第51話 思い出
よし。
とりあえずこれで依頼完了。
後はバキルの死体をギルドで確認してもらうだけだな。
それじゃさっさと死体をアイテムボックスにしまうとしますかね。
俺はバキルの胴体と少し先に転がっている首から上をしまう。
「そういえばイグルはあの後どうしたかな」
鷹の目を全力で使うとしばらく動けないって言ってたな。
まぁさすがにもう動けるようになって宿にでも戻っているかな。
しかし今回ばかりはイグルには助けられたな。
あいつがいなければバキルを見るけるのにもっと苦労しただろう。
後で礼を言わないといけないな。
「まぁいいか、イグルの事はいったんおいといて、ギルドに向かうとするかね」
そうして俺はギルドに向かい路地裏を抜け、歩いていく。
ギルドに向かうついでにイグルのいた場所にも寄ってみたがやはりいなかった。
もうジニアに戻ったのだろう。
そんな事を考えながら歩くこと数分。
ギルドに到着した。
俺はギルドの扉を開け、中に入っていく。
するとさすがにもう遅いのでギルド内にはあまり人の姿はなかった。
グレースさんでもいつかと少し探してみたがさすがにいなかったので、そのまま受付のメルさんの元へと向かう。
するとメルさんが俺に気付き話かけてくる、
「こんばんはユーマ君。こんな時間にどうしたの? 何か依頼の報告かしら?」
「こんばんはメルさん。今日は指名依頼の報告にきました」
俺がそう言うとメルさんは驚いた顔になり、
「指名依頼……てことはユーマ君! もしかしてもう切り裂き魔捕まえちゃったわけ!? 今日ギルドマスターに依頼されたばっかりだっていうのに!」
「はい。ついさっき仕留めてきました」
「すごいわ! さすがユーマ君ね!」
メルさんはそう言って俺をほめてくれる。
しかし俺はあまり喜べなかった。
もっと早く解決できたんじゃないかと思ってしまう。
たとえばサリーが襲われる前に……
これからは気を引き締めていかないとな。
「どうしたのユーマ君?」
「あ、いえなんでもないです」
「そう。じゃあユーマ君、バキルを倒したって証明できる物持ってるかしら?」
「はい。アイテムボックスの中に死体が入ってますよ」
「ならいいわね。じゃあ確認のために今からギルドマスターに会いに行きましょうか。私はバキルの顔を見たことないから判断できないのよ」
「なるほど、わかりました」
そうして俺とメルさんはギルドマスターの部屋に向かい歩く。
数分で扉の前に着き、メルさんが扉をノックする。
「ギルドマスター。ユーマ君が指名依頼を達成したそうなので確認のためにきました。入ってもよろしいでしょうか?」
メルさんが声をかけるとすぐに中から声が返ってくる。
「おう、入っていいぞ」
俺とメルさんは部屋の中に入っていく。
さすがに今回はこの前のように拳は飛んでこなかった。
「よくきたなユーマ! で? 指名依頼を早速達成したんだって?」
「はい。つい先ほどバキルの倒す事に成功しました。」
「やるじゃねえか! と言いたいとこだがまずは確認させてもらっていいか?」
「わかりました」
さて、どこの部分を見せようか。
まぁ体を見せるより顔をみせたほうがわかりやすいだろう。
俺はアイテムボックスの中からバキルの首から上を少し取り出す。
それを見たグレンさんは大きく頷く。
「よし、間違いねえな。その面は確かにバキルのもんだ! まったく大したもんだぜ! 今日依頼したばっかだっていうのによ!」
「ありがとうございます」
「じゃあこれが報酬だ。受け取ってくれ」
そうしてグレンさんが俺に見たことのない貨幣を手渡してくる。
なんだこれは、少し鑑定してみた結果これは金貨の10倍の価値をもつ白金貨だった。こんなに貰っていいのだろうか。まぁ貰えるものは貰っておこう。
「こんなに、ありがとうございます」
「本当によくやってくれた。まさかこんなに早く解決してくれるとは思っていなかったぜ。ありがとな」
「いえいえ、では俺は今日は疲れたのでこれで帰りますね」
「おう! また指名依頼するかもしれねえからよろしくな!」
最後にグレンさんに頭を下げ部屋から退出する。
メルさんはグレンさんに話でもあるのか部屋に残るようだ。
とりあえずもうギルドに用はないな。
そう思い俺はギルドから出る。
「ふぅ、さすがに今日は疲れたな」
肉体的な疲れはほとんどない。
しかし精神的に今日はかなり疲れた。
早めにジニアに帰り寝るとしよう。
ふと空を見上げるとすでに真っ暗であった。
「とっくに夕食の時間過ぎちまったな」
ふぅ、今日は飯抜きだなこりゃ。
夕飯作るって張り切ってたのに、サリーには悪い事しちゃったな。
まぁサリアさんに伝言は残した。先に寝ていてくれるだろう。
少しだけため息をつきながらジニアに向けて歩いていく。
数分後、無事ジニアに到着した。
やはりジニアの一階は静まり返っていた。
まぁ仕方ないよな。
そう思い扉を開け中に入ろうとする。
すると、
「あ! ユーマさんお帰りなさい!」
「お、ユーマ戻ってきたね。随分時間かかったじゃないかい」
「よおユーマ!やっと戻ってきやがったかこの野郎。俺はもう腹ペコペコになっちまったぜい」
なん……で?
そこには俺を待っていてくれたのだろうか。
サリーとサリアさんとイグルがいた。
「なんでみんな? もうこんな時間なのに。夕食の時間だってとっくに……」
そう俺がつぶやくと、サリーが、
「言ったじゃないですか! 今日の夕食は私が作るって! じゃあユーマさん夕食作ってくるのでちょっと待っててくださいね」
そういいサリーは厨房に走っていく。
俺はサリアさんに目を向ける。
するとサリアさんは少し笑いながら。
「私は先に寝ろっていったんだよ? なのにあの子ったらユーマさんの今日の夕食は私が作るって聞かなくてね。困った子だよまったくね」
そう言いながらもサリアさんは嬉しそうだった。
次に俺はイグルに目を向ける。
「イグル、お前はなんで?」
「ん? 俺か? あの後疲れてジニアに帰ってきたらよ、サリーちゃんとサリアさんが起きてて特別に今日は夕食の時間を伸ばしたって言われてよ。ならおめえが帰ってきてから一緒に食べようと思ってな! やっぱり飯は誰かと食べたほうがうめえからな! ほらおめえもボーっとしてないで座れよ」
「あ、ああ」
俺は少し戸惑いながらもイグルの向かいの席に座る。
「で、おめえの事だからちゃんとケリはつけたんだろ?」
「ああ、ちゃんと依頼は達成したよ」
「へっさすがだぜ!」
「ユーマ、私からも礼を言うよ。娘のためにありがとね」
そんな話をしているとサリーが料理を運んできた。
気のせいかいつもより豪華だ。
「ユーマさん、イグルさんお待たせしました! 今日はいつもより少しだけ張り切っちゃいました。いっぱい食べてくださいね」
俺とイグルの前のテーブルに料理が並んでいく。
めちゃくちゃうまそうだ。イグルも同じように思ったようで。
「うおおお! うまそー! ユーマ冷めないうちにいただこうぜ!」
「そうだな。いただくとしよう!」
そうして俺とイグルは食事を始める。
やばい、本当にうまいぞ! これは止まらない!
イグルもかなりのスピードで食べている。
しかし、なんだろうなこの光景。
みんなでわいわい飯を食べる。
こんな光景俺は昔見たことがある。
あれは、俺がまだ引きこもる前。
家族みんなで仲良く食卓を囲んでいた思い出。
俺が引きこもりにならなければずっと見れていただろう光景。
そんな昔の事を思い出していると、
「ユーマさん?」
サリーが突然心配そうに話しかけてきた。
どうしたのだろうか?
するとイグルが、
「ユーマ、おめえなんで泣いてるんだ?」
俺が……泣いている?
俺は目に手を伸ばす。
するとたしかに俺は泣いていた。
「ユーマさんどうしましたか? なにか辛いことでもありましたか? それかもしかして私の料理に何か問題が」
サリーは少し不安そうな顔になる。
いかんいかん。
「大丈夫だよサリー。昔、家族で食事をしていた時のことを思い出しただけだ」
「家族、ですか。そういえばユーマさん家族は」
「ああ、俺の家族は少し遠いところにいてな。簡単には会いにいけないんだ。」
「そうなんですか。いつかまた再会できるといいですね!」
「ああ、そうだな。いつかまた会いたいな」
会って……色々話がしたいな……
その後気を取り直し俺とイグルは料理を完食した。
「ふぅーうまかったぜい! 腹いっぱいだ」
「ああ、本当に美味しかった。」
「よかったです!」
よし、じゃあ部屋に戻るか。
いやその前に、
「今日はサリーもサリアさんもイグルも俺を待っててくれてありがとな。すごい嬉しかったよ。じゃあまた明日」
少し照れくさくなり急いで自分の部屋に戻る。
そしてすぐにベッドに横になる。
「今日も色々あったな。疲れた」
目を閉じると夕食の時の事を思い出す。
父さん母さん、ごめん。
俺は、この世界で生きていくよ。
サリー達と一緒に。
そんな事を考えながら、俺は眠りに落ちていった……
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