結
半年後・・・
あの数奇な夜から、季節も、完全に変わろうとしていた。
サークルは、一応、存在してはいる。
だが、あの日の夜からやる気も無く、なんだかだべってるだけの、集団に成り下がりつつあった。
あれから、なにもしなかったわけではない。
唯一、残された王冠・・
存在する以上う、僅かでも・・あるいは、巨大な価値があるはずだど、四人は、調べるだけ調べてみた。
つぶれた円錐形で、不規則に鋲が打たれていて、獣や兵士の模様が描き込まれた王冠である。
ところが、いくら人類の歴史を紐解こうと、該当する過去は存在しなかった。
ならば、どういうことか?
新たな大発見である!
だから、困っているのである。
価値を計る物差しが、存在しないのだから・・
ならば、とりあえず、公表だけでもしてみるか。
いや、まともに相手をしてもらえるわけがない。
どう取り繕うとも、そのようなものを一回の学生が所持している時点で疑わしいし。
ならば誠意を持って、事実をありのまま語ればいいのかというと・・・・・・
そんなことをすれば、物の真贋以前に、こちらの脳が疑われるであろう。
そんなわけで、かつての王の遺品も、こうなっては、見た目通りの鉄クズである。
・・・石器時代にでもさかのぼれば、たしかに王様しかかぶることができなかったのだろうけど。
余談だが、一樹にいたっては、四問目を前にやめておけばと、ときおり本気で後悔していた。
もう、そんな夜のことなど忘れかけていた、そんなある日のことだった。
既視感をただよわせながら、貴弘が部室に飛び込んできた。
「なんだ?トイレなら、二つ先だろ」
珍しくあわてている貴弘を一樹がからかった。
でも、あの日以来、なんだか意気に欠けている。
「アホ!それどころじゃない!これ見ろこれ」
貴弘が、隅にあったテレビのスイッチを入れた。
映りだしたのは、なんだか特番を組まれたニュースのようで、貴弘があわててテレビに飛びつくぐらいなら、アニメかバラエティの予告かなにかと、勘違いした。
ニュースの内容は、どこかで新たな遺跡が発見されたとのことで、あまり他の三人の興味を引くものではなかった。
『・・・発見者は、日本人の阿久津英雄(45)さんで、阿久津さんは、先日まで大学で講師をなされており、その後辞任、単身ブラジルに渡ったのが五ヶ月前、現地住民の協力を得て、今回の発見にこぎ着けたとのことです。では、現地に取材員が飛んでます。室井さん。レポーターの室井さん』
画面が切り替わると、日本のどこでもない熱帯雨林と、日本の何処にでも居そうな中年の男性が、アンバランスに映し出される。
『はーい、日本のみなさん、私は日本を遠く離れ、地球の裏側、アマゾンのジャングル奥地に来ていまーす』
なんだか声を荒げて、衛星通信であることをやたら意識しているレポーターだった。
それとも、ジャングルの奧など、日本人に馴染みのない場所に来れば、誰だってそうなるだろうか?
『では、まずこちらをご覧ください』
「ほら、これこれ!」
「ああーーっ!これは!」
貴弘に指摘されて、三人も驚かざるを得なかった。
そこに映ったのは、四人にとって悪夢の一夜の戦利品。
どこぞにほったらかして、行方知れずとなった、あの鉄の王冠ではなかったか。
『みなさんは、その昔、なによりも鉄が貴重とされた時代があったことをご存じでしょうか?このお鍋をひっくり返したようなものも、そんな時代を象徴するものの一つで、全て、鉄でできています。阿久津さんは、無名の冒険家、トレジャーハンターなどにより、この地より持ち出されたものが、巡り巡って、幸運にも、自身が手に入れることができたのではないかと仮説を立てていますが・・』
画面ごしの抗議の声など無視して、レポーターはにこやかにリポートを続ける。
『こちら、よくご覧ください。バラバラに点がありますが・・じつはこれ、この地方で見られる星座を表しているんです。そのことに気づいた阿久津さんは、このお鍋をあらゆる角度から分析し、大まかな位置を特定したのち、日本を離れて五ヶ月かけて、この地にたどり着いたとのことです』
そこで画面が森へと変わって、発見された木々に埋もれるような遺跡と・・・そして、そこから出土したのであろう、当時の装飾品やら、祀られてた神仏の像やら、祭具などが、次々と映し出された。
・・・・・それらが、ことごとく光を放ち、値打ちもの以外には見えないのだが・・・
『阿久津さん。ただいまの映像、たいへん価値のあるものばかりに見えましたが』
『はい!ですが、これはまだほんの一部です。今まで手つかずだった、未知の遺跡。これからの調査が進むに当たって、歴史的に、また金銭的にも、どれだけ莫大な発見があるか、現時点では想像もつかないとのことです』
「フッ・・」
「フフ・・ハハハ」
「はははははははは・・」
「あはははははははは」
・・・・・ポツポツと、誰からともなく、笑い出す。
そして、その声は、徐々に大きくなり、やがて、部屋の外まで響き渡るような、はた迷惑な、大笑いとなった。
あまりにも空虚な笑い声に、たまたま部屋の前を横切った女学生が、気味悪がって、足早に立ち去ってしまうほどだったが・・
『室井さん、ありがとうございました。いや~、阿久津さんにとって、あのお鍋は、まさに宝の地図だったわけですね。では、次のニュースです』
「なんじゃそりゃ!!!!」
手近なイスを投げつけられ、罪のないテレビが悲鳴を上げた。