみんなにも大好評でさ!みんな美味しいって食べてた!」
「……」
「あの頃は父ちゃんやみんなで毎日毎日騒いでさ!俺も混ざって夜遅くまで遊んでたんだ!蒼き狼のメンバーもみんないい人でさ、まだ本当に子供だった俺をよくかまってくれたんだ!本当にあの頃は楽しかったんだ!」
シングは昔の事を本当に楽しそうに話す。
目から、涙が流れていることに気付きもしないまま。
「……なぁ、シング」
「それでさそれでさ!って何だい兄ちゃん!?」
「お前さ、本当は昔みたいに戻りたいんだろ……」
俺がその言葉を発した瞬間、時が止まってしまったかのように場に静寂が訪れる。
先ほどまで楽しそうに昔の事を話していたシングは、俺の言葉に何か言い返そうとするも、うまく言葉にできない様子だ。
そして、やっと帰ってきた言葉は、
「は、はは。何言ってるのさ兄ちゃん。俺は進んで一人になったんだよ?昔みたいに戻りたい?そんな事思うわけないじゃん……」
やめろ、やめてくれ。
そんな辛そうな顔でいう事が本心なわけないだろ……
「シング、もういい。俺はお前の本心が聞きたいんだ。幸いこの場にはよそ者の俺しかいない。村の人には何も言わないと約束する。だから、お前の本心を俺に聞かせてくれ」
俺がそう言うと、シングは下を向き黙ってしまう。
それでも、それでも諦めずシングの事を黙って見つめ続ける。
すると、何か決心がついたかのように、俯いたままのシングが話を始めた。
「……戻りたいよ。俺だって、戻れるものなら昔みたいに戻りたい。だけど、今更どうやって戻ればいいのさ!兄ちゃんは知らないだろうけど、父ちゃんが亡くなってすぐの頃、俺の事を心配してくれた村の人やジイチャンに俺はすっげぇ酷い事言っちまったんだ。取り返しのつかないくらい酷いことを。そんな俺が今更どうやって戻ればいいか、分からないんだ。それならいっそ、一人でいたほうが楽なんじゃないか、そう思って」
これがシングの本心か。
聞けて良かった。やっぱり、俺にはシングをこのまま放っておくことはできそうにない。シングを、俺の様にしてはいけない。
「なぁシング。お前がいま一人進もうとしている孤高の道。確かに今は楽な道に見えるのかもしれない。だけどな、きっとその道の先には、後悔しか待ってないぞ」
「なんで、なんで兄ちゃんにそんな事分かるのさ!」
「分かるさ。なんせ、実際に俺が歩んだ道だったからな」
「……え」
「まぁお前とはまるっきり事情は違うけどな。俺の場合はほぼ自業自得の結果だった。それでも、後悔しかなかったというのは本当だ。実際に見てきた俺が言うんだから間違いはないと思うぞ?」
俺がそう言うと、シングはさらに顔が俯かせてしまう。そして、やがてシングの体が小刻みに震えだす。まいったな。怖がらせるつもりはなかったんだが。俺はシングの頭にそっと手を置き優しく撫でる。
「シング、そう怖がることはない。さっきはああ言ったが、お前は俺とは違う。お前はまだまだやり直せる。多分、今のお前に足りないのは、あとほんの少しの勇気だけだ」
俺がそう言うと、
シングは少しだけ顔を上げ、
「……勇気?」
「ああ、そうだ。ほんの少しでいいんだ。勇気を出して村のみんなやゾンガさんに話しかけてみな。きっと、みんなそれを待っている」
俺のその言葉にシングは一瞬戸惑い俯くも、すぐに顔を上げ、
「分かったよ兄ちゃん。俺、頑張ってみるよ」
そう言い放つシングの顔は、なぜか少し大人びて見えた。
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