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第四問

「では、最後の問題だ」

「おお~~~~~~~~~~~っ!」

 四人が、テンションをマックスにして叫んだ。

 さもあろう。

 悪魔がその手に取りだして見せたのは、ゴルフボール・・いや、テニスボールほどあろうかという、目映いダイヤモンドだった。

「正解できたら、これは、お前達の物だ。あらかた掘り尽くされた現代においては、新たに採掘されることはあるまい、極上のダイヤモンドだ」

 あいかわらず、こちらの心境など見下しているかのように流暢に語ると、逆の手で、この部屋にあった一輪挿しの花瓶を手に取った。

 二つをかち合わせる・・・かのように見えたのだが、音もなく、ダイヤだけが消えてしまった。

 残った花瓶を振ってみせれば、コンコンと乾いた音を出す。

「さて、中のダイヤを取り出してもらおうか。勿論、壺を割らずにだ。制限時間は十分」

 砂時計がひっくり返されると、そのガラス越しに、ロウソクの炎が儚げにゆらめいた。

「なんじゃそりゃーーーっ!」

 まず、一樹がひったくるように花瓶をつかんで、逆さにして振ってみるのだが、ゴツゴツと、重たい音を出すだけで、当然、ダイヤは落ちてきてくれない。

 花瓶の口より、ダイヤの方がはるかに大きいのだ。

「あっ!?」

 今度は、貴弘が花瓶を奪い取った。

 少しうずくまるような体制で、一定のリズムで、花瓶を小刻みに振る。

 どうやら、落ちろ!落ちろ!と、念でも込めてるみたいだが・・

「なにしとん?」

「子供のころ、こうやって、コップの底からコインが落ちてくるみたいなの、見たんだよ」

「アホかーっ!いつの話だ!もっと現実的に考えろ」

「じゃあ、現実的に、大きいものを小さい口からだしてみろよ」

「うっ、う~~~ん、細かく砕くとか・・」

 言ったあとで、後悔する。

「ダイヤは硬いよ。花瓶を割らすに、どうやって?」

 これは、修司だ。

 当然の質問。

 一樹は、バツが悪そうに唸るだけだった。

 なんだか、思考は、解決より逃避に進みつつあった。

「これしかないか・・」

 会話に参加しなかった真行が、ぽつりとつぶやいた。

 聞かせるつもりはなかったのだが、ほかの三人の耳には、しっかり届いたようだ。

「なにかあるのか!」

「言っていいのか?聞かない方がいいんじゃないか?やれるかどうかも問題だぞ・・」

「なに言ってるのか、わかんねぇよ」

 真行は答えなかった。

 ただ、花瓶を手にしただけだ。

 そして、テーブルに設置してあるガスバーナーに火をつける。

 今さらながら、閉鎖された空間で、電気や水や、ガスの供給があるのか謎だ。

 最後に、花瓶の底をあぶり出せば、『まさか!?』そんな表情のまま、ほかの三人の顔が固まる。

 ダイヤモンドを構成する原子がなんであるかぐらいは、誰もが知っていたからだ。

「炭素結晶であるダイヤモンドは、熱に弱い。800度半ばで、空気中の酸素と結合し、二酸化炭素となり気化する。つまり、ダイヤを燃やして小さくすれば、ここから出すことが可能というわけだ。止めるなら、今のうちだぞ。他の方法があるなら、止めてみせろ」

 真行の、その手が震えて見えるのは、揺らめく炎のせいだろうか。

            ・

            ・

            ・

 とにかく、それを一刻も早く、花瓶の口を通る大きさまで小さくしなければならない。

 花瓶を口の部分を下にして、実験スタンドで固定して、テーブルから届く他の二本のバーナーも持ってきて、三方向から花瓶の根元に火力を集中させた。

 表面温度は1000℃をかるく超えてるだろう。

 花瓶自体は焼き物なので、2000℃ほどでも大丈夫なはずだ。

 あとは、待つだけである。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 なんと、矛盾と苦悩に満ちた解答だろう。

 もう、正解が正解であるのかさえわからない。

 巨大な喪失感と罪悪感に、潰されてしまいそうだ。

 まさに、悪夢の如き難題。

 実際に、悪魔から出されたのだからしかたない・・とは、なんの慰めにもならない。

 花瓶の中では、おそらく四人の能力で稼げる数年分の金銭価値が、秒単位で、文字通り煙と化してるに違いない。

 直視することに耐えられず、うつむき、頭をかきむしる者。

 味覚など無視して、菓子をむさぼる者。

 壁に正座して、シミに語りかける者。

 黒板を円周率で埋め尽くす者、さまざまである。


 さらに無情なことに、最初にあった豪奢なカットのあとなど見る影もなくなったダイヤが落ちてきたのは、砂時計の砂が尽きた、わずか一瞬後であった。


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