第72話 再会と出会い
さて、グレンさんが駆除作戦終了宣言をしてから数十分後、俺たち冒険者はストン森林から脱出し、各自フロックスへ帰還していった。
そして今この場には、俺とイグルとマルブタしかいない。
つまり、
「さて、イグル君、マルブタ君、準備はいいかな」
俺がそう声をかけると、二人は体を震わせながら、
「お手柔らかに頼むぜユーマ……」
「アニキ、手加減よろしくっす」
そして俺は行きと同じく二人を両手で担ぎ、
「ああ、任せろ。ちゃんと行きの半分くらいの速度にする」
俺がそう告げると、二人は慌てだすが無視して、
「よし、いくぞ!」
そして俺は、行きの丁度半分ほどのスピードでフロックスに向かい走り始める。また担いでいる二人がうるさく騒いでいるが、すぐに静かになった。
そして走り始めて数十分後、俺たちは無事フロックスに到着した。
「うむ、さすがにこれだけスピードを落とすと、行きより大分時間がかかってしまっているな。まぁいい、着いたぞ二人とも」
俺がそう声をかけると、二人からはすぐに返事が返ってきた。
「お、おお。着いたか。なんか少しだけ慣れた感じがするぜ……」
「そうっすね……アニキがスピード落としてくれたのもあるっすけど、意識は保っていられるようになったっす」
ふむ、今回はちゃんと二人とも眠らずに起きていたようだ。感心感心。そして両手で担いでいる二人をゆっくり地面に下ろしてやる。
そして三人で門を抜け、フロックスに入る。
「さて、二人ともこれからどうする? 俺はこのままギルドに行って預かっているコカトリスの解体を頼みにいくつもりだが」
そう二人に聞くと、
「そうだな、今日は疲れたから先にジニアに戻っておくことにするぜ」
「アニキ、俺はちょっと鍛冶屋に用があるので今から行ってくるっす」
ふむ、そうなると。
「そうか、ならここでお別れだな。イグルもマルブタもまた今度な」
そう二人に告げ、分かれる。
まぁイグルにはどうせ夕食の時会うだろうけどな。
そして俺はそのまま歩いてギルドに向かう。
数分後、
「よし、着いた着いた。しかしなんだか中が騒がしい気がするな」
まだ駆除作戦に参加した冒険者達は戻ってきていないはずなので、ここまで騒がしいのは少しおかしいな。まぁいい、とりあえず入るとしよう。
そして扉を開け中に入っていくと、
「お! ユーマじゃねえか! 久しぶりだな!」
なんか懐かしい声で俺を呼ぶ声が聞こえたので、そちらの方に視線を向けてみると、なんとも懐かしい顔が俺の目に映った。
「おお、誰かと思ったらグレースさんじゃないですか。久しぶりじゃないですか」
そこにいたのは、懐かしのグレースさんだった。
ああ、本当に懐かしい。まぁ実際は一週間そこそこ会っていなかっただけなのだが、この世界にきてからグレースさんとはほぼ毎日顔を合わせていたので、少し見ないだけで懐かしく感じてしまう。
「おう! しばらく見ねえ間に随分強くなったみたいじゃねえかユーマ! 聞いたぜ、ゴリトリスやサイクロプスまで一人で倒しやがったってよ!」
「はは、まぁサイクロプスにはそれなりに苦戦しましたけどね。決まったと油断して一撃もらっちゃったりしましたし」
「は! あのサイクロプスをそれなりに苦戦で済ませちまう辺りが、お前はやっぱり大物だよ。しかしせっかくナーシサスから応援連れてきたっていうのに、戻ってきたら大侵攻はもう終わったっていうんだからな! 少し拍子抜けだったぜ」
ああ、そういえばグレースさんは、ナーシサスから冒険者の応援を連れてくるために街を出ているとグレンさんが言っていたな。たしかAランクのPTやSランクもいるという事だったがどうなったのだろうか。
俺がそんな事を考えていると、
「ふむ、グレース。その坊やがお主の話しておったユーマという冒険者かの?」
そんな事を言いながら、受付の辺りから一人の少女が歩いてきた。見た目は少し長めの金髪を後ろで一つにまとめ、目は少しキリっとしている。そしてその体は非常に小柄だ。おそらくサリーやリサなどよりも小さい。
しかしこの少女、見た目は本当にただの少女にしか見えないのだが、なぜか体が緊張して動かない。そして、一歩ずつこちらに近づいてくるたびに、緊張はさらに強まっていく。
おそらくだが、この少女は圧倒的に強い。それこそサイクロプスと相対した時よりも強烈な威圧感のような物を感じる……
そして少女は俺の目の前までやってきて、
「ふむ、そこまで緊張することはないぞ。別にお主と戦いに来たというわけではないからの。単純に大侵攻を一人で止めたお主と話がしてみたかっただけじゃ」
ふむ、今の所この少女は友好的なようだ。
なら俺も失礼な態度を取るわけにはいかない。
「すみませんでした。失礼な態度をとってしまって」
そう一応頭を下げ謝罪しておく。
すると、
「ふむ、思ったより礼儀正しい坊やじゃの。これはたしかにグレースの言っておった通り、将来有望かもしれんのう。それと態度については気にしなくていいぞ。お主を試すためにわざと威圧していただけだからの」
おい、あれわざとだったのかよ!
さっきは友好的だなんて思ったけど勘違いだったかもしれない。しかしこの少女、見た目とは違い、かなり古臭い喋り方だな。それことアルベルトさんのように何十年も生きているような……
まぁいい、とりあえず自己紹介しておくか。
「初めまして。俺の名前は佐藤悠馬。ユーマとお呼びください。現在冒険者ランクはAランクで首狩りのユーマとも呼ばれております。それで、失礼ですが俺はあなたの事を知りません。すみませんが名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
俺がそういうと少女は少し驚いたようで、
「ほう、ギルドに所属していてわしの名前を知らないとは珍しいのう」
「ばーさん、旅の最中でも話したが、ユーマは冒険者になってまだ一か月も経ってないんだ。知らなくても無理はねえぜ」
そうグレースさんがフォローしてくれる。
しかし、婆さんとはどういう事だろうか。
「ふむ、それなら納得だの。じゃあわしも自己紹介させてもらおう」
さて、一体何者なのだろうか。
「わしの名前はミナリス・アマランス。二つ名は《紫電》。まぁこれでもSランク冒険者をやらせてもらっておる。よろしく頼むぞ首狩り殿」
Sランク冒険者《紫電》ミナリス・アマランス。
それがこの可愛らしい少女の正体だった。
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