第103話 別れと約束
今月十日に「引きこもりだった男の異世界アサシン生活」二巻が発売します。
内容は一巻と同じくWEB版に追加要素を加えた物となっております。
書籍情報は活動報告にも載せていますので暇があれば見てくれると嬉しいです。
グロースラビッツとの戦闘から翌日。
前日の宴会の影響かいつもより遅めに起きてしまったようだ。
体を少し伸ばしながらベッドから体を起こして部屋の窓から外を見てみると、すでに日が昇ってから数時間が経過しているようだ。すでに部屋の外も騒がしくなっている。
ちなみに俺は今日朝飯を食べたらバリス村を出発すると決めていた。
その考えはすでにガント一家やゾンガさん、それにシングにも伝えてある。
昨日これを伝えた時にはシングに必死に引き留められたものだが、フロックスに俺の帰りを待ってくれている人達がいる事を話すと、シングは渋々だが納得してくれた。
そんな事もあり今日は早朝に出発する予定だったのだが、これは無理そうだな。
まあ今更後悔しても仕方ない。さっさと準備をして食堂へ向かうとしますか。
そう考え簡単に身だしなみを整えると、部屋を出て食堂へと歩いて行く。そうして一階へ到着すると早速ガントさんの元気のいい声が聞こえて来た。
「おお、やっと起きてきやがったかユーマよ!」
「おはようございますガントさん。それにしても、昨日あれだけ騒いでいたはずなのに相変わらず元気そうですね。疲れとかはないんですか?」
「まあ昔は毎日のように宴会をしてたからよ。体が慣れちまったのかもしれねえな。お前の方こそ体の方は大丈夫なのかよ。昨日は随分と騒いでたみたいじゃねえか」
「そうですね。若干ですが体が重いです。まあ昨日は楽しませてもらったので文句はありませんけどね。あれだけ楽しく騒いだのは本当に久しぶりでした」
「良かったじゃねえか。それじゃ俺はマリアにお前の分の朝飯を頼んでくるからよ。まあそこら辺に座ってのんびりしていてくれよ」
そう言い残しガントさんは厨房へと歩いて行った。
俺は少し申し訳ないと思いながらも、空腹には勝てず大人しく待つことに。
そうして席に座りのんびりしていると、俺に気付いたマリーが俺の正面の席へ座り言った。
「ユーマさん朝食を食べたら出発しちゃうんだよね。また私の作った夕食を食べてもらいたかったのに残念だなー。ねえ、またバリス村に来てくれる?」
「そうだな。俺にとってバリス村、特にここは心地のいい場所だ。また暇が出来たら遊びに来るとするさ。その時は必ずマリーの作った夕食を食べる事にするよ」
俺がそう話すと、マリーは俺に顔を近づけ嬉しそうに言った。
「本当!? 私それまでに必死に練習するから。約束ですよー」
そう言い残しマリーはスキップしながら厨房へと戻っていく。
そしてマリーと入れ替わるようにマリアさんが出来立ての朝食を持ってきてくれる。
「お待たせユーマ君。ゆっくり食べてね」
「遅くなってしまいすいませんマリアさん。頂きます」
数分後、マリアさんの作ってくれた朝食を綺麗に完食した俺は、空になった食器を持って厨房へと向かい、マリアさんとマリーに別れの挨拶をした。
そして最後に扉の前で俺を待っているガントさんに挨拶をする。
「ガントさん、今回も色々ありがとうございました。またこの村には来るつもりなので、その時にはまたよろしくお願いしますね」
「何言ってんだよユーマ。世話になったのは俺達の方だ。お前には二度もバリス村を救われた。本当に感謝してる。また会える日を楽しみにしてるぜ」
「俺もガントさんと同じ想いです。必ず会いに来ると約束します。では失礼します」
そうガントさんに言い残し、俺は宿屋ロータスを後にした。
宿屋を出た俺が村の入り口の門まで歩いて行く途中、何度も何度も村の人達からありがとうと礼を言われる。今回頑張ったのはシングなので少しだけ複雑な気分だ。
そうしてグロースラビッツによってボロボロにされてしまった門に到着すると、そこには村の村長であるゾンガさん、泣くのを我慢しているような表情をしているシングがいた。
そんなシングの表情に俺も少し涙が出そうになるが、我慢してまずはゾンガさんに声をかける。
「ゾンガさん、色々お世話になりました。また必ず来ます」
「うむ、是非来てくれ。ユーマ殿ならバリス村の住人も大歓迎じゃよ。そうだ、もしまた今度来る機会があったら、その時はまた村中を巻き込んで宴会をするのも悪くないの」
「それは楽しみだ。その時は是非参加させて頂きますよ。それではこの辺で失礼します」
そうゾンガさんに言い残し、俺は最後にシングの元へと向かう。
俺を目の前にしたシングはもう涙を堪える事は出来ず泣き出してしまった。その様子に俺は少し苦笑しながらシングの頭に優しく手を置いて撫でる。
すると段々と涙の流れる量が少なくなっていく。そして涙が完全に止まると、シングは残った涙を腕で強引に拭い、確かな覚悟を秘めた表情で俺にある宣言をする。
「兄ちゃん、俺は冒険者になるよ。兄ちゃんや父ちゃんのような冒険者に」
そのシングの発言に俺は特に驚くことはなかった。シングと一緒に行動している間に、冒険者に憧れているのは何となく理解していたからだ。
シングの後ろの立つゾンガさんに目を向けると、冒険者になるというシングの言葉に苦笑いの表情を浮かべている。すでに説得済みのようだ。
そういう事なら俺に出来る事は冒険者の先輩としてアドバイスくらいだな。俺はシングの目をじっと見つめ少しだけ厳しめな表情で言った。
「シング、お前が冒険者を目指すのは理解した。俺も何か言いたいところではあるが、なんせ俺は冒険者になって数か月だ。特別な事は何も言えない」
シングは俺の冒険者歴に驚いている様子だが、それを口に出す事はせず黙って話を聞いている。
その表情は今までに見た事ないほど真剣だ。
「俺に言える事はこれくらいだ。シング、冒険者を目指すならまず強くなる事を考えろ。これはあくまで俺の考えだが、冒険者とは極論を言ってしまえば戦いの中で生きていく事を決めた者達だ。そんな冒険者に頼れる物があるとすれば、それは自分自身の強さだけだ」
「頼れるのは、自分自身の強さだけ……」
「あくまで俺の考えという事を忘れてくれるなよ。俺はまだPTも組んだ事がないからな。誰かを頼るという行動を知らないだけかもしれない。それと、強さだけを求めて礼儀などを疎かにしないように気を付ける事だ。俺から伝える事はこれくらいだな」
俺の話が終わると、シングは緊張した様子で小さく頷く。
そんなシングの緊張を和らげるように、俺は厳しめな表情を崩し笑顔で言った。
「そう緊張する事はないシング。幸いな事にお前には才能がある。焦らずゆっくりと強くなっていけばいいさ。ゾンガさんやガントさん、バリス村のみんなと一緒にな」
俺がそう言うとシングは緊張を解いてくれたようだ。
そして俺とシングは最後にある約束を交わすことになった。
「兄ちゃん、俺は強くなるよ。じいちゃんや村のみんなと一緒に。それでさ、俺が一人前の冒険者にまで成長したら、また一緒に冒険に行ってくれる?」
「ああ、勿論だ。お前ならきっといい冒険者になれる。その時が来るのを俺も楽しみに待っている事にするよ。さて、そろそろお別れの時間だな」
俺がお別れの時間と告げると、再びシングの目が少し曇る。
しかし今度は泣き出す事はなく、しっかりと俺の目を見ながら別れの言葉を。
「またね兄ちゃん。絶対にまた来てくれよな!」
そう今まで見た中でとびっきりの笑顔で言った。
そのシングの様子に俺も笑顔を浮かべながら言った。
「ああ、必ずまた来る。約束だ。また会おうシング!」
そう最後に言い残し、俺はバリス村に背を向け走り出す。
背後を見てみるとゾンガさんは俺の走りを見て固まっており、隣のシングは俺の姿が遠ざかって見えなくなるまで必死に手を振り続けていた。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
今回の話で長く続いたシング編及び三章は終了となります。
次の四章では名前だけ出ていた魔法学園や城塞都市ナーシサスの話、それに魔族や魔人關係の話も入ってくると思います。
おそらく四章もかなりの長さになると思いますのでよろしくお願いします。
最後にブックマークや評価などいつもありがとうございます。