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生命を紡ぐもの~ユニークスキル【?】で神獣を創り上げるまで~  作者: 大輔


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第74話 卒業の朝

第74話 卒業の朝


 卒業式の朝は、よく晴れていた。


 窓から差し込む光が部屋の床に伸びている。俺はその中で目を覚まして、しばらく天井を見ていた。


 今日で学院生活が終わる。


 それはわかっていたはずなのに、朝になってみると妙な実感があった。四年間、毎朝この部屋で起きた。今日が最後だ。


「出てきていいぞ」


 収納の指輪に意識を向けると、ヒビたちが現れた。ヒビが肩に来て、パチが膝に乗った。ミズチが腕に巻きつき、ドロンが足元でのしのしと歩く。カゼマルが「キィ」と鳴いて窓際に飛んだ。


「今日、卒業だ」


 誰も返事はしない。でもヒビが羽をゆっくりと動かして、温かさが伝わってきた。


「四年間、一緒にいてくれてありがとう」


 パチの尾の先が光った。ドロンが甲羅を俺の手に押しつけてくる。ミズチがひんやりとした鱗で腕をゆっくりと締めた。カゼマルが窓から飛んできて、頭の上に着地した。


 全員がそれぞれの形で、応えてくれていた。


 卒業式は午前中に行われた。


 四年生全員が中央広場に集まり、院長が壇上で話した。長い話だったが、あまり頭に入らなかった。俺はただ前を向いて、隣に並ぶレオとライルとノールの存在を感じていた。


 名前を呼ばれて壇上に上がり、卒業証書を受け取った。


 たったそれだけのことが、なぜか胸に重く残った。


 式が終わったあと、四人で中央広場に残った。ほかの生徒たちが家族と話したり写真を撮ったりしている中で、俺たちは特にそういうこともなく、ただ並んで立っていた。


「終わったな」とレオが言った。


「ああ」


「なんか、あっけないな」


「そうか? 俺は長かった気がする」


「どっちもだろ」とノールが言った。「長くて、あっけない」


 ライルが静かに頷いた。


 しばらく誰も喋らなかった。広場の木が風に揺れて、葉の音がした。


 レオが突然、俺の肩を叩いた。


「ジン、冒険者になったらどこ行くんだ」


「まずは王都の冒険者ギルドに登録する。Eランクから始めて、少しずつ上げていく」


「そっか。俺は家に戻るけど、絶対また会えるだろ」


「会えるよ」


「ライルは騎士団か。かっこいいな」


「まだ入れるかどうかわからない」


「入れるって。決勝見てたやつ全員そう思ってるはずだ」


 ライルが少し黙った。それから、珍しく素直に言った。


「……そうだといいな」


 また笑いが起きた。


 ノールが手帳を取り出した。


「最後に一つだけ記録させてくれ」


「何を」


「今日の日付と、四人がここに立っていたこと」


 誰も止めなかった。ノールが静かに書いた。それから手帳を閉じて、空を見上げた。


「またいつか、集まれるといいな」


「集まろう」とレオが言った。「俺が場所を用意する」


「お前の家か」とライルが言った。


「当主補佐になったら、それくらいできる」


「なれるといいな」


「なれるよ!」


 レオが笑い飛ばした。ライルが小さくため息をついた。


 それから四人で、それぞれの方向へ歩き出した。


 俺は寮に戻って荷物をまとめた。父からもらった片手剣、ナイフ四本、替えの服、最低限の道具。収納の指輪の中にはヒビたちがいる。


 荷物は少なかった。身一つで来て、身一つで出ていく。でも四年前よりは、確実に重くなっている。技術も、絆も、経験も。目に見えないものが、全部自分の中に詰まっている。


 寮の廊下を歩いて、正門に向かった。


 門を出るとき、少しだけ振り返った。


 石造りの校舎。中央広場の木。対抗戦の演習場。セレインとの練習場所だった空き地。訓練場の朝。ノールと並んで過ごした時間。


 全部、ここにあった。


 俺は前を向いて、歩き出した。


 冒険者ギルドの受付は、想像より賑やかだった。


 朝から依頼を受けに来た冒険者たちが行き交っていて、話し声と足音が混ざり合っている。俺は列に並んで、順番を待った。


「学院卒業ですね。初期ランクはEからになります。まず登録証を作りますので、少々お待ちください」


「はい」


 登録証が作られるのを待ちながら、ギルドの中を見渡した。掲示板に依頼書が並んでいる。ランクごとに色が分かれていて、Fの白から始まってEの黄色、Dの緑、Cの青と続いていた。


 父さんはSSランクだった。


 どこまで行けるかはわからない。でも、行けるところまで行く。


「お待たせしました」


 受付の女性が登録証を差し出した。俺の名前が刻まれた小さな金属板。ランクはE。


 登録証を受け取って、掲示板の前に立った。Eランクの依頼を一枚手に取る。魔物の素材採取。王都の近郊エリアで、危険度は低い。まずはここから始める。


 指輪を右手で握った。


 ヒビたちがいる。それだけで、どこへでも行ける気がした。


 俺は依頼書を持って、ギルドの扉を出た。


 朝の光が道いっぱいに広がっていた。


 ここから先が、本当の始まりだ。


 その夜、宿に戻った俺はヒビたちを出した。


 旅籠の小さな部屋。学院の寮より狭くて、調度品も最低限だ。でも悪くなかった。


 ヒビが肩に乗る。パチが床に丸まった。ミズチが荷物の上で静かにとぐろを巻いている。ドロンが部屋の隅でのっそりと首を伸ばした。カゼマルが「キィ」と小さく鳴いて、窓枠に着地した。


「初日、終わったぞ」


 依頼は無事に終わった。魔物の素材採取、Eランクの仕事。拍子抜けするほど簡単だったが、それでいい。まずは積み上げることだ。


「これから先、どんな依頼が来るかわからない。強い魔物にも当たるだろうし、思いどおりにいかないこともあるだろう」


 ヒビが羽を動かした。温かさが伝わってくる。


「でも、一緒に行こう」


 パチの尾の先が光った。ドロンが甲羅を床に落ち着けた。ミズチが静かに首を持ち上げた。カゼマルが翼を小さく広げた。


 全員が、ここにいる。


 学院の四年間が終わった。でも終わりじゃない。


 ヒビたちと一緒に、俺はまだ見ぬ場所へ向かっていく。


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