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第94話 似た存在


 村長宅を出てから数時間後、


 俺は宿屋に戻り、ガントさん一家と夕食をご馳走になっていた。


「いやぁ、相変わらずマリアさんの料理は美味しいですね」


「ガハハ、そうだろそうだろ。なんたってマリアの料理は世界一だからなぁ!」


 ガントさんの言葉を聞き、

 マリアさんは少し顔が赤くなるが、非常に嬉しそうだった。

 相変わらず仲がいいなこの二人は。


 そんな事を考えていると、

 横に座っているマリーが俺の袖を少し引っ張り。


「ねぇねぇユーマさん。こっちの料理は私が作ったんだよー。食べて食べてー」


「ああ、どれどれ」


 俺はマリーが作ったらしい料理を口に運ぶ。

 うむ、美味い!

 さすがにマリアさんには及ばないが、それでも十二分に美味しい。


 美味しかったとマリーに告げると、

 マリーは小さくガッツポーズをしていた。嬉しかったようだ。


「そういやユーマよぉ、おめぇ本当に明日一人でグロースラビッツを倒しに行くのか?」


「はい。まぁ正確にはシングと二人で、ですがね」


 俺がそう答えると、ガントさんは少し神妙そうな顔になり。


「シングか。やっぱりあいつはまだグロースラビッツに執着してるんだな。

 まぁ無理もねえか。グロースラビッツはジルグの仇だもんなぁ……」


 そう話すガントさんは、

 昔を懐かしむような悔やむような複雑な表情をしていた。


「ガントさんはジルグさんと知り合いだったんですか?」


「ん?ああ、俺とジルグは幼馴染ってやつでな。

 色々と一緒になって馬鹿やったもんだぜ。

 そんな俺だからこそ、もっとシングの事を気にかけてやるべきだったんだけどな。

 言い訳になっちまうが、ジルグが死んだとき俺も少し参っちまってよ。

 んで、気づいた時にはもう手遅れだったってわけだ。

 情けねえもんだ。大人の俺らがこんなんだから、シングは一人になっちまった」


 それは、仕方ないんじゃないか。

 仮にも昔からの幼馴染が死んだのだから……


 そんな落ち込んだ様子で話すガントさんを、

 マリアさんとマリーは心配そうに見つめている。

 その視線にガントさんが気づき、


「おっと、飯の最中に暗い話しちまった。

 ユーマ、それにマリアとマリーも気を使わせちまったすまねえな。

 よし、気を取り直して飯の続きといこうぜ!」


 ガントさんは暗くなった雰囲気をもとに戻そうと、

 いつものように笑顔で話し始める。

 だが、俺にはそれが空元気に見えて、妙に痛々しかった。


 それから数十分後、 

 夕食も終わり、マリアさんは食事の片づけに、マリーは自分の部屋に戻っていた。


 俺もそろそろ部屋に戻り寝ようかと思い席を立つ。

 すると正面に座っていたガントさんが再び真剣な表情になり、


「なぁユーマ。俺が頼める義理じゃねえかもしれねえけどよ、明日、シングの事よろしく頼むわ」


 そう言いガントさんは俺に頭を下げる。

 なんか最近、頼まれごとばっかりだな。


「分かりました。シングの事は可能な限り守ると約束します」


 あくまで可能な限りだ。

 悪いが命を懸けて守るなどとは言えない。

 

「ありがとよユーマ。本当なら俺も付いて行きたいところなんだが、俺の実力じゃ足手まといになるのが関の山だからな……」


 言っちゃ悪いが、確かにその通りだな。

 俺は今回、よっぽどの事がない限り気配遮断のスキルを使う気はない。

 そんな状態でシングとガントさんの二人を守りながらグロースラビッツと戦うのは、さすがに無茶というものだろう。


 おっと、そういえばガントさんに聞きたい事があったんだった。


「ガントさん、グロースラビッツの外見ってどんな感じなのでしょうか?

 本当はゾンガさんに聞こうと思ったんですが、色々あって聞きそびれてしまって。」


 俺のその問いに、


「そういやユーマはあいつの事知らねえんだったな。

 そうだな、簡単に説明しちまうと、図体がでかくなったラビッツって感じだな」


 図体がでかくなっただけ?

 それだけ聞くととても強そうには思えないのだが……


「くく、それだけじゃ弱そうって思っただろ。

 けどな、図体がでかいってのはそれだけで厄介なもんだぜ。

 なんせあいつの図体は5メートル近くあるからな」


 5メートル、だと?

 その話が本当なら、グロースラビッツは俺は以前戦ったサイクロプスよりも大きいって事になる。


「しかもだ、あいつはそんなでけぇ図体してるくせに、異常な速さで動きやがる。

 お陰で俺たちの攻撃なんてほとんど当たりゃしなかった……」


 それでよく森に追い返す事できたなぁ。

 

 しかし、話を聞く限りかなりの強敵のようだ。

 仇を討ちたいシングには悪いが、場合によっては俺が速攻で仕留める必要があるかもしれないな。できるなら、シングに仇をとらせてあげたいところだが……


「ガントさん、色々ありがとうございました。

 グロースラビッツが俺の思っていた以上に強敵という事が分かりましたので、

 明日は決して油断だけはしないように気を付けます」


 では、今日のところはこれで失礼しますね。

 そうガントさんに一言言い残し、俺は自分の泊まる部屋に戻っていった。

 マリアさんが気をきかせてくれたのか、俺が今日泊まる部屋は、丁度数か月まえにこの宿屋に来たときと同じ部屋だった。

 俺は以前来たときと同じように、ベッドに横になる。

 うん、相変わらずいい寝心地だ。


「ふぅ、今日も色々あったなぁ」


 まさか、こんなに早くバリス村に来ることになるとは。

 せっかくゴレイ山脈から帰ってきたばっかりだったっていうのに、サリーには悪い事しちゃったかな。今度何か埋め合わせしないとな。


 それにしても今回の依頼、最初は軽い気持ちで受けたっていうのに、なんだか随分大事になってしまったもんだ。

 ゾンガさんやガントさんの頼みの事もあるし、明日はしっかりシングを守らないと。あーあ、俺が子供のお守りをする羽目になるとはなぁ。


 けど、なぜだろうか。

 不思議とシングの事を放っておけないと思ってしまうのは。

 俺ってそんなに子供好きな性格だったっけ、いや、ないな。

 別に子供は嫌いではないが、特別好きってほどでもない。


 そうしてシングの事を考えているうちに、一つの答えが見えてくる。


「そうか、そういう事なのか……」


 半信半疑だが、考えられる答えとしてはこれしかない。

 シングは、似ているんだ。

 お互いの事情に違いはあれど、今のシングと昔の俺は、どこか似ている……

 そんな気がするから、俺はシングの事を放っておけないのだろう。

 はぁ、我ながら単純なもんだ。


 そんな事を心の中で考えているうちに、

 ベッドの中でぐうぐうと音をたて、気が付くと眠ってしまっていた。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

それから評価やブクマなどいつもありがとうございます。

これからもこの調子で頑張っていくのでよろしくお願いします。

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