第95話 意外な強さ
翌朝、
村長宅での待ち合わせの為、早めに目を覚ます。
適当に身だしなみを整え、部屋を出て食堂へと歩いて行く。
すると、マリアさんがすでに朝食の準備を終わらせていてくれたらしく、俺が席に着くと、すぐに出来立ての温かい朝食を持ってきてくれた。
これは、めちゃくちゃ有りがたいな。
「マリアさん、おはようございます。
こんな早朝から朝食ありがとうございます」
するとマリアさんは気にしないでと笑顔でいい、厨房に戻っていった。
美人で優しく料理も上手とか、本当にガントさんが羨ましい限りだ。
さて、温かいうちに食べるとしよう。
うん、美味い。やはり起きたばかりに温かいスープは身に染みるねぇ。
これで今日も一日頑張れそうだ。
それから数十分後、マリアさんの用意してくれた朝食を綺麗に平らげ、そろそろ村長宅へ出発しようかと思い、席を立つ。
それを見たマリアさんが何かを持って厨房からこちらに向け歩いてくる。
一体なんだろうか、そう思っていると、
「ユーマ君、お弁当作ったんだけど、よかったら食べてね」
なんと、マリアさんはお弁当まで用意してくれていたようだ!
しかも俺とシングの二つ分。
「お弁当まで、ありがとうございますマリアさん」
マリアさんに頭を下げ礼を言う。
するとマリアさんはニッコリ笑い、
「ふふ、本当に気にしないでいいのよ。
だってユーマ君はこの村の為に戦ってくれるんですもの。
私にはこれくらいしか出来ないけど、頑張ってね」
この村って言うより、ほとんどガントさん一家の為だけどな。
そんな事を心の中で思いながら、もう一度マリアさんに礼を言い、宿を後にした。
さて、待ち合わせの時間はまだ大丈夫かな。
そう思い空を見てみると、日が昇るにはまだ相当時間がかかりそうだった。
この分ならゆっくり歩いて行っても大丈夫かね。
そう考えのんびり村長宅へと歩いて行く。
そうしてしばらく歩くと、村長宅が見えてきた。
よし、待ち合わせの時間には間に合いそうだ。
そう考え村長宅へさらに近づいていくと、玄関先で一人の少年がこちらを少し怒った様子で見ている事に気付く。お、どうやら説得は成功したようだ。
しかし、なんで怒っているのだろうか。
まだ待ち合わせの時間は超えていないはずだが。
そう不思議に思いながら、とりあえず話を聞いてみるかと思いシングに近寄っていく。すると、
「遅い、俺がどんだけ待ったと思ってるんだよ!」
えーと。
別に待ち合わせの時間には遅れてないと思うのだが……
「すまん、こちらの勘違いでなければなんだが、
まだ待ち合わせの時間にはなっていないはずだが?」
俺がそうシングに問いかけると、
「冒険者ってのは普通は待ち合わせよりも余裕を持って早めに来るもんなんだよ。
少なくとも俺の父ちゃんはいつもそうだったぞ!」
なるほど。
確かに、日本にいた頃も5分前行動や、15分前行動など色々あったな。
ここは素直に謝っておくことにしよう。
俺は軽くシングに謝罪をする。
するとシングは俺が素直に謝ると思っていなかったのか、少し驚いた顔をして、そして少し照れくさそうに話し始める。
「ふ、ふん!分かればいいんだよ分かれば。
まぁお前も冒険者ならこれくらいは覚えておけよな!」
そう強気に言い放つシング。
しかし、恥ずかしいのか顔はそっぽを向いてしまっている。
おいおい、なんだよその可愛らしい反応は!
昨日の様子と全然違うじゃねえかよ。
いや、まぁ子供らしいと言えば子供らしいけどさ……
そんな事を俺が考えているうちに、どうやらシングは落ち着きを取り戻したようで、こちらを向き話を再開する。
まずは自己紹介からだな。
「初めましてではないが、改めて自己紹介させてもらう。
俺の名前はユーマ、一応Aランク冒険者をやらせてもらっている。
今回はグロースラビッツ討伐でお前と同行することになる。よろしく頼む」
そう先に自己紹介し、とりあえず握手の為、手を差し出す。
しかし、シングが俺の手を取る気配はない。
ああ、やはり冒険者の事は嫌いで握手もしたくないかぁ。
そう思った俺だが、現実は違った。
目の前のシングを見てみると、なぜか驚きの表情で固まっていた。
一体どうしたのか、そう思っていると、
「……兄ちゃん、Aランク冒険者ってのは本当なのか?」
ああ、そういう事ね。
「ああ、本当だ。ほれ、これ俺のギルドカード」
そう言って俺のギルドカードを見せつける。
シングは俺のギルドカードをじ~と見つめ、
「すげぇ、兄ちゃんって強いんだな。
父ちゃんより貧弱そうで、父ちゃんより顔も良くないのに……」
ああ、お前が父ちゃん大好きなのは分かったよ。
ただな、強さに顔は関係ないだろ顔は。
その後、まだ少しの間俺を驚きの顔で見ていたシングであったが、握手の為差し出したままの俺の手を見て、自己紹介の途中だった事に気付く。
少しだけ申し訳なさそうにシングが話し出す。
「ジイチャンから聞いてるとは思うけど、俺の名前はシングだ。
よろしく頼むな兄ちゃん!」
そう言ってシングは俺の手を取る。
冒険者嫌いだと思っていたのに、あっさり握手する。しかも、その表情はどことなく嬉し気。うーん、俺の勘違いだったのかね。
その後、俺とシングは簡単にお互いの情報を交換する。
どうやらシングは剣を使って戦うようだ。
まぁ腰に剣がある時点で予想は付いてたけどな。
そんな感じで話は進み、いよいよ出発という時。
俺は最後の確認をすることにした。
悪いなシング、今後のためだ。
ステータスを見させてもらうぞ。
お久しぶりの、【鑑定】発動。
シング レベル17
力 31
体力 21
素早さ33
幸運 21
《スキル》剣術レベル7 気配察知レベル2
《称号》 剣の申し子
……んん?
シング君、かなり強くね?
まずレベルに対して各能力の伸びがおかしい。
特に素早さ、たしかグレースさんはレベル39で素早さ34だったが、恐るべきことに、シングはレベル17ですでにグレースさんの素早さを抜きつつある。
まぁさすがに体力などは低いが、子供だから仕方ないだろう。
そして、一番やばいのはスキルだ。
なんだよ剣術レベル7って、初めて見たぞ。
フロックスのギルドマスターであるグレンさんでも剣術レベルは5だった、シングはこの年でそれを上回っている。
最後に称号。
なんだよこのかっこいい称号は。
俺もほしいぞこの野郎。
まぁいい、これは考えようによっては嬉しい誤算だ。
シングがこれだけの強さを持っているなら、もしかしたら本当に仇を取らせてあげる事もできるかもしれない。
「おい兄ちゃん、どうしたんだよいきなり固まっちまって。
さっさとファリス森林に行こうぜー」
今度は俺が驚きで固まってしまっていたようだ。
「すまん、少し考え事をしてた」
俺とシングはファリス森林に行くため門に向け歩き出す。
すると、まだ早朝と言ってもいい時間帯にも関わらず、数十人の村人が少し隠れながら、俺とシング、いやシングを心配そうに見つめている事に気付く。
ふふ、やはり皆シングの事が心配なんだな。
「兄ちゃん、今度はニヤニヤしてどうしたんだよ?」
「いや、なんでもないさ。ただ、少し嬉しくてな」
残念ながらシングはこの視線に気づいていないようだ。
いつか、気付いて欲しいものだな。
あれ、けどおかしくないか?
だってシングは……
「おーい、早く来ないと置いていっちゃうぞー!」
おっと、このままだと本当に置いて行かれてしまうな。
さっきの事は後で考えるとして、行くとしようか、懐かしのファリス森林へ。
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これからもこの調子で頑張っていくのでよろしくお願いします。




