第92話 ゾンガ
ガントさんの治療を無事終えた俺は、依頼の話を聞くために村長宅へ向かっていた。前に来た時の記憶を頼りに歩いて行くと、ほんの数分ほどで到着することができた。
しかし、相変わらずでかい家だねぇ。他の家の3倍近くの大きさはありそうだ。よく貧乏なこの村でこれだけ大きな家を建てたものだ。おっと、少し嫌味みたいになってしまったな。
そんな事を考えながら村長宅を観察していると、村長宅の敷地内に小さな建物、いや家を発見した。その建物は非常に小さく、一見するとただの物置の様にしか見えないが、よく見ると人が住んでいるらしき痕跡がある。
不思議なもんだ。敷地内にこんなでかい家があるのだから、一緒に住んでしまえばいいだろうに。まぁ俺が気にしても仕方ないか。所詮、人様の家の事情だからな。それに、今は別の用事がある。
そう結論を付けて、村長宅の玄関先まで歩いていく。さて、ゾンガさんが家にいてくれるといいのだが。そう考えながら扉を軽くノックして人を呼ぶ。
数秒後、待ってましたと言わんばかりに、勢いよく扉を開け一人の男性が現れる。その男性は俺の顔を見るや否や、不機嫌そうな顔でこう言った。
「ちっ、冒険者かと思って期待してみれば、ただの子供じゃねえかよ」
はぁ、本当に異世界に来てから子供扱いされることが多くなったな。まぁ俺の顔は童顔らしいので仕方ないか。
「申し遅れました。俺の名前はユーマと言い、冒険者をやらせてもらっています。今回はグロースラビッツ討伐の依頼の件でこちらに訪問させて頂きました。すみませんが、ゾンガさんはご在宅でしょうか?」
なるべく丁寧に説明する。
しかし、俺の言葉をまったく信じていないらしい男性は。
「お前が冒険者?はっ、冗談はほどほどにしとけよ。しかも、あの化け物を倒すだぁ?やめとけやめとけ。お前みたいなやつに倒せるようなやつなら苦労はしねえよ」
この男、殴ってもいいかな。
いや、だめだ落ち着け。いくら失礼な態度を取られたからといって、すぐに暴力に走ってしまうのは悪手だ。俺はもう25歳、大人の部類なんだ。
それに、よく見ればこの男、おそらく俺よりかなり年下だ。多分二十歳前後といったところだろう。ここは年長者の余裕ってやつを……
「お前いつまでここにいる気なんだよ。こっちは今かなり忙しいんだ。本当ならお前に構ってる暇なんてないくらいにな。分かったらとっととこの村から消えな。そして、当分はこの村に近づかねえことだ」
軽くなら殴っちゃってもいいかなーー!
そんな事を心の中でほんの少し考えていると、男がなにやら独り言をつぶやき始めた。
「いや、待てよ。冒険者のユーマ、どっかで聞いた覚えが……」
お、これは兆しが。
「たしか、くび、首折りの……」
おしい、ちょっと違う。
仕方ないなぁ。少しヒントをくれてやろう。
男の近くで小さく首狩り、首狩り、と呟く。
「ももも、もしかして首狩り、首狩りのユーマ様ですか!?」
おっと、正解だ。
「はい、それであってますよ。誤解も解けた事ですし、そろそろゾンガさんのところに案内してもらってもいいですかね?」
「は、はい。色々失礼をしてしまい申し訳ありません」
凄いな。喋り方から態度まですべて変わった。やはり、Aランク冒険者ってのはそれだけでかなりの影響力を持っているようだ。
「あの、念のためにギルドカードを拝見させてもらってもよろしいでしょうか?」
男性のその言葉に俺は衝撃を受けた。
そうだ、ギルドカードなんて便利な物があったじゃないか。すっかり忘れてしまっていた。これを覚えていればこんな面倒な事にはならなかっただろう。俺の不注意だなこれは。反省しなければ。
俺はアイテムボックスの中からギルドカードを取り出し、男性に見せる。
「これは、間違いないようですね。では早速村長の元へと案内させて頂きます。付いてきてください」
そうして俺と男性は村長宅の中へと入っていく。
相変わらず広いな。そう思いながら歩くこと数十秒後、前に村長と会った部屋に到着した。部屋に入る前に男性が一言声を掛ける。
「村長、Aランク冒険者、首狩りのユーマ様をお連れしました」
すぐに部屋の中から入ってくれと返事が返ってくる。
案内してくれた男性が扉を開け中に入るよう促してきたので、部屋の中へと入っていく。どうやら男性は一緒に部屋には入らず、部屋の外で待機するようだ。
部屋の中に入りゾンガさんの姿を目にすると、気のせいかもしれないが以前会った時より少し痩せたような気がする。やはり色々大変なんだなと実感した。
そんな事を考えながらゾンガさんの正面に座り、
「お久しぶりですゾンガさん」
俺の挨拶にゾンガさんは笑顔で答えた。
「うむ、久しぶりじゃなユーマ殿。噂は色々聞いておるよ。なんでも大侵攻を一人で阻止したとか。丁度わしからもお礼がしたかったんじゃ。もし大侵攻が起こってしまったらフロックスだけではなく近隣の街や村にも影響が出ていただろう。ありがとう」
そう言いゾンガさんは俺に頭を下げる。
「頭を上げてくださいゾンガさん。あの大侵攻は俺が止めたいと思ったから止めただけです。結局は自分の為ですので。後始末の事も考えると、俺が一人で止めたわけでもないですしね」
俺がそう言うと、ゾンガさんは頭を上げ俺を見た。まるで、何か懐かしい人でも見るかのような目で……
「どうかしましたか?」
「……おお、すまん。ユーマ殿がわしの知り合いとダブって見えての。まぁ気にしないでくれ。さて、そろそろ依頼の説明を始めよう」
おおう、どう考えても強引に話を逸らしたな。少々気になるが仕方ない。聞かれたくない事の一つや二つあるのは当然だしな。
「はい、お願いします」
依頼のついての説明が始める。
数十分後、説明を聞き終えた結果、グロースラビッツは現在ファリス森林のかなり奥にいるらしき事。グロースラビッツの他にラビッツが30匹程度いる事。左の前足に傷があり、動きが多少鈍くなっている事が分かった。
これはかなりありがたい情報だ。大体の生息地が分かっただけでも大分楽になるのに、まさか弱点まで判明するとは。
「分かっている情報はこれくらいじゃが、大丈夫かの?」
「十分です。これだけ分かれば相当楽になる。では今日はこれで失礼します。ファリス森林へは早速明日行ってみる事にします」
「そうじゃのう。今日はもう遅い。ゆっくり休んで明日に備えてくれ」
ゾンガさんと会話を終え、部屋から出るために立ち上がる。すると、突然部屋の外からかなり大きな話し声が聞こえてきた。
「だから今はだめですって、村長のお客様が来ているんですから」
「そんな事はどうでもいいんだよ! いいからお前はそこをどけ!」
どうやら俺を案内してくれた人物と言い争っているようだ。しかし、仮にも村長の家でこんな騒ぎを起こすとは、一体何者なのだろうか。
そんな事を呑気に考えていると、何者かが強引に部屋のドアを開け中に入ってきた。正直何がなんだかよくわからないが、とりあえずゾンガさんを守れる位置に移動する。
「ジイチャン、なんで俺はダメで冒険者なんかに依頼したんだ!ちゃんと説明してくれよ!!」
ジイチャン?つまりさっきこの部屋に入ってきた青年、いや少年はゾンガさんの孫って事か?なーんかややこしい話になりそうな気がしてきたな。
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