第8話「問いかけ」
スキル授与式から、三ヶ月が経った。
あの日のことは、今でもはっきりと覚えている。
【?】という記録。
神官の困り顔。
そして、セレインという少女との、短い約束。
「また会いましょう」
たったそれだけの言葉が、なぜか頭から離れない。
……まあ、今はどうでもいい話だ。
俺は目の前の問題に集中した。
手のひらに、魔力を集める。
じわり、と温かみが広がる感覚。
そこまでは、もうできる。
問題は、その先だ。
「……」
集めた魔力を、手の甲に向けて移動させようとする。
途端に、霧が散るみたいにぼやけて、消える。
また失敗だ。
俺は小さく息を吐いて、もう一度やり直した。
父から教わったことを頭の中で繰り返す。
──魔力は、意志でしか動かない。
力むな。ただ、思え。
言葉にすると簡単に聞こえる。
でも実際は、「思う」ってどういうことなのかが、よくわからない。
念じるのとは違う。
集中するのとも、ちょっと違う。
なんというか……魔力そのものが、どこへ行きたいのかを、静かに聞いてあげる感じ。
俺がそう解釈して練習を始めたのは、授与式の帰り道のことだった。
「父さん、魔力って……自分で考えてたりしますか」
馬車の中で、そう聞いたとき、父さんは少し間を置いてから答えた。
「考えるとは違うが、性質がある。水が低いところへ流れるように、魔力にも向かいやすい方向がある」
「じゃあ、俺の魔力はどこに向かいたいんだろう」
父さんはそこで、珍しく少し目を細めた。
「……それを探すのも、修行のうちだ」
答えになっているのかいないのか。
でも不思議と、納得できた。
だから今日も、こうして探している。
手のひら。手の甲。
指先から、肘まで。
肘から、肩まで。
少しずつ、通り道を広げていく作業。
失敗しても、また集めて、また流す。
それだけを、何時間でも繰り返す。
庭の木が夕日に染まってきた頃、母さんが顔を出した。
「ジン、今日はもう終わりにしなさい。夕食よ」
「……うん、今日はここまで」
立ち上がると、膝に感覚がなかった。
ずっと座ったままだったから、しびれていたらしい。
よろけた俺を見て、母さんが苦笑いした。
「またそんなになるまで……。少しは休みなさいよ」
「休んだら、感覚が途切れる気がして」
「感覚?」
「魔力の、通り道みたいなやつ。なんか……つながりかけてる感じがするんですよね」
母さんはしばらく、俺の手を見ていた。
それから、ゆっくりと頷いた。
「……わかった。でも、食事だけはちゃんと食べること。いい?」
「はい」
家の中に入りながら、俺はもう一度、手のひらを見た。
まだ何も形にはなっていない。
スキルの正体も、このユニークスキルが何なのかも、まるでわかっていない。
でも、何かがある。
それだけは、確かだと思っていた。




