第87話 悩み
さて、とりあえずゴレムは倒したことだし、目的のアルス鉱石を採取するとしますかね。
そんな事を考えながらアルス鉱石の元に向かおうとすると、後方からこちらに向かって走ってくる足音が聞こえる。あ、そういえばリサの事忘れていたなと思い後ろを見てみると、思った通りリサがかなりの勢いでこちらに走ってきていた。その顔を見る限り、相当興奮しているようだ。
そして俺の元へたどり着くと、俺に近寄りかなりの勢いでしゃべり始める。
「凄い、凄いよユーマ君! まさかあのゴレムを一撃で倒しちゃうなんて! 僕のファイアボールとは桁違いの威力だよ!」
ふむ、興奮するのは別に構わないんだが、少し近寄りすぎじゃないだろうか。顔もかなり近いし、視線を下に向けてみれば、その豊かなお胸が俺の体にくっついてしまいそうだ。まったく、目に毒だ。
「はは、ありがとな。けどゴレムってかなり弱かったぞ? 魔法が使えたら苦戦するような魔物には見えなかったんだが」
俺がそう言うとリサは首を横に振り、
「そんな事ないよ! たしかにゴレムは魔法に弱いって言われてるけど、それでも普通は下級魔術のファイアボール一発で倒せるような魔物じゃないんだ。少なくとも僕はそんな事できる人ユーマ以外に知らないよ!」
ふむ、理由は不明だが、どうやら俺の魔法は他の魔法使いよりも威力が高いらしい。異世界人補正でもあるのだろうか。それとも単純にlevelが高いお陰か。まぁいい、今の俺にはもっと気になっている事がある。それは、
「なぁリサ、さっきから自分のこと僕って呼んでるみたいだけど」
リサって僕っ娘だっけ?
「……!!」
俺がそう質問した途端、リサは俺から少し離れてしまった。少し残念。
そして俯きながら話しかけてくる。
「はぁ、興奮するとすぐ昔みたいになっちゃう。中々上手くいかないもんだね」
「その様子から察するに、以前は自分の事を僕と呼んでいたのを、今は無理やり変えているというわけか?」
「そうだね。僕ってこんな見た目してるだろ? それに加えて自分の事を僕なんて呼ぶもんだから、昔は男の子に間違えられる事が多くてさ。それが嫌で僕って呼ぶのをやめたってわけ。まぁそのお陰で最近は男に間違えられる事もなくなったけどね」
なるほどな。たしかにリサの顔は非常に中性的な顔をしている。髪も女性にしては短めだ。たしかに昔であれば男の子と間違えられたのも無理はないだろう。だが現在は中性的ながらも女性としての可愛さもあり、十分に可愛いと思う。
それと多分、最近男に間違えられる事がなくなった一番の原因は、僕っ娘をやめたからではなく、アレが育った影響だろ思うがな。
「なるほどな。事情は大体分かったよ。まぁ今のリサなら自分の呼び方なんて変えなくても、十分女の子らしくて可愛いと思うけどな」
俺がそう言った瞬間、リサは少し顔を上げ、
「……本当かい?」
「ああ、本当だ。リサは難しく考えすぎだ。自分の呼び方なんて、自分が一番呼びやすいと思ったのでいいんだよ。そんなの気にしなくてもリサは十分可愛い。少なくとも俺はそう思う」
俺はそう言い放つと、リサは少しだけ顔を赤くし、そして笑いながら、
「ふふ、男の子にこんな事言われるなんて思ってもいなかったよ。あーあ、ずっと悩んでたのが馬鹿らしくなってくる。そうだね、たしかにユーマ君の言う通りだ。うん、なんかスッキリしたよ。これからは無理に女の子らしくせずに、自然にいくことにするよ」
ふむ、ずっと悩んでいた問題が、こんなにあっさり終わっていいのかと思うような気がしないでもないが、まぁリサが吹っ切れたようでよかったよかった。
しかしリサのやつ、俺のこと男の子って……俺はもう男の子なんて言われる年じゃないんだけどな。よし、この際だ。勘違いを正しておくか。
「吹っ切れたようでなによりだ。それと最後に一つだけ言っておく事がある」
リサは小さく首を傾げながら、
「ん、なんだい?」
「俺は今年で25歳。もう男の子とは言えない年なんだ。すまんな」
そう言い放ってから数十秒間、
リサの顔は驚きで固まったままだった。
それから数十分後、
俺はリサと協力して、この場所にあるすべてのアルス鉱石をアイテムボックスに収納していた。最初は依頼で必要な分だけ持って帰ろうとしたところ、リサからアルス鉱石は貴重なので高値で売れると聞き予定変更、すべて持って帰る事にしたのである。
「ふぅ、終わった終わった。付き合わせて悪かったなリサ」
「このくらい問題ないさ。無事目的も達成できたわけだしね」
そう、これで今回の依頼の目的は達成。
後はフロックスに帰るだけだ。しかし、
「リサ、日が落ちるまであと数時間もない。いまから下山したんじゃおそらく途中で日が落ちると思う。俺はここで一泊したほうがいいと思うんだがどうだろうか? 幸いこの場所はゴレム三匹がいたせいで他の魔物は寄り付く気配はない。比較的安全だと思うが」
「そうだね。僕もユーマ君の言う通りここで一泊したほうがいいと思う」
「決定だな」
「うん、そうと決まればユーマ君、僕が持ってきた荷物を出してもらってもいいかな」
ああ、あの妙に重かった大荷物か。そういえば何が入っているのは結構気になっていたんだ。俺はアイテムボックスの中からリサの荷物を取り出し地面にそっと置く。
するとリサがその中から何か大きな物を取り出す。なんだろうかと思い聞いてみると、どうやらテントらしい。異世界にもテントってあるんだな。そんな事を考えている内に、リサが瞬く間にテントを組み立てていった。ふむ、さすがに地球のに比べたら劣ってしまうが、かなり立派だ。
その後二人で夕食を食べ終え、
時間も遅くなってきたのでリサがそろそろ眠る準備を始める。
「ねぇユーマ君、本当にいいのかい? 僕だけ寝てユーマ君は寝ないなんて?」
「ああ、問題ない。さすがに依頼主を見張りにするわけにはいかないだろう。それに、俺は多少寝なくても平気だ。日が昇る頃に起こすからそれまではゆっくり寝ててくれ」
「うん、分かった。じゃあ遠慮なく休ませてもらうことにするね。また明日ねユーマ君」
「ああ、お休みリサ」
その後は何事も起きることなく時間が過ぎていった。
そして次の日、
空を見てみると丁度日が昇っていたので、寝ているリサを起こそうと声をかける。
「おーいリサ、時間だぞ。起きろ」
……返事がない。
その後何度も呼びかけたものの、返事が返ってくることはなかった。どうやら熟睡しているようだな。ふむ、仕方ない。そう思いテントの扉を開き直接起こしにかかる。すると、
「ふむ、酷い寝相だな」
テントの中で寝ているリサの姿は中々に酷いものであった。なんというか、まるで子供がするような寝相である。おっと、ずっと見ているのも悪いな。さっさと起こすとしよう。
そう思い寝ているリサの肩を揺さぶりながら、
「おいリサ、そろそろ時間だ。起きてくれ」
するとさすがにリサも目を覚まし体を起こす。しかし顔を見てみるとまだ寝ぼけているような表情だった。リサはまだ寝ぼけ半分の目で周りを確認し、そして俺はいる事に気付きいきなり慌てだす。
「な、なななんでユーマ君がいるんだい!?」
「いや、朝なので起こそうと思い、テントの外から何度か声をかけたんだが中々起きなくてな。それで仕方なく直接起こしにきたというわけだ」
「そ、そうだったのかい。それは済まない事をした。申し訳ない」
「いいさ。それよりもうすぐ朝食にするから準備ができたら来てくれ。それと、お腹丸出しだと風邪引くからちゃんと服は着たほうがいいぞ」
そう言い残しテントの扉を閉める。
テントの中から叫び声のようなものが聞こえるが気にしないでおこう。
その後二人で朝食を取り、
朝食を食べ終えるとテントの片づけをして、ゴレイ山脈を下山していった。
そして数時間後、
無事ゴレイ山脈から出る事に成功。
後はここからフロックスまで走るだけだ。
「リサ準備はいいか?」
現在俺にお姫様抱っこされているリサにそう質問すると、
「うん、いつもでいいよ!」
「よし、じゃあいくぞ」
帰るとしますか、フロックスに。
読んでいただきありがとうございます。
これからもこの調子で頑張っていくのでよろしくお願いします。
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