第五話 少し悪戯に微笑む
第5話まで来ました。
気まぐれな自分にしては珍しく続いている方だと思います。
このお話の結末までの大まかな流れが頭の中で完成いたしました。
しかしハッピーエンドかどうかは最後までのお楽しみということで。
病院を去ってから5時間程経った頃に私の携帯が音を立てた。
キッチンに立ち、スーパーで調達した食材や冷蔵庫の中身を整理していたので、手に持っていた牛乳パックを冷蔵庫に仕舞い、扉を閉めてからリビングへと向かう。
リビングへ向かう扉を押し開けると、自分の白いスマートフォンが目に入る。
テーブルの上にあるそれは、バイブが一定リズムで振動しながら震えている。
手に取り画面をチェックすると、初めて目にする番号が羅列していた。
やはり緩んでしまう頬を軽く手で押さえてから通話ボタンをタッチして応える。
「もしもし」
「蒼崎だ、今大丈夫か?」
「えぇ、平気よ」
「体調の方はどうだ」
「もう痛むところも無いし、すっかり元気よ。おかげさまで」
「それは良かった、近い内に食事でも行こう。行きつけの店があるんだ」
「それは楽しみだわ」
「来週の週末あたりはどうだ?」
「えぇと、少し待ってて」
携帯を左手で耳に当てたまま少し歩き、予定の書きこまれたカレンダーを覗く。
幸い来週の日曜日はこれといった用事は無かった。
「来週の日曜日よね、平気よ」
「わかった、じゃあまた連絡するよ。お大事に」
「えぇ。それじゃあ」
そう言って電話を切った。
通話時間2分26秒。短い時間ではあったが、何故か彼の声を聴くと僅かに心躍る自分がいた。
明日から通常通りの出勤なので今日は早めに休もうと考えていたところで、ふと気づく。
家から車で20分もかからない距離にあるわりと大きめのカフェで接客業をしているが、車をお釈迦にしてしまったので、足がないことを思い出した。
近くに地下鉄駅が無いのでバスで向かおうとも考えたが、折角なので徒歩で行こうと思った。少し歩いて運動しなければ、最近は病院で怠けていたので体重が危ない。近いうちに中古車屋で安い車を探そう。
かくして、待ちわびていた日曜日。
先日連絡があり、午後から休みをとれたとのことだったので病院近くのカフェで待ち合わせになった。
待ち合わせをしている時間の20分前に着いてしまい、紅茶を注文してスマホを確認する。メールが2通届いていた。
一つは美智子から、私の体調と近況を伺う内容であった。
退院して以来美智子とは都合が付かず顔を会わせていなかったので、近いうちに買い物に誘ってみようと思った。
もう一つは先ほど届いた恭介からであった。
今病院を出たところだからもうすぐこちらに着くという内容のメールだ。
「了解、気を付けて」とありふれた言葉を打ち込み、送信。
自分の髪を手で軽く直し、鏡を見て化粧が崩れていないか確認する。
服装が乱れていないかチェックし、足をぴっと閉じて座りなおす。
それから約5分後、時間ぴったりに恭介が来た。
アイボリーのチノパンに、薄い青色のYシャツを着こなしていた。流石。
「待たせたな」
「いいえ、時間ぴったりよ」
「いつからここに?」
「先程ついたところ」
「良かった」
少し冷めた紅茶を喉へ流し込み、席を立つ。
伝票を取ろうとするとまたしてもサッと先手を打たれてしまう。
「ちょっと」
「俺が待たせてしまったからな、気にするな」
「私が早く来ただけでしょうに」
「それでも待たせてしまったことには変わらない」
「…今度からは時間ぴったりに行くわ」
「そうしてくれ」
少し苦笑しながらレジへと向かう後ろ姿を追いかける。
外には雪が少し積もり、景色を白へと染めていた。
吐く息が少し白くなるのを見て、「もうそんな季節か」と心で呟く。
来月はクリスマスという決戦の日が潜んでいる。
「もうそんな時期か」
「え?」
「来月、クリスマスだろ」
「え、えぇ、そうね」
一瞬、自分の考えていたことが伝わってしまったのかと焦ったが、
当の本人は豆鉄砲をくらったような顔をしている私を見て不思議そうにして見ていた。
「予定あるのか?」
「いえ、特には…」
「そうか、寂しいな」
誘ってもらえるのではと少し期待したが、会話はそこで終わった。
少し悔しくて口を尖らせていると、
「…出かけるか?」
「え?」
「悪い、あまりにも反応が面白くて」
「なっ…からかったのね!」
ハハハ、と肩を揺らして笑っているのを見て少し腹が立ったので仕返ししてやろうと思ったが、何となく後が怖かったのでやめておこう。
この人と口論して勝てる気がしない。
しかし、その言葉を聞いて少し浮かれている自分も悔しい。
「あぁ、早くクリスマスが来ないかな」という言葉は心の中に留めておこう。