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よみがえれっ!お兄ちゃんっ!?  作者: 天塩虎
よみがえれっ!! お兄ちゃん
5/17

四話

キモチなんてすぐ変わるものだけれども、もし変わらない気持ちがあるとするならば、それは本人が変わったことに気付いていないか。本人すらも変わってしまったかそのどちらかだと、今ならそう思う。

 朝起きて、今日もまたいつも通り、学校に行こうとしたのだけれど、今日は休みだった。祝日で休み。週のど真ん中に休みをポンと置かれても困ると言えば、困るのだけど……どうしようかな……


「あ、そうだ」


 私は、着替えて、お兄ちゃんの部屋に入った。


「おっにっいっちゃーんっ!」


「うわっ!」


 ダッシュして、そのまま抱き着いた……つもりだったんだけど、ただの体当たりになってしまった。ごめん、お兄ちゃん。


「いって……なんだよ急に」


「いや、お兄ちゃん、今日せっかく休みだし、天気もいいし」


「曇りだぞ、今日。別に天気よくはないだろ」


「ほら、でも、曇りなら肌ヒリヒリしないでしょ、お兄ちゃんでも」


「ああ、まぁ、そりゃそうだけど……」


「じゃあ、決まり、早く出かけようっ! はい、着替えた着替えた」


 私に体当たりされて尻餅をついているお兄ちゃんに飛び付き、服を脱がしてく。きゃー、きゃー。私、今、男の人の服を脱がしている。きゃー、きゃー。と、まぁ、そんなことはないんだけど、お兄ちゃんだし。

 足が動かなくなったばっかりで、着替えとか上手くいかないときは、よく手伝ってあげていたし。


「ちょ、分かった、分かったから、着替えくらい自分で出来る」


「えー、本当にー?」


「ああ、約束する。今日は外に出ればいいんだろ」


「うん」


「じゃあ、俺が外に出る前に、お前がまず、俺の部屋の外に出て行け」


「はーい」


 と、まぁ、追い出された。

 部屋の前で鼻歌でも歌いながら、うろうろ右往左往と歩いていること数分。春にしては随分と暑苦しそうな格好をしたお兄ちゃんが部屋から出てきた。


「え、なにそのロングコート、すっごい暖かそう、でも、時期的に流石に暑いと思うよ、お兄ちゃん」


「見た目からすると暑いかもしれないけど、この体になってから温度ってあんまり気にならないし、日光は大丈夫だし、その上、今日は曇りだけども、一応。一応な」


「むー、まぁ、それもあるけど……」


 見た目が暑そうだし。でもな、お兄ちゃんもいやいや外に出てくれる訳だし、それくらいなら、いいかなー……別に。よし、いいことにしよう。


「まぁ、いいや、じゃあ、さっそく出かけよう」


 お兄ちゃんの手を引いて、玄関から外に出る。


 どんよりとした空気、薄暗いいつもの風景。空は灰色。

 うん、今日もいい天気。


「はぁ……」


「どうしたの? お兄ちゃん、ため息なんかついて」


「いや、なんでもない……それで、どこに行くんだ?」


 お兄ちゃんは、面倒臭そうにそう聞いて来た。うーん、やっぱり乗り気じゃないのか。

 それにしても、どこ行くか、かぁ……なんも決めていないけれど、まぁ、どっか適当に……。


「それは、もう行ってか……」

「ああ、先に言っておくが、どっか適当に行くとかはやめてくれよ、適当に行くにせよ、せめて大体のプランくらいは立てておいてくれ」

「え、あー……うん、分かった」


 駄目だった。だとしたら、うーん、一日中居ても飽きなさそうで、今日行けそうなところ……ああ、そうだ、隣町に最近大型ショッピングモールが出来たって、クラスの子が言っていた気がする。


「よし、じゃあ、隣町に行こう」


「ん? ああ、あのショッピングモールか?」


「あれ? お兄ちゃんも知っていたの?」


「知っていたも何も、最近ちらちらテレビに出てたしな」


「へー、なんか混んでいそうだね」


「まぁ、混んではいるだろうな」


 混んでいるのか……まぁ、いいか、別に。


「じゃあ、電車で行こう。早く早く」


「ちょ、待て、急に走り出すな」


 引き続きお兄ちゃんの手を引きながら走る。

 昔は良くこうやっていた気がする。お兄ちゃんの足が治ったからこそできることだよね、これ。うん、これもいいな。もうちょっと、このまま走っていよう。


 そうして走り続けること数分。


「はぁ……はぁ……え、えき……とう……ちゃく……ぐはぅ……」


「いや、そうなるんだったら、何で走ったんだよ」


「お、お兄ちゃんと……はぁ……はぁ……か、風に……なり、たくて……風になれる気がしたんだ……お兄ちゃんとならっ!」


「……いや、ごめん。よく分からない」


 私が叫んだことによって、周囲の視線を集めたが、お兄ちゃんはそれも大して気にせず、呟くようにそんな返答をした。うーん、ノリ悪いなぁ……。


「それにしても……お兄ちゃん、全く息が切れていないね」

「ああ、そう言われればそうだな。全く疲れてもいない。案外こういう体質なのかもしれん、この体は……」


 ふーん、走っても、疲れない体質かー、いいなー。私もそういうの欲しい。


「それよりも、さっさと切符を買おうぜ」


「う、うん、そうだね」


 タッチパネルを操作して二人分の切符を購入。

 改札を抜けて、駅のホームで電車を待つことにした。


「そう言えば、お兄ちゃん」


「なんだ?」


「お兄ちゃんの体って、今どんな感じなの?」


「どんなって、そんなアバウトな聞かれ方をしても何とも言えないが、まぁ、強いて言うなら、常に良い体調が保たれているという感じだな。走っても息切れないし、こんな服装をしていて、温度を感じないわけじゃないけど、暑いと感じる訳じゃないし、怪我したりしても治るみたいだし、色々便利な体ではあるな。ただ、まぁ、鏡に映らないのは少し不便かな」


「鏡に映らないの?」


「ああ、まぁ、いや、映そうと思えば映るんだけど、意識しないで鏡の前に立つと何も見えなかったりするから、ちょっと面倒くさくてな」


「うーん、確かにちょっと面倒くさいね、それは」


「だろう」


 となると、お兄ちゃんは、常に鏡とか反射する物を意識していないといけないのか……ちょっと今日は疲れさせちゃうかもしれないな。


「それでも、たまの外出だし、お前と一緒にこうやって並んで外に出るのも悪くない。別に、お前が気に掛ける必要な無いぞ、まぁ、誘うならばプランくらいは立てておいてほしかったが」


「思いついたの今日の朝だったし、仕方ないじゃん」


「なんだ、お前お得意のいつもの思い付きだったのか?」


「そうだよっ!」


「そんな元気に返す事でもないだろうに」


 そんな感じで話をしていたら、電車がゆっくりとホームに入って来た……それに乗ろうと一歩足を踏み出したところ、お兄ちゃんに手を引かれ、後ろに倒れて……お兄ちゃんにパタンともたれかかった。


 そう言えば、手、繋いだままだったんだっけ?


 あれ、もしかして、今までずっと繋いでいた? 良く考えたら、切符買う時も片手でタッチパネルを操作していて、もう片方の手は何かを握っていた気がするし……うう、なんかそう考えると恥ずかしい。


「すみれ、降りる人が優先だぞ、まぁ、ここで降りる人は少なかったけれど、一応マナーだ」


「むー、わ、分かってるよ」


「いや、だったら、乗り込もうとするなよ」


 と、お兄ちゃん。もう、分かってば、私が悪うございました。

 電車に乗って数分、目的の町についた。そこからバスに乗り換えて、2,3分。


「着いたー!」


「叫ぶなよ、恥ずかしい」


「もう、いいじゃん、別に」


 依然、私達は手をつないだままである。恥ずかしいけど、ここまで来たらどうにでもなれだ。一日中ずっと繋いでやる。


「よし、まずは、ほら、恋人が良くやるあれやろうあれ」


「いや、俺達恋人じゃないし」


「はいはい、似たような物でしょ」


「いや、俺達、兄妹」


「はいはい、似たような物でしょ」


「どこが……」


「はいはい、似たような物でしょ」


「おま……」


「はいはい、似たような物でしょ」


「………」


「………」


「な、なあ……」


「はいはい、似たような物でしょ」




「お前は、RPGの村人かっ!」




 ぱこんっ……軽く頭を叩かれた。軽くって言ってもそこそこ痛い。


「うう~」


「はぁ、分かった分かった、で、俺達は恋人じゃないけれど、何がしたいんだ?」


「うーん……」


 あの服を買う時にやるあれ。観客一人のファッションショーみたいなあれがやりたいんだけど、頭叩かれたし、ちょっと悪戯してやろう。


「えっと、ほら、恋人同士がやるとしたら、あれしかないでしょ」


「あれって、なんだ?」


「あれはあれだよ」


 ジェスチャーでお兄ちゃんに少し屈んでもらい、耳元に近づいて囁くように言う。


「えっちなこと……」


「……はぁ……」


 お兄ちゃんはため息をつくと、呆れたような感じで言った。


「馬鹿なこと言っていないで、実際は何がしたいんだ?」


「えー、本当かも知れないじゃん」


「……だとして、何故このタイミングでいう。トイレでも行くつもりか?」


「え、あ、えー」


 ちょっと、想像してしまった。うーん、顔が熱い。想像しなきゃよかった。


「はいはい、分かった分かった、叩いたのは俺が悪かった。それよりも、お前はなにがしたいんだ?」


 お兄ちゃんは、自分が適当な感じでそう言ってきた。


「あ、うん、ほら、試着してそれを見せて、これどう? って言うやつ」


 私も私で、ちょっと恥ずかしくなってきたのもあって、そう普通に返した。




 そんでもって試着室。


「うーん、狭いね」


「いや、なんで俺も入らされているんだよ」


「いやー、なんかね」


 手、繋いだままだし。


「手、離せばいいじゃねーか」


「うーん、だって、せっかくここまで繋いできたんだし、ここで話すと記録が……」


「何の記録だよ」


「ギネス?」


「いや、申請も何もしていないからどっちにせよ無理だろ」


「そうかー」


 うーん、ちょっと残念だけど……確かにこのままじゃ、着替えにくいし仕方ないか。


「分かった、じゃあ、ちょっとだけ離すね。


 長く繋がれていた手が離れる。なんか少し寂しい気がする。


「じゃあ、俺、外で待ってるからな」


「……っと、その前に……せっかく二人でこの密室に入ったし、ちょっと補給していかない?」


「誰が何を」


「お兄ちゃんが、私の血を」


「……ここでか?」


「うん」


「いや、無理だろ」


 お兄ちゃんが冷静にそう返す。


「なんで、無理なの?」


「お前、声でかいし」


「理由がひどいっ!」


 否定は……出来ないけど……。


「じゃあ、いいよもう。お兄ちゃんなんか出て行けっ!」


「いや、お前がここに留まらせたんだろ」


「むー」


「分かった分かった、出て行く、出て行くから」


 お兄ちゃんが出て行ったのを確認してから、服を着替えて、カーテンみたいなのをシャーってやる。


「ばばーん」


「……似合ってるな」


「ふふーん、そうでしょ」


 私のコーディネートは、白のワンピースに麦わら帽子。良くある女の子のコーディネート。マンガとかではすごくよく見るけど実際言うほど見かけることないよね、この服装。


「じゃあ、次行こう」


 カーテンっぽいの閉めて、着替えて、またまたシャーってする。


「ばばばばーん」


「……それも、まぁ、にあってるんじゃねーの?」


「そうでしょ、そうでしょ」


 今回のコーディネートは、ボーイッシュな感じ。ホットパンツと、へそ出しのシャツ。あと、なんかよく分からないチェーン。うん、エロかっこいいと思う。まぁ、ちょっとこのシャツ胸がきつい気がする。


「じゃあ、次。次へ行こう」


 カーテンシャー。

脱ぎ脱ぎ……よし、着替え完了。

 カーテンシャー。


「じゃーん、ここは、なんか水着も売っているみたいだったから、来てみた。まだシーズンには早すぎるんだけど、これもなんか定番だし、やってみた」


「なっ……おま……やってみたって……」


 カーテンシャー。私は閉めていない。お兄ちゃんが慌てた様子で閉めた。


「いや、なんで、よりによってマイクロビキニなんだよ、つーか、なんで試着できるんだよ、それ。普通そう言うのって出来ないんじゃないのかよ?」


「いや、だって、これ全部買ったやつだし」


「いつの間に買ったんだよ!」


「うん? いや、試着室に入る前、店員さんに、全部買いますって言った」

「……つまり、まだ金は払っていないと……」


「うん、だから支払よろしくね」


「くっそ、このやろう」


「やろうじゃないもーん」




 と、まぁ、この後、一悶着あったんだけど。まぁ、言えるようなことでもないし。うん。

 強いて言うのならば……まさか、本当にトイレに行くことになるとは……もちろん男子トイレ、あと個室。

 服もさっき買ったものに着替えた事だし、さっさと次に行くとしよう。


「ふーん」


「悪かった。流石にやりすぎた」


「それは、もう意味が違うよね、()りすぎたの」


「……悪い」


「……反省しているの?」


「……ああ」


「じゃあ、許す。もう、次からは気を付けてね」


「ああ」


 と、お兄ちゃんがこんな感じなので、とりあえず和解ということで。

 さてと、そろそろお腹もすいて来たし、ご飯でも食べたいな。


「よし、じゃあ、お兄ちゃん、フードコート行こうフードコート」


 再びつなぎ直した手を引っ張り、フードコートまで、走って……は、いけないので、早歩きで行った。

 例の一悶着もあって、時間的には3時くらい。混んでいるとはいえ、もう時間帯的に座れないほどではない。

 席取ってから、それぞれ食べたいものを注文して、戻ってきた。まぁ、手を繋いでいたのもあって時間は倍かかってけど、食べている間は手を離さないといけないし、その分いいよね。


「あれ……もしかして、すみれ?」


 座って、お兄ちゃんと会話していたら、突然、後ろからそう声を掛けられた。


「あれ、その声は、まさか……」


 振り向いてみると、そこにはくれっちゃんがいた。


「あれ、くれっちゃんじゃん、どうしたのこんなところで」


「いや、ちょっと、用事があって……」


「へーそうなんだー」


「それで、すみれ……その男の人は誰?」


「え? ああ……」


 お兄ちゃんの事を言っているのだろう。あれ? すみれにはお兄ちゃんの子と話していなかったっけ?


「もしかして、彼氏……とか、言わないよね」


「え、いや、うん、違うよ。お兄ちゃんだよ、お兄ちゃん」


 なんか、くれっちゃんが少し怖かった。


「……本当に? 嘘、ついていないよね」


「うん、嘘なんかついていないけど……ど、どうしたの?」


 くれっちゃんがじーと見つめてくる。


「……嘘でしょ」


「え?」


「だから、嘘でしょ……」


 一息置いてから、くれっちゃんは言った。


「だって、すみれ、前言っていた。私のお兄ちゃんは足が上手く動かせないって、しかもそれが治らないって。なのに、その人は、全然大丈夫そうなんだけど。それはすみれが嘘をついているからじゃないの?」


 なんか、今までで一番怖いくれっちゃんを見た。

 それにしても、お兄ちゃんが足動かないことまで言っていたのか私。

あ、あれ? 私、もしかして、なんか追いつめられていない?


過去に起きた事。それはもう過去に起きた事だと、思うことなんて、いくらでもあるだろうに。それを思い出すとき、それが思い出なのか、呪いなのか、それともまた別の何かなのか。それは、本人にしか判断は出来ないだろう。

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