銀の暗礁
掲載日:2026/03/10
するり、と彼女の後頭部の上で、シルバーのネイルが付いた指を滑らせる。艷やかな黒い髪は、わたしが触れたことなど何でもなかったかのようで、先ほどと同じようにただ枕の上にあった。
「…何。頭撫でるなんて、あんたらしくない」
「まあ、いいじゃん。たまにはさ。」
間接照明が、彼女の白い素肌を照らしている。整った骨格から生み出される綺麗な肩は、こちらへ向き直ることはない。同じく素肌をさらしたままのわたしは、それ以上彼女に触れることをあきらめ、隣へ背中合わせで横になった。
もともと、そんなことは望んでいなかったはずだ。なのに、やはり欲しくなってしまった。こちらを、向いて欲しくなったのだ。
「…つぎ、いつにする。」
彼女が訊く。わたしは横になりながら、ベッドサイドのスマホに手を伸ばした。
「今週出張だから、2週間後の金曜日かな。」
了解、と短く返事をして、彼女は布団をかけ直す。
ああ、これでいいのだろう、わたしはもう手に入れているのだ。
大切なものさえ置き去りにすれば、わたしはもう、手に入れているのだ。




